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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

まるでお人形

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 お父さまの文官にこちらの出席者を告げた。
 出席するのは、わたし、セルラン、リムミント、アスカである。
 セルランはあちらから指名されたので今回同席することになったのだ。
 おそらくシュティレンツの件も槍玉にするつもりなのだろう。
 クロートもお父さまの側近として出席するようで、わたしもサポートをしてくれると言ってくれた。
 時間が経ち、わたしたちは移動を始めた。


 尊厳ある石造りの廊下がこれほど怖いものに見えたことはない。
 赤いカーペットの上を一歩一歩進みながら、鼓動も一段一段と上がっていく。
 これが主人としての責任を持ったという証というのなら誇りとなるが、わたしはただ怯えているだけなのだ。
 これまで特に当主になることを深く考えてこなかったので、責任なんて少しも考えたことがない。
 側近にわたしの心の内を絶対に悟らせてはならない。
 大会議室の鉄扉の前へと着いて、扉を守る騎士はわたしに敬礼をする。
 わたしは久々に見る顔であったが、特に再会を喜ばず声を出して入室の許可を得る。


「今回の招集に呼ばれ参りました。マリア・ジョセフィーヌでございます。セルラン・ジョセフィーヌ含め以下三名を連れて入室することをお許しください」
「許可する」


 お父さまの声が響いた。
 いつもと違う威厳ある声が聞こえ、他の貴族がいる前では甘やかしてはくれないだろう。
 扉を守る騎士が扉を開けるとお父さまと他十名ほどの貴族たちがすでに座っている。
 一応全員の名前は頭に入っているが、ジョセフィーヌを支える大貴族たちが集まり、わたしを値踏みするような目を向けた。
 それは次期当主となる予定のわたしを見ているのだろう。
 大テーブルの中央にお父さまが座っており、対角線上にわたしは座ることになった。
 セルランたちは壁際で立っている
 お父さまがシルヴィとして話を進めていく。

「うむ。これで全員揃いましたな。今日はわざわざ集まりいただき感謝する。では今回ゴーステフラートの件で招集させていただいたことは全員に伝えておりますが、伝え間違いはありませんな」
「……え」


 犯罪組織についての件が今回の主題だと思っていたため、たまらず声が出た。
 そこでお父さまがこちらに厳しい目を向けた。

「どうかしたか、マリア?」
「い、いえ。犯罪組織に関して失敗の議題は無いものかと思いまして」


 わたしの言葉に大貴族たちの視線が一気に侮辱的なものに変わった。
 その中の一人であるジョセフィーヌ領第二都市を治めるナビ・ラングレスが声を出した。


「マリアさまは火遊びの件で呼ばれたと思っているみたいですな」
「ひ、火遊び!?」


 わたしがジョセフィーヌ領土の膿を取り除こうとしたことを火遊びとバカにされるなどとこれまでにない屈辱だ。
 しかし、わたしは失敗もあり強くは言えないので、唇を噛んで怒りを抑える。


「それはどういう意味でしょうか、ラングレスさま」


 何とか自制して喉から絞り出して平然を装う。
 ラングレスの顔はまるで分かっていないと言いたげだ。


「たかだが平民の討伐に関して失敗しただけでこのような重役を呼んで会議などしません。上級騎士を死なせた件についてはシルヴィが賠償をしました。これ以上のことは話し合う価値すらありません」
「マリアよ、今日はお前の身の程知らずさを分からせるために呼んだに過ぎん。会議を遅らせるような言動は慎め」
「……大変申し訳ございません」

 お父さまからも厳しい言葉を言われ、わたしは何も言えない。
 ではなぜセルランを呼んだのか。


「では話を戻そう。皆も知っていると思うがゼヌニム領の領地フォアデルへに嫁いだ騎士団長の長女ヨハネ・フォアデルへが、我が領地ゴーステフラートに様々な援助を行い、領地改革でこれまでに類を見ないほどの大発展を促した。それによって、ゼヌニムからもゴーステフラートを渡すよう要求が来て、ドルヴィからも同様の要求をされた」


 そこからは全員で議論になった。


「まず第一に何故これまでゴーステフラートは我々にヨハネさまが来ていることを報告していない。たとえ元ジョセフィーヌの名を持っていたとしても、嫁いだ以上は他領の人間だ」
「全くですね。まずはアビに釈明させねばなりません。いっそのこと城を乗っ取って、アビの入れ替えを行いましょう。シルヴィ・ジョセフィーヌを蔑ろにする領主など不要なだけです」
「それがいい。領主一族の魔力を全て奉納すればかなり土地が潤う。わたしの甥に優秀な者がいますのでその後の統治に勧めてさせていただきます」
「何を言っておる。わたしの統治する土地からかなりの商業的に取引もあり、ゴーステフラートの土地に関する理解度が高いわたしの親族が一番の適任だ」


 流れはアビ・ゴーステフラートを排してしまう流れになっている。
 だがどうにもわたしには嫌な予感しかない。
 ヨハネはこんなことを読めないような浅い女ではない。


「それは反対でございます」


 わたしの反対の声を聞いて、誰を次期領主にするかの議論が止まった。
 お父さまは少し驚いた顔をしていたがすぐに元の顔に戻してわたしに質問する。


「どこに反対なのかね?」
「まずヨハネが動いている以上、何かしらの対策があるはずです。逆にこちらを迎撃するために、ゼヌニムの力も借りている可能性があります。まずは会談をすべきです」


 わたしは背中につたる汗を感じながら意見を申した。
 しかしそれは軽く笑われた。


「ふふ、マリアさま。たとえヨハネさまがいくら考えようが地理的距離があります。こちらが早く動けば動くほど相手は間に合わず、労せずに制圧できます」
「それに制圧自体に賛成できません。シュティレンツでも長年の系譜によって蓄えられた知識があり、今回の蒼の髪の伝承は発見となりました。伝承のヒントがないままゴーステフラートの領主を弑してまうのは早計です」
「伝承ならゆっくり城の図書を見ればいいではありませんか。姫さまの遊びのために遅らせるのは理由にはなりません」


 わたしの言葉をまるで聞く気がないのか、だれもわたしに賛成してくれない。
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