上 下
154 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

謎の手紙

しおりを挟む
 セルランを見送った後、お父さまの話を聞くことになった。

「すまないな。彼の力が今は頼りなんだ」
「いいえ、わたくしが役に立てない以上はセルランにお願いするしかありませんもの」
「うむ、魔物についてはわたしに任せて、二人には領主候補生たちと連携を取って騒ぎを起こさないようにしてくれ」
「畏まりました。直ちにやらせていただきます」

 お父さまとの通信も終わり、部屋には静寂が訪れた。
 息をゆっくり吐いて、次に何をするべきかを考える。

「レティアはジョセフィーヌ領の学生を食堂へ集めておいてください。今は各領土で危険な状態だから帰省するのは禁じてください。それと上級生たちには下級生たちの面倒をお願いしてください」
「分かりました!」

 レティアはすぐに自分の側近たちに指示を飛ばした。
 わたしも次の指示を飛ばした。

「ディアーナ、レイナ、ラケシスは領主候補生たちを全員を会議室まで呼んでください。わたくしから彼らに直接指示を与えます。呼び出しにはわたくしの名前を使って強制させなさい。どんなことよりも最優先であることを忘れないように」


 三人とも走り出した。

「一度わたくしは自室に戻ります。リムミントとアスカはこの通信の魔道具でもっと詳しい情報を集めておいてください」

 二人も了承して、水晶に手をやっていた。
 わたしは一度部屋まで戻る。
 こういう緊急時の対処について一度考える必要がある。

「ステラ、定刻になったら呼んでください。それまで集中したいので」
「かしこまりました。病み上がりなのですからあまり無茶をしませんように」

 ステラの忠告も聞きながら、一度状況を書き出すため、引き出しの中にあるペンを取り出そうとした。
 そこで手紙のことを思い出した。

「そういえば、手紙が光っていましたわね」

 わたしは手紙を手にとって、読んでみた。


 三領土で魔物が大発生している。
 原因は伝承を復活させたせいだ。
 これは試練である。
 変化を起こした者には、それ相応の変化の代償を受け止めなければならない。
 もし自分に当主という自覚があるのなら決断せよ。
 犠牲を出したくないのなら、犠牲を出さない方法を考えるしかない。
 貴女はもうすでに知っているはずだ。
 願わくば最後の決断をわたしにさせないでくれ。


「なぜわたくしが今知った情報をこの手紙の主は分かっているの? これは学生ではないの?」


 この手紙は一体誰が送っているのか。
 最後の決断とは一体何なのだ。
 わたしは未来を本当に変えているのか?


「わたしがもうすでに知っている? 」


 この手紙の言いたいことを推測しようとするが全くわからない。
 一旦この手紙を置いて、まずはすべきことを洗い出した。
 そして指示すべき内容も固まっていく。

「姫さま、お時間です。そろそろ会議室へむかいましょう」


 時間がないため没頭していた。
 ステラの声で一度思考を中断して、会議室へ向かった。
 もうすでに各領主候補生が集まっていた。

「みなさん、よく来てくださいました」
「一体何事ですか? ここまで緊急で呼び出すなんて」

 カオディがおどおどしながら聞いてくる。
 わたしの名前で強制召喚したので、何か悪いことをしたと思ったのかもしれない。
 親譲りのビビリであるようだ。
 だがそんなことは今は無視だ。

「先ほど、シルヴィ・ジョセフィーヌから通信がきました。わたくしが伝承を復活させた影響か、各領土で大量の魔物が発生したそうです。それに加えて、群れを率いるボスがいるみたいで、シルヴィの騎士団長であるグレイルが一体の魔物と戦って相討ちとなり、瀕死の重傷になったようです」


 全員が目を見開いて驚愕した。
 グレイルの強さは、ジョセフィーヌの血を継いでいるので上級貴族の魔力よりもさらに上だ。
 もちろん本人の才能もあり、セルランがいなければジョセフィーヌ最強の騎士だ。
 そのグレイルが瀕死になるほどの敵がまだ二体も残っている。

「パラストカーティでは他の領土よりも騎士の魔力が低い。ただちに帰らねば」
「ダメです。メルオープ座りなさい」

 メルオープは席から立ち上がろうとしたが、わたしはきつい目を向けてその行動を止めた。

「何故ですか! 」

 メルオープは納得いかないようで、わたしを睨み返した。
 その目を見たヴェルダンディとルキノがトライードをメルオープの首にやった。

「メルオープさまとはマンネルハイムで仲良くなりましたが、マリアさまにその目を向けることだけは許さない」
「わたくしも同感です。たとえ領主候補生といえども、マリアさまのお言葉に背く権利はありません」

 メルオープはゴクリと息をのんでいた。
 初めてこの二人から殺気を受けたのだろう。
 わたしの側近は伊達や酔狂ではなれない。
 護衛騎士には実力と品格、そしてわたしへの忠誠が求められる。


「メルオープ、貴方の気持ちは分かりますがーー」
「マリアちゃーん、入ってもいいかしら?」

 部屋の外から聞きたくもない声が聞こえてきた。

「ヨハネ……、ステラ、入れなさい」

 扉を開けて、ヨハネが入ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...