悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

ガーネフは動く

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 レティアから予想外の単語が聞こえた。
 自分もシスターズを復活させたので、人のことを言えないがなぜまたそんなことを始めたのか。


「よくご存知ですね。まだ先日発足したばかりですのに」

 アクィエルは意外そうにレティアを見た。
 レティアは人懐っこいので、情報を集めやすいのかもしれない。
 笑顔を絶やさず、レティアは答えた。

「アクィエルさまの噂なら黙ってても聞こえてきますから」
「マリアさんばかりが人気ではありませんからね。わたくしもそれなりにありますのよ」


 胸を張って答えているが、わたしは競ってはいない。
 ただ本人が満足しているので下手なことは言わないでおこう。
 しかしこれはおだてるチャンスでもある。

「流石です、アクィエルさん。アクィエルさんなら姉として誰よりも尊敬されると思います。わたくしも負けてはいられませんね」


 ピクッとアクィエルの鼻が動いた。
 予想以上に今の言葉が効いたようで、先程より鼻が高くなっている。
 そこでカオディが口を挟んでくる。

「いやいや、マリアさまの会は評判が良いと妹も言っております。エリーゼがお茶会をどれほど楽しみにーー」
「お兄さま、今はお言葉をお慎みください」


 エリーゼが何かしたのか、カオディはビクッと体が動いた。
 小さな声で痛い、と言っていたので、足でも摘んだのだろう。
 研究以外では役に立たないことがわかったので、今は静かにしておいてください。


「マリアさまはどうしてシスターズを復活させたのですか?」


 ヨハネが楽しそうに聞いてきた。
 わたしの知らず知らずのうちにそのような会だと認識されただけなので、無くせるものなら無くしたい。
 だがそんなことを今更にでも言えば、傷付く者もいるだろう。

「最初はわたくしを慕ってくれる信用できる者が欲しかったからですわ。でも今は違います。妹たちはわたくしのために頑張ってくれますので、大変助かっております。だからわたくしから少しでも返していきたいと思っております」
「マリアさま……」

 エリーゼが感激してわたしを見てくる。
 本心でもあるので、嘘は言っていない。

「流石はマリアさまですね。大変素晴らしいお考えです」

 ヨハネはどこか含みのある笑いしていた。
 おそらく手違いで起きたことに気付いている。
 手のひらで遊ばれている感もあるが、特に何か言うわけでもないようだ。


「むー、流石はマリアさん。そこまでお考えだったのですね」


 アクィエルは何故だか感心している。
 前々から思っていたがこの子は少しばかり扱いやすい。
 ヨハネの小さな声が不意に聞こえてきた。

「ガーネフちゃんも少しは話しなさいよ」
「えっ、ぼくがですか?」
「当たり前ですよ。上位領地の男性は貴方だけなのだから、引っ張る気概を見せなさい」

 どうやらガーネフに話題を振るように言っているようだ。
 あまり目立つタイプではないガーネフなので、いきなりの提案に困惑しているようだ。

「分かりましたよ、義姉上。えっと、メルオープさま」
「……うむ」


 二年生のガーネフは真剣な眼差しでメルオープを見ていた。
 メルオープは四年生であり、ガーネフより二歳年上にもかかわらず緊張が見える。
 ゴクリとメルオープが唾を飲み込み喉を鳴らした。
 ガーネフをよく知らない者たちも同じく次の言葉を緊張して待っていた。
 ガーネフは本人の自覚がある通り目つきが悪く、普段から怒っているような印象を受けるが、彼はなかなか面白いキャラなのだ。


「ご趣味は何ですか?」
「……え」
「ちょっとガーネフちゃん面白すぎ! お見合いじゃないんだから、もう少しラフに話しなさいよ」


 ヨハネに突っ込まれてガーネフは顔を赤く染めていた。
 可哀想に、ヨハネに弄ばれて。
 思ってもみなかった言葉にメルオープも唖然としていた。
 いつもパラストカーティとビルネンクルベを止める役を担ってくれているので、メルオープからしたらあまり良い印象はないだろうが、普段の堂々とした立ち振る舞いとは違い、シャイな子なのだ。
 お詫びの品を持っていくことが何度も続いたので、わたしが直々に持っていったこともあり、彼の本当の姿を知っている。

「しゅ、趣味か。そうだな、わたしの趣味はマンネルハイムだな」

 まさかここで正直に答えるとは思ってもおらず、ヨハネは肩を震わせている。
 どうやらよっぽどツボにはまったようだ。
 レティアがコソッと話しかけてくる。

「ガーネフさまって可愛らしい方ですね」
「殿方にそのようなことは言ってはいけませんよ。傷付く方もいらっしゃるようですから」


 あまりいじめてあげないように、とレティアにアドバイスを授けた。
 どうも男というのはプライドが高すぎて困るが、扱いやすいところでもあるので、イーブンだろう。
 答えてくれたのが嬉しいのかガーネフは笑っているが、目つきが悪いので少し不気味だ。

「マンネルハイムですか、魔法祭と騎士祭は凄かったですものね。まさかどちらも優勝をもぎ取っていくなんて」
「あれは全てマリアさまのおかげだ。しかしアクィエルさま率いるそなたたちも手強かった。このルージュがいなければ、ルブノタネ殿には負けていただろう」
「いえ、そんな。メルオープさまが体力を削ってくれたおかげです。それにカオディさまたちが作られた鎧がなければ戦いにすらならなかったです」
「ほう、そうだろうそうだろう。あれは我ら英知のーー」
「ふん、今に見ておけ。今後はアクィエルさまからあの鎧を頂けばこのルブノタネが一番になる」

 男たちでマンネルハイムの件でどんどん盛り上がり始めた。
 まさかあれほどいがみ合っていたパラストカーティとビルネンクルベが喧嘩以外で話すなんて。
 そこからは男性全員でマンネルハイムの戦略論とかの話になった。
 完全に女性陣を置いてけぼりだ。

「むぅ、なんか男子ばかり楽しそうね。そういえば腕の良い職人が生まれてこのドレスを作ってもらいましたの」


 ヨハネは手を合わせて、自分のドレスを見るように言ってきた。
 女性陣は全員が食いついた。
 わたしも気になっていたのだ。
 独特のハリと光沢があったので、新しいものだと思ったのだ。
 ヨハネの思い通りになるのは嫌だが、ドレスに罪はない。
 完全に男女別れてのお茶会へと変わっていった。
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