上 下
109 / 259
第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

騎士祭迫る

しおりを挟む
 ……頭が痛い。


 わたしは王国院に辿り着くまえから頭痛がしていた。
 少し疲れたかしら、と最初は軽く思っていたが次第に熱を帯び始めていた。
 まだ王国院でやらないといけないことは多いので、風邪くらいで休んでいる暇はない。
 それなのに頭が全く働かなくなってしまい、馬車を降りようとセルランの手を取ろうとしたが、その手はセルランではなく地面へと向かおうとした。

「マリアさま!」


 わたしが地面に倒れる前に支えてくれたのでどうにか無事だった。
 しかし身体の節々が痛いため、自力で立つことが難しい。
 目の前が霞んでおり、セルランに担がれる記憶を最後に意識が飛んだのだ。
 目を覚ましてみると見慣れたわたしの部屋であり、部屋ではレイナがわたしの世話をしてくれたようだ。
 レイナだってまだ帰ってきたばかりで疲れているだろうと考えて、今日の任を解こうと体を起こそうとしたが力が入らず、なかなか起き上がれない。

「マリアさま、無理はだめです。この頃は本当に目まぐるしく働いておりましたので疲れが出てしまったのでしょう。安静にしてください」

 レイナがわたしに水を飲ませてくれて、すぐにベッドに戻され大人しくするように言う。
 まだまだ熱が下がらず体がだるい。

「そういえば騎士祭……」
「マリアさま、今はお休みください」


 どうしても騎士祭が始まる前に少しでも士気を上げたいが、レイナは許してくれないようだ。
 わたしは早く治すために体の休養を取るようにした。
 しかし数日経ってもなかなか熱が完全に治らず、上がっては下がってを繰り化してとうとう五日目が過ぎた。


「何かの感染症というわけでもございませんし、この熱の原因がわかりません」

 女医を呼んで何度かわたしの状態を診てもらったが原因が全くわからない。
 少しずつ熱も下がってきているので、最初の時よりはだいぶましになっているが、流石に五日も熱が下がらないのは異常だ。
 だが下僕がある神々の話を調べたことでその原因がわかった。

「マリアさま、前にクロートに狼の眷属に会われたと仰いましたが間違いありませんね?」
「ええ、ふゔぇ……なんでしたっけ」
「姫さま、神の眷属の名前を、それもお助けくださった御方をお忘れになるなんて、不敬にも過ぎますよ」


 サラスはこめかみを抑えていた。
 しょうがない、噛みそうな名前なんだから。

「フヴェズルングですね。この眷属には逸話があります。昔からいたずらが多く水の神も手をこまねいていたそうですが、ある時水の神が危険な時には普段から考えられない知略を用いてこれを救ったそうです。もしマリアさまがこの力を借りたのなら、神に等しい力を受けたのだから少なからず体に悪い影響があるはずです」

 どうやらわたしには過ぎた力をお借りしたようだ。
 この熱くらいでこれほどわたしに力を与えてくれるのなら安すぎるくらいかもしれないが、今タイミングが悪すぎて自分の間の悪さを恨みたくなった。

「わざわざ調べてくれてありがとう。ところで研究所……」
「姫さま、レイナに言われませんでしたか? 今ここで長時間説教しますよ」

 わたしはむーっと頬を膨らませて抗議の目をサラスに向けるがどこ吹く風。
 命がかかっているのだから騎士祭で優勝をどうにかして目指したい。
 しかしどの側近もわたしの体調が戻るまでは騎士祭の情報を教えてくれないのだ。
 こちらに残っていたヴェルダンディたちとは面会謝絶と徹底している。
 彼らならずっと残っている分、今の現場から騎士祭でどのような結果が見込まれるかしれるのに。
 またわたしが何も関与しなかったことで、側近たちに無理をさせて大きな失敗を作ってしまうかもしれない。
 そういった不安があり、どうしても自分で直接目で見ないと心配でしょうがない。
 悶々とした日々が過ぎ、体調が早く治って欲しいと考えて、とうとう騎士祭当日になってしまった。


「お願いします! 今日だけは絶対参加させてください! 」

 わたしはサラスに思いの丈をぶつけた。
 ずっと眠っていたおかげでだいぶ体の調子もよい。
 熱も昨日で完全に治ったのだ。


「まだ病み上がりではありますからね。熱気ある騎士祭にお連れしても大丈夫かはお医者さまに診てもらってからの判断になります」

 その後女医がわたしの体を診てくれて、動き過ぎたり、興奮過ぎないようにすれば多少の見学なら大丈夫とのことだ。

「姫さま、今回は出場は諦めてくださいませ」
「マリアさまがいるのといないのでは、士気がかなり変わりますが致し方無いと思います」
「姫さまが観に来てくださるだけで選手のやる気が上がりますよ。姫さまの頑張りはわたくしが広めておきましたゆえ」

 レイナとラケシスもわたしが出場するのは反対のようだ。
 今回は純粋なマンネルハイムなので、指揮官を除いて侍従と文官は参加しない。
 騎士だけが己の腕で優劣を決めるのだ。


「わかりました。今日は見学だけにしておきます」


 わたしは仕方なく色々な条件を飲んでマンネルハイムが行われる訓練所へと向かったのだ。
 今回も色々な研究所が出店しているが、あまり長時間立っているのもダメらしいので見ることができない。

 ……アリアは研究大丈夫だったかしら


 わたしとクロートは王国院を長らく離れていたため、魔力協力ができていない。
 アリアは特に魔力消費量の大きな魔道具を使っているので、あまり大きく研究が進まなかったのはないだろうか。

「ねえ、レイナ。アリアは出店できていますか?」
「はい、無事出店できたそうです。マリアさまのご協力があったので大変助かりましたと報告がありました」
「協力? わたくし何かしたかしら。でも出店が出来たのなら良かったです」


 心配していたことが杞憂で済んで良かった。
 アリアならまたかなり良い物を作ってくれているだろうから、あまり心配はいらないのかもしれない。
 わたしは訓練所に着くと、五大貴族専用の席へと向かった。
 そこにはウィリアノスさまが先に座っていた。

「ウィリアノスさま!」

 ずっと王国院を離れていたためずっと心の奥底で会いたいと思っていた方と最初に出会えたので、わたしの気持ちは上がっていく。
 サラスから底冷えする声が聞こえてきた。

「落ち着きなさいませ、熱が出たと判断すれば戻りますからね」
「はい……」

 恋の情熱すら鎮静させるサラスの言葉で多少冷静になるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...