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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

不穏な影

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 そこで今日の会食に出席しているシュティレンツの貴族たちが話し出す。


「わたしがその調査を致します。我らを導いてくださる次期当主であらせられるマリアさまのお力になれるのは何よりも誉れです。このわたくしめにお任せください」
「いや待ちたまえ、それはわたしが受け持つ。その土地を管理しているのはわたしなのだから当然の義務のはずだ」
「それでしたらーー」
「鎮まれ! マリアさまの御前であるぞ!」


 アビ・シュティレンツが声を上げて止めたため、手柄の取り合いは一度止まった。
 そこで一人のキツネのような顔をした男が手を挙げた。


「マリアさま、アビに仕える文官のネツキと申します。一度質問したいのですがよろしいでしょうか?」
「……ええ、構いません」
「今回、もしシュティレンツの伝承が本当だった場合、利益の取り分はいかがなさるおつもりですかな?」
「それはわたくしめがお答えしましょう」


 ネツキという男の顔に嫌な雰囲気を感じ、わたしがクロートに視線を送るとクロートも
 同じように思っていたようで代わりに話し始めた。


「まずは魔鉱石が手に入りましたら、七割はこちらにいただきます」
「七割!? マリアさま、流石にそれは取りすぎではないでしょうか、はい」
「ええわたしもそう思います。これは我が領土の資産です。最初だけならそれでも構いませんが、永遠にそれだけ取られるのは流石に権力の濫用ではありませんか?」
「今回の伝承については姫さまが行動した結果得られるものです。それでしたら貢献度から考えてもこちらが多くいただくのは当たり前です」


 お互いに自領の利益を譲るわけにはいかないので次第にヒートアップしていく。

「それでしたら、それに見合う対価を頂かねばなりません。我が領土の資源をお渡しするのだから、こちらはジョセフィーヌ領にいる上級貴族の令嬢をこちらへ嫁がせていただきたい」
「それは筋違いなこと。伝承が復活した後ならご自身で領土を盛り立てれば自ずと縁談はきます。利益ばかり考えるのではなく、研鑽を積んでいただきたいものですね。これ以上まだ確定していない情報に関して議論しても仕方がないことです。今回は当主一族が主導で行なっていますので、領主が頭に立って行なってください」
「かしこまりました。ネツキ殿、今はまだ話し合いをする段階でもない。騎士団を派遣して洞窟について調査しますゆえ、あなた方の協力が必要です」
「そうですね。まずは調査を先に行わねばなりませんね」


 話し合いは一度終わって、その日はゆっくり休むこととなった。
 次の日には準備も終わり、洞窟がある岩石群地方へと向かった。
 周りが岩石で囲まれて道が入り組んでいるため、現地人に道案内をお願いして進んでいく。


「それにしても魔物の数が多いですね」

 わたしは今しがた騎士団長が撃墜した鳥の化け物を遠目に見ながらそう呟いた。
 どうやらここは魔物が大量に発生する地帯のようで、シュティレンツの騎士団が空や地上を警戒しながら慎重に馬車を進めていく。


「ここはどうみても魔物がいる場所には見えないですものね」

 レイナもわたしと同じことを思っていたようだ。
 魔物が多い理由はその土地に魔力が多いからだが、忘れられた洞窟近くのはずなので魔力の奉納もあまりされていないはずだ。
 魔物は魔力という餌がないのになぜこれほど集まっているのか。
 全員が不思議がっている中、入り組んだ道を抜けていくと行き止まりとなっていた。
 しかしどうやらかなり廃れているが入り口らしき洞窟があり、地下へと続く階段がそこにはあるようだ。
 一度全員が馬車から降りて安否の確認をした。


「全員いるようですね」

 一応全員怪我なくここまで来れたことに安堵する。
 またヴェルダンディのように大怪我をして欲しくない。
 わたしだけ気に病んでいるようで、ラケシスとホーキンスはこの場所を興味深く感じているようだ。
 騎士たちもしばらくここで寝泊まりするため、テントの準備と魔除けの魔法を準備始めた。


「しかしまさかこのような場所にあるなんて、はい」
「どういうことです?」


 アビ・シュティレンツは意味ありげなことを言うので気になってしまう。


「実はこの場所の裏手は鉱山跡がたくさんあるのですよ。金属類は取れませんがそれ以外の資源が豊富でした。ただもう取り尽くしてしまっているのでここは廃鉱となっているのです」


 どうやら魔鉱石が取れなくなった後も鉱山としては価値はあったようだ。
 もしかすると伝承を甦らせればそういった資源もまた取れるようになるのかもしれない。


「しかしこれはやばいですね。マリアさま、見てください」


 わたしはホーキンスに呼ばれたので洞窟の近くまでいった。
 ホーキンスが地面を触ったり、周りに目を光らせている。
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