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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

亀裂

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 ピエールの熱血授業から回復したわたしはレティアと共に食堂へと向かった。

「もうビックリしました。あまり無理をするとまた倒れますよ?」


 レティアは可愛らしくそう言った。
 わたしは微笑ましく思いながら、ふと今日は服装に力が入っていることに気付いた。

「今日は何か予定がありますの?」

 わたしがそう聞くとレティアは少し暗くなった。

「はい。今年入った領主候補生たちとお茶会をする予定です。ゴーステフラートも誘ったので来てくれるようですが、シュティレンツと仲が悪くなっているようなので、問題がなければいいと思っております」


 ゴーステフラートは今非常に不安定な場所にいる。
 順位は上がったが、ジョセフィーヌとゼヌニムの間で揺れ動いているので、仲間とも敵ともいえる。

「そうですね。でももう少しの辛抱です。わたくしが絶対にヨハネから取り戻します。姉として約束しますね」

 わたしはなるべく元気付けるためそう言ったら、レティアの顔は先ほどよりも明るくなった。

「お姉さまがそう言ってくれるなら安心です」

 その時、騒がしい声がこちらまで聞こえてきた。
 どうやらどこかで喧嘩しているらしく、この寮内ならジョセフィーヌが管理する三領土のどこかだ。

「見過ごせませんわね。レティア、当主一族として止めるわよ」
「はい……」


 レティアはまだこういった喧嘩の仲裁はしたことないだろうから、わたしが手本を見せないといけない。
 しばらく廊下を進むと、数人の男女がお互いに睨み合っていた。
 マントの色から、ゴーステフラートとシュティレンツだとわかった。
 シュティレンツの男がトライードを取り出して、今にも殺傷が起きそうな予感がした。

「貴方達、喧嘩はおやめなさい」

 わたしが声をあげたことで全員の注目がこちらに集まった。
 誰一人例外なく固まってしまい、一人が私の名前を口にした。

「ま、マリアさま!?」


 その言葉で全員が我に返って、姿勢を正して礼をした。

「王国院内での他領との喧嘩は禁止しております。特にトライードまで持ち出したとなると、殺傷の危険がありました。ですので、貴方だけは少し重い罰則を与えます。他の者も同じく罰則を与えるのでそのつもりでいてください」

 わたしは端的にそう言った。
 しかしトライードを持っている青年はそう思っていない顔をしている。

「マリアさま、どうかわかってください。この者たちはジョセフィーヌに仇なす領土です。これまでジョセフィーヌからたくさんの恩恵を受けながら、それを裏切るのですよ」

 必死な顔でそう言っているが、わたしは無条件でシュティレンツに肩入れする気はない。

「まだゴーステフラートはゼヌニムにいっておりません。今はそういった諍いをやめてください。貴方は少し興奮が過ぎますので、あなたとあなた、今回起きたことを述べなさい」

 わたしは両領土の女性を選んで今回の事の顛末を聞いた。
 まずはゴーステフラートからだ。


「はい、わたくしたちは図書館の本を借りようとしました。その時欲しかった本を見つけて借りようとしたのですが、シュティレンツの方々が来られて上級貴族の方が借りる権利があると無理やり奪おうとしたのです。ご存知だと思いますが、借りる権利は上級貴族の方が上です。ですが、我々はすでに七位まで上がって、上位領地の仲間入りです。そうなれば中級貴族であろうとも中位の領地の上級貴族とほとんど対等だと思っております」

 本の貸し出しは本来地位の高い貴族から優先的だ。
 暗黙のルールとして、上位の領地の場合にはその限りではなくなるなることがある。
 元々はどちらも中領地だったので普通のルールが適用されたが、ゴーステフラートは順位を二つもあげた。
 そうなると暗黙のルールが適用されるべきだと言っている。

「なるほどよくわかりました。シュティレンツ側の言い分はありますか?」

 女学生はもちろんです、と強く答えた。

「この頃のゴーステフラートは目に余ります。最近はマリアさまが我々のためにこれほど精力的に動いてくださるのに、魔法祭どころか騎士祭でさえ非協力的。それなのに権利ばかり主張するのはどう考えてもおかしい。どうかマリアさま、主人を裏切った者たちにこそ罰をお与えください」


 どちらも今の状況からくる不安に煽られている。
 だがここでわたしが不安になっては上に立つ者として失格だ。

「なるほど、両者の言い分は分かりました。ですが、喧嘩までしていい理由ではありません。ゴーステフラートは今の情勢ですので、もうしばらく事を荒げないようにしてください。シュティレンツは上位領地への対応がなっておりませんので、情勢関係なく一般的なルールに従ってください。お互いに燻るものがあると思いますが、両者手打ちとします。罰則は後日伝えますので、あとで代表者は呼び出します」


  まだお互いに納得はしていないようだがわたしの意見に逆らうつもりはないようだ。
 その時、護衛騎士を連れてユリナナが食堂へ行こうとしていた。
 ユリナナもこちらに気付いて、自領の者がいることに気付いたようだ。

「マリアさま、おはようございます。わたくしの領土の者が何かしましたでしょうか」


 わたしは今回起きたことを両者の観点から伝えた。
 ユリナナは頭を下げて謝罪した。

「マリアさまの手を煩わせて申し訳ございません」
「いいえ、何もなかったからよかったです。ゴーステフラートもわたくしの大事な領民です。お互いに非があったのですから、貴女が謝ることはありません。それにヨハネから取り戻す予定ですので、お互いの領土の仲が悪くなってはその後の経済にも大きな打撃が来ます。ユリナナさんも大変でしょうが、もうしばらく辛抱してください」


 わたしは心配をかけまいとそう言ったが、ユリナナはほんの少し表情が動いてすぐに戻した。

「心遣いありがたいですが、ゴーステフラートの総意はゼヌニム領に傾いております。どうかこれ以上の気遣いはゴーステフラートには不要です。わたくしはそうする意味と覚悟がありますので。ではこれにて失礼します」


 ユリナナは再度一礼して、ゴーステフラートの学生を連れて専用の食堂へ向かった。
 レティアが不安げにこちらを見ていた。

「ユリナナさまの噂は本当のようですね」
「噂? 何かありますの?」

 わたしはユリナナの噂を聞いてはいない。
 おそらくお茶会を何度か行ううちに知ったのだろう。

「あとでお部屋に伺いますので、その時話しますね」

 どうやらユリナナにはゼヌニムでないといけない理由があるようだ。
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