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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!
一歩ずつ
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わたしは眠っていてもブレないラケシスに少しばかり心が救われるようだ。
「では今後の方針ですが、まずは犯罪組織がどこに逃げたかを調べないといけませんわね。あとシナリオとしてーー」
「マリアさま、今日はそれくらいにしてください。かなりお疲れですし、情報集めはぼくが得意なのでやっておきます。どうか今日のところはお休みください」
「でも……」
「そうね情報集めは文官に一度お願いしましょう。それと全員一度退室してもらってもいいでしょうか。わたくしマリアさまと一度お話をしたいことがありますので」
「レイナ……?」
レイナのお叱りがあるのかな、と思って顔を見たが特に怒っている様子はない。
てっきりに勝手にしたことなのでかなり大きな雷が落ちると思っていた。
全員が了解して一度退席した。
ラケシスはもうしばらくすれば自分で起き上がるだろうから寝たままにしている。
部屋から出る前にセルランがクロートと下僕に声を掛けていた。
「二人に話がある。夜になったらわたしの自室に来てくれ」
「ええいいですとも」
「わ、分かりました!」
何やら奇妙な雰囲気になっているが、喧嘩するような感じではないのでそこまで心配はいらないだろう。
全員が居なくなってからレイナとわたしだけになった。
「マリアさま、よくいろいろ我慢されましたね」
「べ、べつに我慢なんてしてませんわよ! わたくしは主人としてやっと自覚を持つようになっただけですから」
おほほ、と笑ってみせたがレイナの悲壮な顔は解けていない。
レイナはわたしの背中に手を回して胸元まで寄せた。
わたしは急な抱擁にドキッとした。
「れ、レイナ!?」
「いいのですよ、マリアさま。そのような不安を押し殺さずとも。今なら誰も聞いておりません。愛する方以外にもお肌を許すなんてこれまで考えたこともないはずです。どうかその不安をわたくしにも分けてください」
「そんな不安なん……うううっーー」
わたしはさっきまでの虚勢が嘘のように涙が溢れてくる。
あの会議では自分の心に鎧を身に付けたようにハッタリをかましたが、それでも不安はあった。
いつもは優しそうなおじさんたちが今日はまるで魔物のように恐ろしい存在に見えた。
そして側近全員が不安を感じている今はわたしが不安を見せるわけにはいかない。
だけどやっぱり失敗してしまった時を考えると恐ろしい。
失敗しなくてもこの噂が広まればウィリアノスさまからどのように思われるか。
「大丈夫です。マリアさまのために全員が一丸となって動いています。マリアさまの敵はわたくしたちの敵です。信じてください」
「分かっています。でもどんなに信用してても怖いのです。わたくしはまた勝手に事を進めていないかと」
わたしはどんどん体が震えてくる。
夢の死亡予告や今回の条件だったりと、正しい道を進んでいるのか全くわからない。
ヨハネと戦っても勝てるかどうかもわからない。
彼女の恐ろしさは幼少期から叩き込まれている。
他にも色々な罠を仕掛けているのではないか。
考えれば考えるほど嫌な想像ばかり膨らんでいく。
「大丈夫です。クロートだって褒めてくださったではありませんか。下僕はここで待っている間に自分の使用人たちに犯罪組織の情報を集めるように指示を出していました」
「下僕が……? 」
「ええ、彼はもう次のやるべき事を見据えて動いてくれています。どうか今日はお休みください」
レイナの言葉で次第に気持ちが落ち着き始めた。
もともとクロートは下僕に犯罪組織の件を任せようとしていた。
何かしら秘策を持っているのかもしれない。
そしてわたしは下僕が先を見据えているのなら、主人としてさらに先を見通すべきではないかと考えた。
……わたしが見るべき先はヨハネとの戦い? いや違う!
わたしの役目はヨハネに勝つ事ではない。
王国院で学生たちの能力を上げて、将来の繁栄に繋げること。
なら、勉強、派閥、産業、やることはまだまだある。
逆に言えばヨハネが発展させてくれたことはこちらとしては運がいいのではないか。
ヨハネから取り返せば、逆にその発展はこちらの助けとなる。
「ありがとうレイナ、もう大丈夫です」
「マリアさま?」
わたしはレイナの胸から離れて一度席を立った。
気持ちを落ち着かせてまずやるべきことを考える。
今下僕たちが犯罪組織について情報を集めているのなら、ヨハネの情報についても集めないといけない。
そうするとお父さまの文官たちなら情報を集めているはずなので共有してもらう。
呼ぶべき人物は……。
「レイナ、一度クロートを呼んできてもらっていいかしら?」
「マリアさま、わたくしは休んで欲しかったのですが……でも少しでも元気になっているのでしたら良かったです」
「今は悲観的になっている場合ではありませんもの。まだまだやらないといけないことはたくさんあります」
レイナはしょうがないなみたいな顔をしているがすぐに動いてくれてクロートがやってきた。
「ええ、文官で情報は共有する予定でございますが、なにぶん情報量も多いためわたしの方でもまだ精査できておりません。もうしばらくお時間をいただきたい」
「クロートでも情報量が多いと思うほどのことをヨハネはやっているのですね。分かりました。ではその間にこの前のカジノについての経営状況や予算についての資料を読ませてください」
「姫さま、ホテル業でございます。まあ、今はいいでしょう。ですがどうして今欲しいのです?」
「わたくしは全て側近に任せて何も知ろうとしませんでした。また同じ過ちをする前に今やっていることの内容くらい把握しておきたいのです」
「御心は立派でございますが、経営に関しては素人がやるにはかなりの時間が掛かります。帳簿や戦略などそれについて学があるものでないと……」
クロートも今忙しい以上、わたしばかり構っている時間はないということだ。
いくらやる気があろうとも、これ以上クロートの負担を増やしてはヨハネの件も疎かになる。
「では今後の方針ですが、まずは犯罪組織がどこに逃げたかを調べないといけませんわね。あとシナリオとしてーー」
「マリアさま、今日はそれくらいにしてください。かなりお疲れですし、情報集めはぼくが得意なのでやっておきます。どうか今日のところはお休みください」
「でも……」
「そうね情報集めは文官に一度お願いしましょう。それと全員一度退室してもらってもいいでしょうか。わたくしマリアさまと一度お話をしたいことがありますので」
「レイナ……?」
レイナのお叱りがあるのかな、と思って顔を見たが特に怒っている様子はない。
てっきりに勝手にしたことなのでかなり大きな雷が落ちると思っていた。
全員が了解して一度退席した。
ラケシスはもうしばらくすれば自分で起き上がるだろうから寝たままにしている。
部屋から出る前にセルランがクロートと下僕に声を掛けていた。
「二人に話がある。夜になったらわたしの自室に来てくれ」
「ええいいですとも」
「わ、分かりました!」
何やら奇妙な雰囲気になっているが、喧嘩するような感じではないのでそこまで心配はいらないだろう。
全員が居なくなってからレイナとわたしだけになった。
「マリアさま、よくいろいろ我慢されましたね」
「べ、べつに我慢なんてしてませんわよ! わたくしは主人としてやっと自覚を持つようになっただけですから」
おほほ、と笑ってみせたがレイナの悲壮な顔は解けていない。
レイナはわたしの背中に手を回して胸元まで寄せた。
わたしは急な抱擁にドキッとした。
「れ、レイナ!?」
「いいのですよ、マリアさま。そのような不安を押し殺さずとも。今なら誰も聞いておりません。愛する方以外にもお肌を許すなんてこれまで考えたこともないはずです。どうかその不安をわたくしにも分けてください」
「そんな不安なん……うううっーー」
わたしはさっきまでの虚勢が嘘のように涙が溢れてくる。
あの会議では自分の心に鎧を身に付けたようにハッタリをかましたが、それでも不安はあった。
いつもは優しそうなおじさんたちが今日はまるで魔物のように恐ろしい存在に見えた。
そして側近全員が不安を感じている今はわたしが不安を見せるわけにはいかない。
だけどやっぱり失敗してしまった時を考えると恐ろしい。
失敗しなくてもこの噂が広まればウィリアノスさまからどのように思われるか。
「大丈夫です。マリアさまのために全員が一丸となって動いています。マリアさまの敵はわたくしたちの敵です。信じてください」
「分かっています。でもどんなに信用してても怖いのです。わたくしはまた勝手に事を進めていないかと」
わたしはどんどん体が震えてくる。
夢の死亡予告や今回の条件だったりと、正しい道を進んでいるのか全くわからない。
ヨハネと戦っても勝てるかどうかもわからない。
彼女の恐ろしさは幼少期から叩き込まれている。
他にも色々な罠を仕掛けているのではないか。
考えれば考えるほど嫌な想像ばかり膨らんでいく。
「大丈夫です。クロートだって褒めてくださったではありませんか。下僕はここで待っている間に自分の使用人たちに犯罪組織の情報を集めるように指示を出していました」
「下僕が……? 」
「ええ、彼はもう次のやるべき事を見据えて動いてくれています。どうか今日はお休みください」
レイナの言葉で次第に気持ちが落ち着き始めた。
もともとクロートは下僕に犯罪組織の件を任せようとしていた。
何かしら秘策を持っているのかもしれない。
そしてわたしは下僕が先を見据えているのなら、主人としてさらに先を見通すべきではないかと考えた。
……わたしが見るべき先はヨハネとの戦い? いや違う!
わたしの役目はヨハネに勝つ事ではない。
王国院で学生たちの能力を上げて、将来の繁栄に繋げること。
なら、勉強、派閥、産業、やることはまだまだある。
逆に言えばヨハネが発展させてくれたことはこちらとしては運がいいのではないか。
ヨハネから取り返せば、逆にその発展はこちらの助けとなる。
「ありがとうレイナ、もう大丈夫です」
「マリアさま?」
わたしはレイナの胸から離れて一度席を立った。
気持ちを落ち着かせてまずやるべきことを考える。
今下僕たちが犯罪組織について情報を集めているのなら、ヨハネの情報についても集めないといけない。
そうするとお父さまの文官たちなら情報を集めているはずなので共有してもらう。
呼ぶべき人物は……。
「レイナ、一度クロートを呼んできてもらっていいかしら?」
「マリアさま、わたくしは休んで欲しかったのですが……でも少しでも元気になっているのでしたら良かったです」
「今は悲観的になっている場合ではありませんもの。まだまだやらないといけないことはたくさんあります」
レイナはしょうがないなみたいな顔をしているがすぐに動いてくれてクロートがやってきた。
「ええ、文官で情報は共有する予定でございますが、なにぶん情報量も多いためわたしの方でもまだ精査できておりません。もうしばらくお時間をいただきたい」
「クロートでも情報量が多いと思うほどのことをヨハネはやっているのですね。分かりました。ではその間にこの前のカジノについての経営状況や予算についての資料を読ませてください」
「姫さま、ホテル業でございます。まあ、今はいいでしょう。ですがどうして今欲しいのです?」
「わたくしは全て側近に任せて何も知ろうとしませんでした。また同じ過ちをする前に今やっていることの内容くらい把握しておきたいのです」
「御心は立派でございますが、経営に関しては素人がやるにはかなりの時間が掛かります。帳簿や戦略などそれについて学があるものでないと……」
クロートも今忙しい以上、わたしばかり構っている時間はないということだ。
いくらやる気があろうとも、これ以上クロートの負担を増やしてはヨハネの件も疎かになる。
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