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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

伝承が読み解かれるのは吉か凶か

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 わたしの叫び声にセルランがわたしの前に立ちトライードを手に持った。
 ステラもすぐに反応してアビ・シュティレンツへ剣を向けた。
 そこでこの場に緊張が走り、アビ・シュティレンツを守る騎士団長もトライードを握ろうとしていた。
 わたしはそこで迂闊にも声を上げてしまったことに気付き、全員を制止させる。

「待ちなさい!  上です! 今大量の蝶たちが城壁に衝突していったのです! 」


 全員がわたしと同じ方を見てみる。
 だが誰もが見当違いな方向に顔を向けていた。

「蝶? 一体どこにいるのです?」
「何を言ってますの? 至る所から蝶が現れてあの壁に入っていったではありませんか!」
「何も飛んでいるようには見えませんが?」

 セルランの言葉は全員の言葉を代弁しているようで誰も見えていない。
 しかし、アビ・シュティレンツとエリーゼは神妙な顔をしている。


「お父さま、やはりマリアお姉さまは……」
「ああ、そのよう……お姉さま? そういえばシスターズがどうのこうの言っていたな、うん。だがマリアさまをお姉さまなどと不敬すぎやしないか、うん? いや、今はそれどころではないな、うん」


 ……是非ともお姉さま呼びは禁止にして下さいませ。

 二人は何か思い当たることがあるみたいで話し始めた。

「今マリアさまが見ていた場所に存在しないはずの部屋があるのです、はい。もしかしたら水の神がお呼びになっているのかもしれません、はい」
「では一度そこへ案内してもらってもいいですか?」


 アビ・シュティレンツは了承してくれたので、ぞろぞろと城の設計図に書かれている場所へ行く。
 到着するとそこは行き止まりとなっており、下僕とクロートがこの場所が設計図の場所なのか確認するが間違いなくここのようだ。

「何もありませんわね」

 周りを見渡してもそれらしき入り口はなく、やはりこの設計図が間違っているようにしか思えない。
 しかしそこで後ろから一匹の蝶が飛んできて壁をすり抜けていった。
 わたしはその蝶を追うように手を伸ばすと、壁から魔法陣が現れた。


「きゃっ!」

 手から魔力を吸われ、壁に複雑に書き込まれた魔法陣が次々姿を現した。

「ま、マリアさま! 」


 セルランがわたしを魔法陣から離したおかげで魔力の供給がストップした。
 魔力が供給されなくなったせいか、魔法陣も消えていった。
 何の魔法陣かわからないので護衛として止めてくれたのだ。

「ありがとう、セルラン。この魔法陣は一体なにかしら?」
「おそらく隠し部屋を作る魔法陣ですね。おそらく過去の錬金術士が作ったシロモノでしょう」
「そうみたいだな。あとは使用者も限定されているね。そうすると蒼の髪を持った人間を待っていたってところか」

 あの一瞬でクロートとホーキンス先生は魔法陣を読み取れたみたいである。
 王国院でも習わないほどの魔法陣なため、おそらく二人以外は誰もわからないものだろう。
 ホーキンスが触っても魔法陣は反応しない。
 そこでクロートも触ってみるとしっかり魔法陣が現れた。

「やはりそうみたいだな。ところでクロートくんはマリアさまが見たという蝶々は見えたかね?」
「残念ですがわたしには見えません」


 どうやらクロートにはわたしと同じように蝶が見えたわけではないようだ。
 しかし現に蝶がわたしが行くべき道を示してくれた。

「検証は後でもいいだろ。クロート、マリアさまの代わりに魔力を供給してくれ」

 セルランは万が一にもわたしに身の危険が及ばないようにクロートに指示する。
 クロートもそのつもりのようで魔法陣に魔力を注ぎ込むと、壁が消えて階段が出現した。
 明かりもあるみたいで、等間隔に特殊な石が飾ってあり、それが光っている。

「まさかこのようになっているとは、うん。お前たち一度この中を探索しなさい。何も触らず戻ってくるように、うん」


 アビ・シュティレンツが私兵たちに命令して中の捜索をさせた。
 しばらく待っていると兵士が全員戻ってきて何も危険なものはなく、小部屋があるだけとのこと。
 本棚に数冊の本があるだけで他には何もない殺風景な部屋だけがあるらしい。
 安全ということで、アビ・シュティレンツが先頭に階段を降りて、次にセルランとクロートが前に行き、わたしがその後ろで付いていく。
 鉄の扉があり、すでに兵士が開けているのでその中に全員で入った。

「うおおお!」
「ほ、ホーキンス先生!」

 本を見てホーキンスが奇怪な声を上げて本棚のほうへ走っていった。
 もう我慢できなかったようでわたしの制止を聞かず急いでその本のページをめくり始めた。


「申し訳ございません、ホーキンス先生が許可を取らずにあのようなことを」
「いえいえ、お気になさらず、はい。あの方を知っていれば驚くこともありません。どうせなら本をもっと別の部屋に持っていって調べてみましょう。その間にマリアさまも疲れを落とされてはいかがですかな?」


 アビ・シュティレンツの提案に乗って、
 日中はゆっくりと休息を取ることになった。
 もちろんわたしはサラスから勉強を強制されたので休めなかったのだが。
 夕食の時間になると、シュティレンツの重鎮も会食に来ていた。
 全員がわたしに挨拶をしてから夕食を摂ることになった。


「マリアさま、ホーキンス先生の協力もあり伝承についての記述を見つけることができました」
「本当ですか!」
「ええ、続きはホーキンス先生にお願いしましょう」

 わざわざ隠していた物だったためあるとは思っていたが、やはり本当にあると嬉しいものだ。
 ホーキンス先生も少しそわそわしているところを見ると早くその伝承について検証したいのだろう。

「あの部屋で見つかった本には数百年前についての本がありました。ただほとんどが今はない魔鉱石を用いた錬金術の話だったのですが、シュティレンツでは領主たちが行う行事があったみたいなのです」


 どうやらシュティレンツではここから少し離れた地下洞窟で神への魔力奉納をしていた場所があるらしい。
 どういった経緯でその風習が無くなったのかはわからないが、蒼の髪の乙女が大きな釜を持ってきてそこに自身の魔力がこもった水を入れていたそうだ。


「大きな釜ですか。どれくらいの大きさなのでしょう?」
「どうやら台座に合う大釜を用意しないといけないのですが、今日の資料が出てくるまでその地下洞窟の存在すら知らなかったため、一度調査に出ないといけませんね」


 そうするとしばらくは洞窟の中が安全かどうかを確認で時間が取られる。
 まだまだ時間が掛かりそうで、腰が重くなりそうだと感じていたら、不意に周りの視線がこちらに集まるのを感じた。
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