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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

綱渡り

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 わたしとレイナの剣幕に押されてクロートはたじろいだ。
 幽閉されてすぐ解放なんて、嬉しいけどこちらの気持ちを考えて欲しい。


「お、落ち着いてください」
「落ち着けません! 貴方はそうやっていつもいつももったいぶるではありませんか! 」


 前々から自分のことをあまり話さない男だが、今日という今日は許せない。


「これは仕方がないのです。時間もありませんので歩きながら説明します。シルヴィもお待ちですので」
「……分かりました」

 お父さまの名前を出されたらこちらも黙って従うしかない。
 三人でお父さまがいる城まで歩く。
 一体何のためにこんなことをするのか。
 レイナも全く聞かされていないようなので、お父さまからクロートに指示があったのだろう。


「今回、姫さまがシルヴィの命令を無視しましたことで、ここもすごく揉めたのですよ。幽閉するか、もっと大きな罰を与えるか」
「うっ……」

 おそらく隠れていたヨハネの派閥がここで大きく出てきたのだろう。
 それにレティアを推す派閥もいる。
 城の中は様々な利権が蠢いている。
 援軍で来たクロートが疲れていたのは、その相手をしていたせいかもしれない。


「ただ姫さまが動いてくれるのはこちらとしても助かる側面がありました。亜魔導アーマーを使える学生は強力な戦力になりますので、足りない人員を補ってくれました。わたしたちもどうにか色々な観点から不問とするべきではないか、と舌戦をしたのです。もちろん、姫さまはわたしたちの努力なんぞ、知らないのでしょうが」
「ご、ごめんなさい」

 なんだかものすごく悪いことをした気がしてきた。
 シュンと体が小さくなる。

「でも幽閉を一瞬だけする意味はあったのですか? マリアさまだって、女の子です。これからしばらく一人であの大きな離宮で過ごすことを考えたら。不安で押し潰されかけてましたよ」
「それは仕方ありません。本来は一生をあそこで過ごしてもらうつもりでしたから」

 衝撃の事実を突きつけられて、わたしとレイナの足が止まった。
 クロートに、行きますよ、と言われたことで足が何とか動いた。
 レイナはまだ頭が混乱しているわたしの代わりに聞いてくれた。

「えっと、どういうことです? 」
「シルヴィの命令を無視したことを覆すのは無理です。もっと特別な特例か、もしくは同じ権力を持った者、つまりはドルヴィやシルヴィの言葉がなければですね。ですが姫さまはドルヴィの騎士団長すら勝てなかったエンペラーを討伐しました。その噂は、至る所に広がっております。特にボアルネでは姫さまの人形がかなり売られているそうですよ。ちなみにこれがそうです」


 クロートは手のひらサイズの人形を出した。
 綿で作っているのでもふもふしている。
 デフォルメされているが、わたしにそっくりだ。
 いつの間にこんなものを作ったのだろう。
 たぶん、作った人は人形作りに人生を掛けている人だろう。
 レイナが人形を見て怪訝な顔をした。

「これ……、ラケシスの部屋で見たことがあるのですが」
「それはそうでしょう。ラケシスさまが作ったものを量産したのですから。昨日、最終確認をしてもらいました」


 クロートは済ました顔で言う。
 前言撤回。
 ラケシスはわたしに人生を掛けているようだ。
 こんなものを作らずとも毎日会っているではないか。
 彼女のことを深く知れば知るほど残念になってくる。

「それもあって、今は姫さま人気がかなり高いのですよ。さらにはシスターズに入っている令嬢たちはどの方も大貴族です。その方たちの後押しもあれば、おいそれと姫さまを軟禁なんてできません」
「ちょっと待ってください。エンペラーを倒したのは昨日ですよ? いくらなんでも噂が広まるのが早すぎませんか?」

 レイナの言う通りだ。
 さすがに先を読むクロートだけでどうにかできるものでもない。

「ヨハネさまに初めて感謝しました」
「ヨハネ? 彼女が何かしたのですか?」
「エンペラーの噂をすぐさま広めたのと、王族に何か言ったのでしょう。ドルヴィから直々に通信が来ました。今回の件は、ドルヴィが姫さまにエンペラー討伐を依頼したので意向に逆らえなかったのだ、とね」
「ドルヴィ? 全く記憶がないのですが……」

 わたしの全く知らない情報が次から次へと入ってくる。
 その中でもわからないのがドルヴィの話だ。

「これもヨハネさまでしょう。姫さまをどういうわけか守ってくれたようです。ただヨハネさまのことですから、裏があることは間違いないですがね」

 クロートの言う通りだ。
 だがそれでも彼女には少しは感謝しないといけない。

「ですが姫さまがシルヴィに敵対するかどうかの危険性については意見が分かれました。姫さまに叛意がないことを確かめるために、ここまで抵抗なく従うか見るのが一番です。それで証拠となる光の柱も立ったので、姫さまを疑う声も小さくなるでしょう。ただ、パラストカーティには冷や汗をかかされました。もう少しで全ての努力が水泡に帰すところでしたからね」


 予想以上に綱渡りだった。
 わたしがもしパラストカーティの手を取ったら、完全に決別だったみたいだ。
 まだまだわたしの運は健在のようだ。
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