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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

わたくしの大事な女騎士

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 朝のまどろみの中にいると唐突に声が聞こえてきた。

「姫さま、そろそろ起きてくださいませ」

 サラスがわたしを起こすためやってきた。
 しかしわたしは目を覚ましており寝たフリをする。
 昨日夕方にステラの求婚の話を聞かされた。
 それ自体は喜ばしいことだが、素直に喜べない自分がいた。

 ……ステラはいなくなってしまうのですね。

 結婚後は騎士であった女性はほとんどが辞めてしまう。
 特にステラは他領へ嫁がないといけないため、その後はあちらでの風習や作法を学んだり、夫人としての気品を覚えなければならない。
 そうなるともう騎士には戻れないだろう。


「いい加減起きませんと、今日の課題は大目にしますわ」

 これ以上の寝たふりはできないようなので、ベッドから半身を起こした。

「おはよう、サラス」
「おはようございます。寝たふりまでしたのですから、もう気持ちの整理はつきましたか?」

 わたしは頬を膨らませて、意地悪なサラスを睨んだ。
 しかしサラスは意に介さず、テキパキと朝の紅茶を淹れて、カップを渡してきた。

「これをお飲みください。少しは落ち着きますでしょう」
「……いただきます」


 わたしは一口飲むと紅茶特有の味が口に広がる。
 暖かい飲み物は気持ちを落ち着かせてくれた。

「落ち着きました」
「それはようございました。では着替えましょう。ゆっくりステラとお話をするための準備をしますので」


 わたしの部屋の着替えも終わり、テーブルにお菓子と紅茶を用意して、一度ステラとお話をすることになった。

「入室失礼します」
「よく来てくれました。さあ座って」

 ステラは言われるままに席に座った。
 主人として、今回の求婚について話を聞かなければならない。
 二人でカップに口を付けて紅茶を楽しむ。
 おもむろにステラが口を開いた。

「姫さまはわたしとの出会いを覚えていますか?」

 忘れるわけがない。
 わたしが子供の頃は舞踏会が本当に嫌いで、よく抜け出していたのだ。
 その時、ステラはわたしを見ておくお目付役だったのでもちろんわたしを止め
 た。

「もちろんです。大変な舞踏会でした」

 わたしは頬に手をやってあの時の苦労を思い出した。
 ステラも同じように頬に手をやった。


「大変だったのはわたくしです。いつの間にか消えてしまったので、わたくしは自分の首の心配をしたのですから。昔は本当にお転婆姫でした」
「……うっ」

 あの時はかなりの騒動になったから、お父さまとお母さまからものすごく怒られて、罰としてサラスからとんでもない課題を積もられたのだ。
 わたしとステラは目が合って、急に笑いが込み上がってきた。
 お互いに笑いが終わり、わたしは本題を聞いた。

「ステラ、スフレ・ハールバランをご存知ですね」
「はい」
「貴女に求婚の話が来ていると聞いてますが、本当でしょうか?」
「はい。ずっと文通をしてから、実際に会って人となりを知りました」

 どうやらお互いにやりとりをしていたようだ。
 かなり忙しい時期だったのに、まさかそんな時間を持てるなんて、流石はステラだ。


「スヴァルトアルフの文官として代々仕える一族の長男だそうですね。これは、スヴァルトアルフとジョセフィーヌはお互いの領土間で関係が密になっているから、さらに相手に楔を打つためにする結婚ではございませんか?」


 前にラケシスがそう言ったことを示唆されることを言っていたので、念のために確認している。
 もしそうなら、ここで引き止めようと思ったが、ステラは首を横に振った。

「いいえ、姫さま。わたくしの意思で移ることを決めました」
「そう……。お相手のスフレさまはどのような方でしたか?」

 わたしはこのスフレという方を知らない。
 ステラは少し頬を染めて答えた。

「そうですね。わたくしも求婚は何度もありましたが、その中の方で一番わたくしを見ていてくれる方だと感じました。文通のあとは一緒にお食事をしたり、わたくしが話した好きな花のことを覚えてくれて、そしたらお花の耳飾りをいただきました」
「まあ……」

 ステラは耳から外してわたしに見せてくれた。

「小さなお星さまのようですね。これは何というお花なのですか」
「それが教えてくれませんでしたの。恥ずかしそうに渡してくれて、いつか教えていただきたいと思っています」


 わたくしはこういった物はウィリアノスさまから頂いていない。
 いつもドレスばかりなので、こういった小物が欲しいと思っていた。
 耳飾りはかなり精巧に作られているので、良い技師から作られたのだろう。

「良い方のようで安心しました。でも伝えておいてくださいね。もしわたくしのステラを泣かせるようなことをしたら許しませんと」
「クスッ、ええ伝えておきます」

 ステラは耳飾りを付け直した。
 そして真剣な目でわたしにこう言った。

「姫さま、これまでありがとうございました。もうしばらくは御身をお守りしますので、それまでよろしくお願いします」
「……ええ、もうしばらくよろしくね」

 わたしとステラのお話は今日はこれまでだった。
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