上 下
151 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

ガントレット

しおりを挟む
 ウィリアノスさまは騎獣に乗って、空高く上った。
 そして大きく手を振って、拍手に応えていた。
 すると一人の騎士が空まで上った。
 黒い鎧を身につけているのは、ディアーナの恋人であるエルトだった。


「お久しぶりです、ウィリアノスさま」
「騎士祭ではこちらが勝手に観ていたがな、エルト。学生の時よりもさらに腕を上げたと見える。だが負けるつもりは毛頭ない。勝負だ、エルト!」


 ウィリアノスさまは楽しそうにエルトに勝負を吹っかけた。
 エルトも楽しそうであり、大きく頷いた。

「もちろんです。では試合で合間見えましょう」

 エルトはまた降りていって、自軍へと戻っていた。

「エルトさんとウィリアノスさまか。今日はやっぱりエルトさんの勝ちかな」
「いいえ、ウィリアノスさまなら何か秘策があるはずです。わたくしはウィリアノスさまを信じています」

 たとえ学生であるウィリアノスさまとはいえ、何も策がなく挑むわけがないだろう。

 試合開始前に選手全員が神への奉納を済ませた。
 そして各自戦闘準備を始めて、審判の合図を待った。

「王領vsスヴァルトアルフ領の戦いを始める。マンネルハイムはじめえええ!」

 両チームが一斉に動き始めた。
 エルトを含めた五人チームが誰もよりも早く進んでいく。
 地面を駆けているのにも関わらず空を飛ぶ王領とそこまで速さが変わらない。
 そのエルトを待ち受けているのは同じく五人チームを組んだウィリアノスさまだ。
 どちらも先制の攻撃をするため全力で進んでいたので、最初の攻防となった。

「所詮は土竜だな。動きが遅い!」

 ウィリアノスはニヤリと笑ってエルトへ剣を振り抜いた。
 だがエルトは難なくその剣を受け流して、そのままウィリアノスさまを無視した。
 他の騎士たちも同じく受け流して、まるでウィリアノスさまを無視しているかのように突進を続けた。

「まさか!」

 ウィリアノスさまは攻撃を受け流されたことよりも自分を無視したことの意味に気付いた。
 すぐさま追撃をしようと反転したが、土竜の動きは加速した。
 体型を細くしていき、貧相な体に変わっているが、それはつまり無駄な魔力を減らしたということだ。

「急げ! このまま行かせるな!」

 ウィリアノスさまも魔力を最小限にして速度を上げようとしたが、スヴァルトアルフの騎士たちが行く手を阻んだ。
 ウィリアノスさまたちを完全に無力化した。

「各自、最初の作戦は成功した! 狙うは指揮官だ! 」
「了解!」

 だがその先にはまだまだ王領の騎士たちがいる。
 流石に五人では全員を倒すことなど不可能なはずだ。


「使うぞ」

 エルトたち五人は腕に付けているガントレットに魔法を載せていた。

「あれって! アリアのブレスレット!?」

 アリアが作ったブレスレットがもうすでにエルトたちに渡っていた。
 下僕が使ったことで、アリアが作ったことを知ったのだろう。

「間違いないですね。アリアさまかクロート、もしくは自分でないとあれは製造工程が分からないはずです」


 下僕もあれはアリアが作ったブレスレットだと言っている。
 そしてエルトたちは魔力を体に付与した。
 二人分の身体強化が合わされれば、それは常人を超えた何かだろう。
 セルランは三人分の強化までは耐えた。
 エルトたちは二人分の強化が限界であるようだ。

「時間を掛ければこちらの負けだ! これを逃せば負けだと思え!」

 一斉に襲いかかるが、強化を二重にしている騎士たちにバッタバッタとなぎ倒されていく。
 スピードもあまりにも早く、人形を攻めていた者たちでは遠すぎて全く追いつけない。
 味方の援護もあり、誰からも邪魔されることなく、エルトは指揮官の元へ辿り着いた。

「速すぎる……。だがここで負けるわけにはいかない!」

 指揮官はトライードを持ち出して、最後の抵抗をする。
 しかしエルトの剣は残像を残しながら、トライードを弾き飛ばした。
 反応すら許さず、首にそっとトライードを当てた。

「審判、試合終了のコールをしていただけますかな?」
「しょ、勝者、スヴァルトアルフ領!」


 観客から一斉に拍手が起こった。
 おそらくはこれまでで最速の試合だっただろう。
 お互いの騎士の力量に差はなかった。
 一つの魔道具で戦力に差が出来てしまっただけだ。

「くそ!」

 ウィリアノスさまは悪態を吐いていた。
 いいようにあしらわれて悔しそうだ。
 エルトはウィリアノスさまに近づいた。

「あの時俺のところまで挨拶しに来たのは、俺と対決すると見せかけるためだったんだな」


 エルトは静かに頷いた。

「はい。ウィリアノスさまが迎撃に出てくるのは分かっていました。それなら前におびき出せば、あとは後ろの仲間に任せることができます」
「っち、アリアの道具か。まさかお前たちがもうすでに手に入れているとはな」
「アリアさまは大変素晴らしい物を作ってくださいました。マリアさまとアリアさまが仲良く手を取り合ってくれたからこそです」


 エルトはガントレットを撫でて、その有り難みを深く感じているようだ。
 使い手が良ければその分道具も効力を増す。

「ふん、今回は負けたが次回はそうはならない。アリアからこちらも貰っておこう」
「ウィリアノスさまでしたら、マリアさまからいただけるのでは?」
「作っているのはアリアなのだから、アリアから貰った方が確実だろう? どうせマリアは魔力を込めただけだろう」

 ドキッと心臓が鳴った。
 確かにそのとおりであるが、少しばかり頼られないのが寂しくもあった。


「行きましょうか……」
「……マリアさま」

 下僕が不安そうに見るので空元気で笑顔を向けた。
 わたしは二人を連れてコロシアムから出たのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】公爵子息の僕の悪夢は現らしいが全力で拒否して大好きな婚約者を守りたい

宇水涼麻
恋愛
 公爵家の次男ボブバージルは、婚約者クラリッサが大好きだ。クラリッサの伯爵邸にも遊びに行き、クラリッサの家族とも仲がいい。  そんな時、クラリッサの母親が儚くなる。  喪が開けた時、伯爵が迎えた後妻はとても美しく、その娘もまた天使のようであった。  それからのボブバージルは、悪夢に襲われることになる。クラリッサがいじめられ、ボブバージルとクラリッサは、引き裂かれる。  さらには、ボブバージルの兄が殺される。  これは夢なのか?現なのか?ボブバージルは誰にも相談できずに、一人その夢と戦う。  ボブバージルはクラリッサを救うことはできるのか?そして、兄は? 完結いたしました。 続編更新中。 恋愛小説大賞エントリー中

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。) 私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。 婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。 レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。 一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。 話が弾み、つい地がでそうになるが…。 そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。 朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。 そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。 レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。 ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。 第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...