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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
アリア視点、水神と風神の会合
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わたしの名前はアリア・シュトラレーセと申します。
いきなりですが、大変なことが起きたようです。
「これとこの情報はすぐに集めない。ヨハネさまの動きは特にわかる範囲で調べること。マリアさまの情報は特に慎重に集めなさい、警戒されるようなことだけは絶対にしてはいけませんよ」
ラナが指示を飛ばしていく。
文官たちが忙しなく情報を集めだしている。
それはわたしたちは絶対に逃してはいけない、今後を左右する恐れがあるためだ。
わたしと姉のラナは一緒の部屋でずっと待機している。
情報の時間差を作らないためだ。
ラナは何度も報告書を読みながら、次の報告を落ち着かない気持ちで待っているようだ。
最初は噂程度だと思っていた。
ジョセフィーヌ領とゼヌニム領がお茶会をしようとするなんて、これまでの常識から絶対に無いものだと思っていたからだ。
机の上にある紅茶も飲まれないまま、いつの間にか冷めてしまっている。
「お姉さま、あまり頑張り過ぎると倒れてしまいますよ」
ラナはそこでやっとわたしを見てくれた。
それもそうね、と報告書を置いて紅茶を飲むと、冷たい……、という感想をこぼした。
「……ふぅ、こういう時は早く時間が経ってほしいと思いますね」
ラナが珍しく愚痴をこぼした。
今回のことはしっかり報告するように、お父さまたちからも厳命されている。
そのため、ラナは少しでもより良い情報を集めようとしているのだ。
「ねえ、シスターズでも何か情報は来てないの?」
マリアさまをお慕いする者だけで構成される女性の会のことだ。
非公式ではなく、マリアさま自ら作られた正式な集まりだ。
先日、マリアさまを抜いたシスターズだけで集まって、カナリアさまから協力の依頼がきた。
それは、ジョセフィーヌとゼヌニムのお茶会の発端となったユリナナさまの恋が絡むので、他にも同じように苦しんでいる方がいないかを探すことだ。
各領土が暴れ始めているのでマリアさまも躊躇いがあるらしく、かなり大変だと聞く。
後押しをするため、他にも領地間による対立の被害者を探しているのだ。
だがわたしではそういった情報は集められなく、守秘義務もあるためこの前話し合ったことはここでは言えない。
「申し訳ございません。わたしのとこには何も……」
「そう……」
ラナに嘘をつくことは良心が痛むが、言っていい情報ではないので固く口を閉ざした。
「やはりジョセフィーヌ領とゼヌニム領の仲が深まることは大きな影響を及ぼすのですか?」
大きな内乱が原因で、完全に関係がこじれたと聞いている。
もしここで仲が深まるのならば良いことではないのかと思っている。
だがラナは単純にそう捉えてはいないようだ。
「おそらくね……、まだ情報が少なすぎて何とも言えないけど。二人の存在感はこの王国院では群を抜いているわ。いつだって話題の中心にいるマリアさまが動かれているのなら、何か起きる可能性が大きい。それにもしスヴァルトアルフに押し止まらずにゼヌニムの支援を受けたら、これからの時代の主役は間違いなくジョセフィーヌ領へと向かいます。そうするとわたしたちは先を読んでジョセフィーヌ領と交流を深めないといけません。今は上位領地ですが、モタモタしているとそれも限りではなくなるかもしれません」
わたしはなるほど、と頷いた。
実際スヴァルトアルフも一気に順位を伸ばしたので、他の領土もそうならない保証はないのだ。
わたしも紅茶を飲もうとすると、ドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。
部屋の前にいる護衛騎士から、文官の入室の許可を聞かれた。
ラナが許可すると、慌てた様子で入ってきて、報告を始めた。
「大至急報告致します。本日、マリアさまがアクィエルさまと同室で授業を受けられていると噂が広がっております! 」
わたしとラナは顔を見合わせた。
「それの何が大変ですか?」
ラナも状況を掴めていない。
それなら特に問題ないのではないかと思ったがそうではなかった。
「どうやら、二人の会話を盗み聞きしたものによりますとーー」
マリアさまがアクィエルさまの席まで向かっていき、
「今日はお隣りいいかしら? 先日お茶会をした仲ですから構いませんよね?」
と話しかけ、誰もが断ると思っていたアクィエルさまが、
「ええ! 構いませんわよ!」
と快諾したとのこと。
あまりにも信じられない話に、わたしとラナは固まってしまった。
二人の仲の悪さを知っている者なら絶対に有り得ない光景だ。
正直実際に見るまでは信じられない。
「いったい何をされるつもりなのか……、その授業はもう終わったのですか?」
「いえ、まだ半分の時間が過ぎた程度です。ですが、かなりの野次馬たちが教室の外で待ち構えているみたいです」
どうやら誰もがこの二人に注目しているようだ。
「何が目的かわかりませんが、わたしたちも向かいます。アリアもきなさい」
「わ、わかりました!」
これから向かえばギリギリ授業が終わる時に着くだろう。
急ぎ足で二人が授業を受けている教室へ急いだ。
そこには多数の生徒たちが部屋の周りを囲んでいた。
「これほどとは……、あそこにいるのは」
ラナは教室の近くにいる一人の人物に気が付いた。
シュティレンツの領主候補生であるカオディがいた。
彼ならば今回マリアさまが成そうとしていることを知っているかもしれない。
「御機嫌よう、カオディさま」
ラナが声を掛けた。
あちらは教室に目を集中させていたため、こちらの声掛けでやっと気が付いた。
「ん……、これはラナさま!? これは、その……、サボっているわけではありませんぞ!」
いきなり挙動不審になっていた。
どうやら魔法祭でラナに絞られたことでトラウマになっているようだ。
「別にそんなことは聞いておりません。それよりも貴方なら今回マリアさまが何をしようとしているのかご存知なのではないですか?」
「えっ……、ああ、そのことか。残念だが何もしらない。エリーゼも何も聞いていないのだろ?」
「大変申し訳ございません」
エリーゼもわたしと同じシスターズに入っている子だ。
一時期、マリアさまを貶めようとした臣下のせいで心を深く傷つけたと聞いている。
マリアさまからも今回のことは責めないよう言われていた。
わたしも同じようにマリアさまを傷付けかけたので、彼女にシンパシーを感じる。
「やはり誰も情報を持っていないのね。そうするとシスターズでは誰も知らないかもしれませんね」
「いえ、そうではないようです」
エリーゼが即座に否定した。
誰か知っている人がいるのか。
「わたしたち以外のシスターズで知っている方とは誰ですか?」
「ご友人でもある、カナリアさまが一緒に授業を受けております。これほどの人だかりもカナリアさまとセレーネさまが噂を広めたと聞いております」
セレーネさまという方は初めて聞いたが、おそらくはマリアさまのご友人なのだろう。
「そうするとこれはわたしたちに何か知らしめるため? いったいーー」
あたりが騒ついた。
どうやら授業が終わったみたいで、二人が別々の出口から通路に出てきた。
アクィエルは外に出ると人の多さに怪訝な顔をした。
「騒々しいと思ったら、どういうつもりですの、マリアさん?」
マリアさまも来ている野次馬たちを見て満足そうな顔をしていた。
「あらあら、何かお祭りですか? それよりもわたくしアクィエルさんにお願いがありましたの」
扇子を広げて優雅に廊下を歩き始めた。
その両隣には、カナリア様とおそらくはセレーネさまと呼ばれる方が並ばれている。
対する向こうも大貴族のご友人を並ばれて、扇子を広げた。
「水神と風神の会合か。まるで嵐だな」
カオディがかなり失礼なことを言っているのでひと睨みすると、同時にエリーゼも普段では考えられないほど怖い顔をしていた。
カオディは小さな悲鳴をあげて、口を両手で塞いだ。
これでうるさい声も無くなって目の前のことに集中できる。
「それで、お願いってなんですの?」
「それはここでは何ですので、もっと広い、大聖堂の神の前で隠し事なくお話をしましょう。ただのお話ですので、来てくださいますよね?」
「……ええ、いいですわよ」
アクィエルさまの探るような目に気付いていないかのように先頭で歩いていく。
ラナがボソッと呟いた。
「流石はマリアさまね」
わたしがどこで感心したのかとラナを見ていると、ラナが気付いて教えてくれた。
「大貴族の友人を含む大勢の前で、あのようなお願いをしたのです。もし断られたら完全にマリアさまの面目を潰してしまいます。これが下の者でしたら何も問題ないですが、対等な五大貴族同士でそのようなことをしたら、国を割った戦いが起きるかもしれません。あの場ではああするしかアクィエルさまも仕方なかったのです」
「だがマリアさまの狙いは何だ?今回お茶会を開くのになぜこのような会を設けるんだ?」
「それは大聖堂で分かるのでしょう。アリア、行きますわよ」
わたしたちは大聖堂へと向かい、時代の変化を肌で感じることになった。
いきなりですが、大変なことが起きたようです。
「これとこの情報はすぐに集めない。ヨハネさまの動きは特にわかる範囲で調べること。マリアさまの情報は特に慎重に集めなさい、警戒されるようなことだけは絶対にしてはいけませんよ」
ラナが指示を飛ばしていく。
文官たちが忙しなく情報を集めだしている。
それはわたしたちは絶対に逃してはいけない、今後を左右する恐れがあるためだ。
わたしと姉のラナは一緒の部屋でずっと待機している。
情報の時間差を作らないためだ。
ラナは何度も報告書を読みながら、次の報告を落ち着かない気持ちで待っているようだ。
最初は噂程度だと思っていた。
ジョセフィーヌ領とゼヌニム領がお茶会をしようとするなんて、これまでの常識から絶対に無いものだと思っていたからだ。
机の上にある紅茶も飲まれないまま、いつの間にか冷めてしまっている。
「お姉さま、あまり頑張り過ぎると倒れてしまいますよ」
ラナはそこでやっとわたしを見てくれた。
それもそうね、と報告書を置いて紅茶を飲むと、冷たい……、という感想をこぼした。
「……ふぅ、こういう時は早く時間が経ってほしいと思いますね」
ラナが珍しく愚痴をこぼした。
今回のことはしっかり報告するように、お父さまたちからも厳命されている。
そのため、ラナは少しでもより良い情報を集めようとしているのだ。
「ねえ、シスターズでも何か情報は来てないの?」
マリアさまをお慕いする者だけで構成される女性の会のことだ。
非公式ではなく、マリアさま自ら作られた正式な集まりだ。
先日、マリアさまを抜いたシスターズだけで集まって、カナリアさまから協力の依頼がきた。
それは、ジョセフィーヌとゼヌニムのお茶会の発端となったユリナナさまの恋が絡むので、他にも同じように苦しんでいる方がいないかを探すことだ。
各領土が暴れ始めているのでマリアさまも躊躇いがあるらしく、かなり大変だと聞く。
後押しをするため、他にも領地間による対立の被害者を探しているのだ。
だがわたしではそういった情報は集められなく、守秘義務もあるためこの前話し合ったことはここでは言えない。
「申し訳ございません。わたしのとこには何も……」
「そう……」
ラナに嘘をつくことは良心が痛むが、言っていい情報ではないので固く口を閉ざした。
「やはりジョセフィーヌ領とゼヌニム領の仲が深まることは大きな影響を及ぼすのですか?」
大きな内乱が原因で、完全に関係がこじれたと聞いている。
もしここで仲が深まるのならば良いことではないのかと思っている。
だがラナは単純にそう捉えてはいないようだ。
「おそらくね……、まだ情報が少なすぎて何とも言えないけど。二人の存在感はこの王国院では群を抜いているわ。いつだって話題の中心にいるマリアさまが動かれているのなら、何か起きる可能性が大きい。それにもしスヴァルトアルフに押し止まらずにゼヌニムの支援を受けたら、これからの時代の主役は間違いなくジョセフィーヌ領へと向かいます。そうするとわたしたちは先を読んでジョセフィーヌ領と交流を深めないといけません。今は上位領地ですが、モタモタしているとそれも限りではなくなるかもしれません」
わたしはなるほど、と頷いた。
実際スヴァルトアルフも一気に順位を伸ばしたので、他の領土もそうならない保証はないのだ。
わたしも紅茶を飲もうとすると、ドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。
部屋の前にいる護衛騎士から、文官の入室の許可を聞かれた。
ラナが許可すると、慌てた様子で入ってきて、報告を始めた。
「大至急報告致します。本日、マリアさまがアクィエルさまと同室で授業を受けられていると噂が広がっております! 」
わたしとラナは顔を見合わせた。
「それの何が大変ですか?」
ラナも状況を掴めていない。
それなら特に問題ないのではないかと思ったがそうではなかった。
「どうやら、二人の会話を盗み聞きしたものによりますとーー」
マリアさまがアクィエルさまの席まで向かっていき、
「今日はお隣りいいかしら? 先日お茶会をした仲ですから構いませんよね?」
と話しかけ、誰もが断ると思っていたアクィエルさまが、
「ええ! 構いませんわよ!」
と快諾したとのこと。
あまりにも信じられない話に、わたしとラナは固まってしまった。
二人の仲の悪さを知っている者なら絶対に有り得ない光景だ。
正直実際に見るまでは信じられない。
「いったい何をされるつもりなのか……、その授業はもう終わったのですか?」
「いえ、まだ半分の時間が過ぎた程度です。ですが、かなりの野次馬たちが教室の外で待ち構えているみたいです」
どうやら誰もがこの二人に注目しているようだ。
「何が目的かわかりませんが、わたしたちも向かいます。アリアもきなさい」
「わ、わかりました!」
これから向かえばギリギリ授業が終わる時に着くだろう。
急ぎ足で二人が授業を受けている教室へ急いだ。
そこには多数の生徒たちが部屋の周りを囲んでいた。
「これほどとは……、あそこにいるのは」
ラナは教室の近くにいる一人の人物に気が付いた。
シュティレンツの領主候補生であるカオディがいた。
彼ならば今回マリアさまが成そうとしていることを知っているかもしれない。
「御機嫌よう、カオディさま」
ラナが声を掛けた。
あちらは教室に目を集中させていたため、こちらの声掛けでやっと気が付いた。
「ん……、これはラナさま!? これは、その……、サボっているわけではありませんぞ!」
いきなり挙動不審になっていた。
どうやら魔法祭でラナに絞られたことでトラウマになっているようだ。
「別にそんなことは聞いておりません。それよりも貴方なら今回マリアさまが何をしようとしているのかご存知なのではないですか?」
「えっ……、ああ、そのことか。残念だが何もしらない。エリーゼも何も聞いていないのだろ?」
「大変申し訳ございません」
エリーゼもわたしと同じシスターズに入っている子だ。
一時期、マリアさまを貶めようとした臣下のせいで心を深く傷つけたと聞いている。
マリアさまからも今回のことは責めないよう言われていた。
わたしも同じようにマリアさまを傷付けかけたので、彼女にシンパシーを感じる。
「やはり誰も情報を持っていないのね。そうするとシスターズでは誰も知らないかもしれませんね」
「いえ、そうではないようです」
エリーゼが即座に否定した。
誰か知っている人がいるのか。
「わたしたち以外のシスターズで知っている方とは誰ですか?」
「ご友人でもある、カナリアさまが一緒に授業を受けております。これほどの人だかりもカナリアさまとセレーネさまが噂を広めたと聞いております」
セレーネさまという方は初めて聞いたが、おそらくはマリアさまのご友人なのだろう。
「そうするとこれはわたしたちに何か知らしめるため? いったいーー」
あたりが騒ついた。
どうやら授業が終わったみたいで、二人が別々の出口から通路に出てきた。
アクィエルは外に出ると人の多さに怪訝な顔をした。
「騒々しいと思ったら、どういうつもりですの、マリアさん?」
マリアさまも来ている野次馬たちを見て満足そうな顔をしていた。
「あらあら、何かお祭りですか? それよりもわたくしアクィエルさんにお願いがありましたの」
扇子を広げて優雅に廊下を歩き始めた。
その両隣には、カナリア様とおそらくはセレーネさまと呼ばれる方が並ばれている。
対する向こうも大貴族のご友人を並ばれて、扇子を広げた。
「水神と風神の会合か。まるで嵐だな」
カオディがかなり失礼なことを言っているのでひと睨みすると、同時にエリーゼも普段では考えられないほど怖い顔をしていた。
カオディは小さな悲鳴をあげて、口を両手で塞いだ。
これでうるさい声も無くなって目の前のことに集中できる。
「それで、お願いってなんですの?」
「それはここでは何ですので、もっと広い、大聖堂の神の前で隠し事なくお話をしましょう。ただのお話ですので、来てくださいますよね?」
「……ええ、いいですわよ」
アクィエルさまの探るような目に気付いていないかのように先頭で歩いていく。
ラナがボソッと呟いた。
「流石はマリアさまね」
わたしがどこで感心したのかとラナを見ていると、ラナが気付いて教えてくれた。
「大貴族の友人を含む大勢の前で、あのようなお願いをしたのです。もし断られたら完全にマリアさまの面目を潰してしまいます。これが下の者でしたら何も問題ないですが、対等な五大貴族同士でそのようなことをしたら、国を割った戦いが起きるかもしれません。あの場ではああするしかアクィエルさまも仕方なかったのです」
「だがマリアさまの狙いは何だ?今回お茶会を開くのになぜこのような会を設けるんだ?」
「それは大聖堂で分かるのでしょう。アリア、行きますわよ」
わたしたちは大聖堂へと向かい、時代の変化を肌で感じることになった。
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