上 下
121 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

ユリナナの恋の話

しおりを挟む
 夕食を終えてから一度わたしの部屋でレティアから話を聞くことになった。
 最近はお茶会をやっていないので情報がかなり遅れてしまっている。
 お茶会の大事さを再認識しつつ、レティアにユリナナの話を聞いた。

「ごめんなさいね。もうすぐ就寝の時間なのに」
「いいえ、お姉さまはいつも忙しそうですからこれで少しでも助けになるようなら構いません」

 なんていい子なんだろう、と嬉しく思った。
 レティアは口を開き始めた。

「お姉さまは、もし想いを寄せている人が仲の悪い他領だったらどうしますか?」

 ものすごく難しい内容だ。
 わたしは少し考えて答えた。

「そうね。どうしても結婚は政略的に行われることもあるから、普通は結婚自体無理ね。もし結婚できたとしても、お互いの家がどちらの領土からも責められて、あまり良いことにはならないでしょうね。だから諦める……それがもっとも現実的でしょうね」
「それがもしウィリアノスさまであってもでしょうか?」

 そう、そこが一番難しい。
 他人に言うにはいいが、自分に置き換えたらかなり苦しいことだろう。
 そしてレティアが言いたいことがわかった。


「わたくしでは耐えられませんね。つまりユリナナさんも同じ状況に陥っているのですね」
「はい。ユリナナさまはゼヌニム領の方をお慕いしているそうです」


 それは本当に厳しい。
 特にゼヌニム領だとその後の領地間の仲をさらに悪くする可能性がある。
 ヨハネが嫁いでいるが、彼女は自分からそこへ行きたいと言ったから送り出したに過ぎない。
 ヨハネを心配するのは馬鹿らしいため考えなかったが、それによって今回のように裏から手を回されたのだ。

「なるほど。そうすると、ユリナナさんはどうしてもゴーステフラートをゼヌニムの庇護下に入れたいのですね」

 ユリナナをどうすればこちらにゴーステフラートを残したままでも良いと思わせられるか。
 わたしはレティアの悲しそうな顔に気付いた。

「大丈夫ですか?」
「……はい。ただ考えたのです。もし仮にわたくしが恋する相手がゼヌニム領の方だったら、どのようにこの想いを秘めればいいのかと」


 レティアはいい子だ。
 人の痛みを自分のことのように考えられる。
 わたしがやるしかない。
 そう思ってすぐにレティアの背中をさすった。

「大丈夫です。わたくしがどうにかします。すぐにそんな垣根なんて吹っ飛ばします」

 レティアはわたしの力強く握った拳をみて笑ってくれた。

「最近のお姉さまはまるで殿方のようなお言葉を言われますね」

 レティアは笑った。
 少しは安心してくれたようだ。

「ですが、最近のお姉さまの方が何倍も好きです。また何かお手伝いできることがあったら言ってください。こちらでも出来るだけ情報を集めますので」
「ありがとう、レティア。この件が終わったら、久々にどこかへ遊びに行きましょうか」
「まあ、それはすごく楽しみです。お姉さまならすぐに解決してくれることを信じています。どうか水の加護がお姉さまにあらんことを」


 レティアから情報をもらってすぐわたしはユリナナをお茶に誘った。
 すぐにこちらに返事が来て、誘いに応じてくれた。
 バラ園で少しでも気持ちを落ち着かせながらと思っていると、そこには先客がいた。
 わたしが嫌いな女ランキングを不動の一位で守っているアクィエルだ。


「あら、マリアさんではないですの。奇遇ですね」


 アクィエルも取り巻きたちとお茶会を開いており、バラ園に入ったわたしに気が付いたようだ。

「ええ、まさか時間が被ってしまうなんて。わたくしは少し遠くでお茶会をしますので御機嫌よう」
「あらそうですね。それでどなたとお茶会しますの?」
「ユリナナさんとです」

 隠していてもどうせすぐに来てバレるので教えてあげた。
 するとキョトンとしていた。


「あら珍しい組み合わせね。そうすると、ゴーステフラートの件ですね。よろしい、ならわたくしも混ぜなさい!」


 わたしは耳が悪くなったのかもしれない。
 今アクィエルは何と言った?
 わたくしも混ぜなさい、と言いました?
 今のは幻聴かもしれない。
 だって今自分のお茶会のために取り巻きを集めたのに、自分だけ他のお茶会に行くなんて、たとえアクィエルでも非常識なことはしないだろう。
 そうだ、これは幻聴だ。
 わたしは振り返って、聞き返すことにした。

「大変申し訳ございません。もう一度ーー」
「「アクィエルさま、本日は楽しいお茶会ありがとうございました。マリアさまとのお茶会を楽しんでくださいませ」」

 解散している!?
 全員微笑ましくこちらを見て去っていった。
 少しばかり目眩がしてきた。

「姫さま、お気を確かに」



 ステラが支えてくれてどうにか倒れずに済んだ。
 わたしの気持ちがわかるのかステラもサラスも憐憫な目でわたしを見ている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完 モブ専転生悪役令嬢は婚約を破棄したい!!

水鳥楓椛
恋愛
 乙女ゲームの悪役令嬢、ベアトリス・ブラックウェルに転生したのは、なんと前世モブ専の女子高生だった!? 「イケメン断絶!!優男断絶!!キザなクソボケも断絶!!来い!平々凡々なモブ顔男!!」  天才で天災な破天荒主人公は、転生ヒロインと協力して、イケメン婚約者と婚約破棄を目指す!! 「さあこい!攻略対象!!婚約破棄してやるわー!!」  ~~~これは、王子を誤って攻略してしまったことに気がついていない、モブ専転生悪役令嬢が、諦めて王子のものになるまでのお話であり、王子が最オシ転生ヒロインとモブ専悪役令嬢が一生懸命共同前線を張って見事に敗北する、そんなお話でもある。~~~  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

【完結】転生した悪役令嬢の断罪

神宮寺 あおい
恋愛
公爵令嬢エレナ・ウェルズは思い出した。 前世で楽しんでいたゲームの中の悪役令嬢に転生していることを。 このままいけば断罪後に修道院行きか国外追放かはたまた死刑か。 なぜ、婚約者がいる身でありながら浮気をした皇太子はお咎めなしなのか。 なぜ、多くの貴族子弟に言い寄り人の婚約者を奪った男爵令嬢は無罪なのか。 冤罪で罪に問われるなんて納得いかない。 悪いことをした人がその報いを受けないなんて許さない。 ならば私が断罪して差し上げましょう。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

前世の記憶を思い出したら、なんだか冷静になってあれだけ愛していた婚約者がどうでもよくなりました

下菊みこと
恋愛
シュゼットは自分なりの幸せを見つける。 小説家になろう様でも投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

婚約破棄された侯爵令嬢は、元敵国の人質になったかと思ったら、獣人騎士に溺愛されているようです

安眠にどね
恋愛
 血のつながらない母親に、はめられた主人公、ラペルラティア・クーデイルは、戦争をしていた敵国・リンゼガッド王国へと停戦の証に嫁がされてしまう。どんな仕打ちを受けるのだろう、と恐怖しながらリンゼガッドへとやってきたラペルラティアだったが、夫となる第四王子であり第三騎士団団長でもあるシオンハイト・ネル・リンゼガッドに、異常なまでに甘やかされる日々が彼女を迎えた。  どうにも、自分に好意的なシオンハイトを信用できなかったラペルラティアだったが、シオンハイトのめげないアタックに少しずつ心を開いていく。

処理中です...