169 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
綱渡り
しおりを挟む
わたしとレイナの剣幕に押されてクロートはたじろいだ。
幽閉されてすぐ解放なんて、嬉しいけどこちらの気持ちを考えて欲しい。
「お、落ち着いてください」
「落ち着けません! 貴方はそうやっていつもいつももったいぶるではありませんか! 」
前々から自分のことをあまり話さない男だが、今日という今日は許せない。
「これは仕方がないのです。時間もありませんので歩きながら説明します。シルヴィもお待ちですので」
「……分かりました」
お父さまの名前を出されたらこちらも黙って従うしかない。
三人でお父さまがいる城まで歩く。
一体何のためにこんなことをするのか。
レイナも全く聞かされていないようなので、お父さまからクロートに指示があったのだろう。
「今回、姫さまがシルヴィの命令を無視しましたことで、ここもすごく揉めたのですよ。幽閉するか、もっと大きな罰を与えるか」
「うっ……」
おそらく隠れていたヨハネの派閥がここで大きく出てきたのだろう。
それにレティアを推す派閥もいる。
城の中は様々な利権が蠢いている。
援軍で来たクロートが疲れていたのは、その相手をしていたせいかもしれない。
「ただ姫さまが動いてくれるのはこちらとしても助かる側面がありました。亜魔導アーマーを使える学生は強力な戦力になりますので、足りない人員を補ってくれました。わたしたちもどうにか色々な観点から不問とするべきではないか、と舌戦をしたのです。もちろん、姫さまはわたしたちの努力なんぞ、知らないのでしょうが」
「ご、ごめんなさい」
なんだかものすごく悪いことをした気がしてきた。
シュンと体が小さくなる。
「でも幽閉を一瞬だけする意味はあったのですか? マリアさまだって、女の子です。これからしばらく一人であの大きな離宮で過ごすことを考えたら。不安で押し潰されかけてましたよ」
「それは仕方ありません。本来は一生をあそこで過ごしてもらうつもりでしたから」
衝撃の事実を突きつけられて、わたしとレイナの足が止まった。
クロートに、行きますよ、と言われたことで足が何とか動いた。
レイナはまだ頭が混乱しているわたしの代わりに聞いてくれた。
「えっと、どういうことです? 」
「シルヴィの命令を無視したことを覆すのは無理です。もっと特別な特例か、もしくは同じ権力を持った者、つまりはドルヴィやシルヴィの言葉がなければですね。ですが姫さまはドルヴィの騎士団長すら勝てなかったエンペラーを討伐しました。その噂は、至る所に広がっております。特にボアルネでは姫さまの人形がかなり売られているそうですよ。ちなみにこれがそうです」
クロートは手のひらサイズの人形を出した。
綿で作っているのでもふもふしている。
デフォルメされているが、わたしにそっくりだ。
いつの間にこんなものを作ったのだろう。
たぶん、作った人は人形作りに人生を掛けている人だろう。
レイナが人形を見て怪訝な顔をした。
「これ……、ラケシスの部屋で見たことがあるのですが」
「それはそうでしょう。ラケシスさまが作ったものを量産したのですから。昨日、最終確認をしてもらいました」
クロートは済ました顔で言う。
前言撤回。
ラケシスはわたしに人生を掛けているようだ。
こんなものを作らずとも毎日会っているではないか。
彼女のことを深く知れば知るほど残念になってくる。
「それもあって、今は姫さま人気がかなり高いのですよ。さらにはシスターズに入っている令嬢たちはどの方も大貴族です。その方たちの後押しもあれば、おいそれと姫さまを軟禁なんてできません」
「ちょっと待ってください。エンペラーを倒したのは昨日ですよ? いくらなんでも噂が広まるのが早すぎませんか?」
レイナの言う通りだ。
さすがに先を読むクロートだけでどうにかできるものでもない。
「ヨハネさまに初めて感謝しました」
「ヨハネ? 彼女が何かしたのですか?」
「エンペラーの噂をすぐさま広めたのと、王族に何か言ったのでしょう。ドルヴィから直々に通信が来ました。今回の件は、ドルヴィが姫さまにエンペラー討伐を依頼したので意向に逆らえなかったのだ、とね」
「ドルヴィ? 全く記憶がないのですが……」
わたしの全く知らない情報が次から次へと入ってくる。
その中でもわからないのがドルヴィの話だ。
「これもヨハネさまでしょう。姫さまをどういうわけか守ってくれたようです。ただヨハネさまのことですから、裏があることは間違いないですがね」
クロートの言う通りだ。
だがそれでも彼女には少しは感謝しないといけない。
「ですが姫さまがシルヴィに敵対するかどうかの危険性については意見が分かれました。姫さまに叛意がないことを確かめるために、ここまで抵抗なく従うか見るのが一番です。それで証拠となる光の柱も立ったので、姫さまを疑う声も小さくなるでしょう。ただ、パラストカーティには冷や汗をかかされました。もう少しで全ての努力が水泡に帰すところでしたからね」
予想以上に綱渡りだった。
わたしがもしパラストカーティの手を取ったら、完全に決別だったみたいだ。
まだまだわたしの運は健在のようだ。
幽閉されてすぐ解放なんて、嬉しいけどこちらの気持ちを考えて欲しい。
「お、落ち着いてください」
「落ち着けません! 貴方はそうやっていつもいつももったいぶるではありませんか! 」
前々から自分のことをあまり話さない男だが、今日という今日は許せない。
「これは仕方がないのです。時間もありませんので歩きながら説明します。シルヴィもお待ちですので」
「……分かりました」
お父さまの名前を出されたらこちらも黙って従うしかない。
三人でお父さまがいる城まで歩く。
一体何のためにこんなことをするのか。
レイナも全く聞かされていないようなので、お父さまからクロートに指示があったのだろう。
「今回、姫さまがシルヴィの命令を無視しましたことで、ここもすごく揉めたのですよ。幽閉するか、もっと大きな罰を与えるか」
「うっ……」
おそらく隠れていたヨハネの派閥がここで大きく出てきたのだろう。
それにレティアを推す派閥もいる。
城の中は様々な利権が蠢いている。
援軍で来たクロートが疲れていたのは、その相手をしていたせいかもしれない。
「ただ姫さまが動いてくれるのはこちらとしても助かる側面がありました。亜魔導アーマーを使える学生は強力な戦力になりますので、足りない人員を補ってくれました。わたしたちもどうにか色々な観点から不問とするべきではないか、と舌戦をしたのです。もちろん、姫さまはわたしたちの努力なんぞ、知らないのでしょうが」
「ご、ごめんなさい」
なんだかものすごく悪いことをした気がしてきた。
シュンと体が小さくなる。
「でも幽閉を一瞬だけする意味はあったのですか? マリアさまだって、女の子です。これからしばらく一人であの大きな離宮で過ごすことを考えたら。不安で押し潰されかけてましたよ」
「それは仕方ありません。本来は一生をあそこで過ごしてもらうつもりでしたから」
衝撃の事実を突きつけられて、わたしとレイナの足が止まった。
クロートに、行きますよ、と言われたことで足が何とか動いた。
レイナはまだ頭が混乱しているわたしの代わりに聞いてくれた。
「えっと、どういうことです? 」
「シルヴィの命令を無視したことを覆すのは無理です。もっと特別な特例か、もしくは同じ権力を持った者、つまりはドルヴィやシルヴィの言葉がなければですね。ですが姫さまはドルヴィの騎士団長すら勝てなかったエンペラーを討伐しました。その噂は、至る所に広がっております。特にボアルネでは姫さまの人形がかなり売られているそうですよ。ちなみにこれがそうです」
クロートは手のひらサイズの人形を出した。
綿で作っているのでもふもふしている。
デフォルメされているが、わたしにそっくりだ。
いつの間にこんなものを作ったのだろう。
たぶん、作った人は人形作りに人生を掛けている人だろう。
レイナが人形を見て怪訝な顔をした。
「これ……、ラケシスの部屋で見たことがあるのですが」
「それはそうでしょう。ラケシスさまが作ったものを量産したのですから。昨日、最終確認をしてもらいました」
クロートは済ました顔で言う。
前言撤回。
ラケシスはわたしに人生を掛けているようだ。
こんなものを作らずとも毎日会っているではないか。
彼女のことを深く知れば知るほど残念になってくる。
「それもあって、今は姫さま人気がかなり高いのですよ。さらにはシスターズに入っている令嬢たちはどの方も大貴族です。その方たちの後押しもあれば、おいそれと姫さまを軟禁なんてできません」
「ちょっと待ってください。エンペラーを倒したのは昨日ですよ? いくらなんでも噂が広まるのが早すぎませんか?」
レイナの言う通りだ。
さすがに先を読むクロートだけでどうにかできるものでもない。
「ヨハネさまに初めて感謝しました」
「ヨハネ? 彼女が何かしたのですか?」
「エンペラーの噂をすぐさま広めたのと、王族に何か言ったのでしょう。ドルヴィから直々に通信が来ました。今回の件は、ドルヴィが姫さまにエンペラー討伐を依頼したので意向に逆らえなかったのだ、とね」
「ドルヴィ? 全く記憶がないのですが……」
わたしの全く知らない情報が次から次へと入ってくる。
その中でもわからないのがドルヴィの話だ。
「これもヨハネさまでしょう。姫さまをどういうわけか守ってくれたようです。ただヨハネさまのことですから、裏があることは間違いないですがね」
クロートの言う通りだ。
だがそれでも彼女には少しは感謝しないといけない。
「ですが姫さまがシルヴィに敵対するかどうかの危険性については意見が分かれました。姫さまに叛意がないことを確かめるために、ここまで抵抗なく従うか見るのが一番です。それで証拠となる光の柱も立ったので、姫さまを疑う声も小さくなるでしょう。ただ、パラストカーティには冷や汗をかかされました。もう少しで全ての努力が水泡に帰すところでしたからね」
予想以上に綱渡りだった。
わたしがもしパラストカーティの手を取ったら、完全に決別だったみたいだ。
まだまだわたしの運は健在のようだ。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる