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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

自身を犠牲にしてでも

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 大会議室を退出してわたしは再度廊下を歩いて自室へと向かう。
 これからやることがかなりある。
 時間がないことに焦りもある。

 ……まずは犯罪組織の場所を探してーー。

「ーーさま、……マリアさま!」


 セルランがわたしの前に立っていた。
 考え事に夢中になっており、セルランの呼び掛けを無視してしまったようだ。


「どうかしましたか、セルラン?」
「どうかしましたか、ではありません。先ほどの言葉は撤回してください! でなければマリアさまは複数の男と関係を結ばなければならないのですよ!」


 セルランの悲痛な顔に最悪な想定をしているのだろう。
 わたしだって子供を産む道具みたいな生き方は嫌だ。
 しかし現状ではそれ以外にわたしが差し出せるものがない。


「大丈夫です。この件を解決すればそのようなことは起きません。それにもし失敗しても魔力的にはどの領土も助かるはずです」


 わたしはどうにか平静を装い笑ってみせた。
 しかしセルランは納得したわけではないが、何かを噛み殺したような顔でわたしの進路を邪魔したことを詫びた。


「マリアさま、わたくしのミスのせいで御身に多大なご迷惑をお掛けしたことをお許しください」

 リムミントが責任を感じて、会議前の落ち込んだ姿に戻っていた。
 わたしは急いでフォローする。

「リムミントのせいではありませんよ! もともとはわたくしが適当な命令をしたことが原因なのですから」
「ですが、わたくしがもっと事の重大さに気付いて騎士団を派遣していればこのようなことにはなりませんでした。わたくしの責任だけで終わらず、マリアさまのお体を条件に捧げないといけないなんて」
「リムミント、ご容赦ください」
「……え」


 アスカがリムミントに許しを一方的に乞うとパーーッン!と音が響き渡った。
 全員がその場で固まってアスカが平手でリムミントの顔を叩いたことに気付くのに遅れた。

「あ、アスカ!?」


 これまで見たことないほどアスカが顔を怒りに支配されていた。


「いい加減にしてください。貴方がそのような弱腰でどうするんですか! わたくしたちが汚名を返上しないとマリアさまは本当に罰を受けないといけないのですよ! マリアさま、わたくしたちにお任せください。必ず成功させてマリアさまの御身にこれ以上負荷はかけません」
「……ええ、ありがとうアスカ。でもリムミント、もし無理なら……」


 わたしはリムミントを気遣おうとしたその時、リムミントは自身の頬を両手で思いっきり叩いた。


「マリアさま、失礼しました。ありがとう、アスカ。目が覚めました、わたくしの持てる力を持ってこの件は解決してみせます」


 さきほどと違い覚悟の決まった顔をしている。
 どうにか吹っ切れたようなので、これなら任せてもいいだろう。
 わたしはそんなやりとりを終えて一度自室に戻って、今いる側近たちに情報の共有を行なった。
 クロートも共有している間に部屋へと来ている。
 全員に話が行き渡ると顔を青くする者がほとんどだった。

「ひ、姫さまの……女神のお身体を条件にしてきたなんて」
「ラケシス!?」

 ラケシスがまるで貧血のように倒れてしまい、慌ててステラが支えた。
 さすがに今は医務室に運んでいる時間もないのでわたしのベッドで横になってもらう。
 下僕もラケシスの次に顔色が悪くなっており、俯いて何かを考えている。


「まさか姫さまが婚姻前にそのような条件を出されるなんて、王族からもどのようなことを言われるかわかりませんよ」


 サラスがやれやれと言わんばかりに困っている。
 わたしもそこで血の気が引く。
 もしかしてウィリアノスさまから軽い女だと思われるのではないか。
 黙って聞いていたレイナはわたしを気遣い背中を何度もさすってくれ、わたしを気遣ってクロートに確認をしてくれた。

「クロート、今回の件については本当に大丈夫なのですか? 」
「ええ、わたしが全面サポートしますので、万が一も失敗はありません。お前もしっかりしなさい。今ここで考え過ぎてもよいことはありません。自分ができることを一つ一つ行いなさい」

 クロートは下僕を励まして、暗い表情になっていた下僕はハッとなりわたしを見た。
 まだ最悪の想像をしているみたいだが、少しは前を見てくれたようだ。
 クロートのこの自信は本当に頼りになる。
 まるで失敗などと考えていないという態度はこちらを安心させるには十分だ。


「ですが、今回の姫さまの行動は素晴らしいものでした」
「えっ、わたくし?」


 無我夢中で受け答えをしただけなのでよくわからなかったが、クロートが珍しく褒めてくれるので何だか嬉しいものだ。


「あれぞ王者の姿です。途中までこちらを見くびっていた重役たちが全員黙って話を聞かれ、最後には姫さまを次の主人と認めておりました。王国院にいる間に成長されたことに驚いているでしょう」
「王者……」


 ベッドで眠っているラケシスが一部の単語に反応して寝言を呟いていた。
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