上 下
77 / 259
第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

伝承が読み解かれるのは吉か凶か

しおりを挟む
 わたしの叫び声にセルランがわたしの前に立ちトライードを手に持った。
 ステラもすぐに反応してアビ・シュティレンツへ剣を向けた。
 そこでこの場に緊張が走り、アビ・シュティレンツを守る騎士団長もトライードを握ろうとしていた。
 わたしはそこで迂闊にも声を上げてしまったことに気付き、全員を制止させる。

「待ちなさい!  上です! 今大量の蝶たちが城壁に衝突していったのです! 」


 全員がわたしと同じ方を見てみる。
 だが誰もが見当違いな方向に顔を向けていた。

「蝶? 一体どこにいるのです?」
「何を言ってますの? 至る所から蝶が現れてあの壁に入っていったではありませんか!」
「何も飛んでいるようには見えませんが?」

 セルランの言葉は全員の言葉を代弁しているようで誰も見えていない。
 しかし、アビ・シュティレンツとエリーゼは神妙な顔をしている。


「お父さま、やはりマリアお姉さまは……」
「ああ、そのよう……お姉さま? そういえばシスターズがどうのこうの言っていたな、うん。だがマリアさまをお姉さまなどと不敬すぎやしないか、うん? いや、今はそれどころではないな、うん」


 ……是非ともお姉さま呼びは禁止にして下さいませ。

 二人は何か思い当たることがあるみたいで話し始めた。

「今マリアさまが見ていた場所に存在しないはずの部屋があるのです、はい。もしかしたら水の神がお呼びになっているのかもしれません、はい」
「では一度そこへ案内してもらってもいいですか?」


 アビ・シュティレンツは了承してくれたので、ぞろぞろと城の設計図に書かれている場所へ行く。
 到着するとそこは行き止まりとなっており、下僕とクロートがこの場所が設計図の場所なのか確認するが間違いなくここのようだ。

「何もありませんわね」

 周りを見渡してもそれらしき入り口はなく、やはりこの設計図が間違っているようにしか思えない。
 しかしそこで後ろから一匹の蝶が飛んできて壁をすり抜けていった。
 わたしはその蝶を追うように手を伸ばすと、壁から魔法陣が現れた。


「きゃっ!」

 手から魔力を吸われ、壁に複雑に書き込まれた魔法陣が次々姿を現した。

「ま、マリアさま! 」


 セルランがわたしを魔法陣から離したおかげで魔力の供給がストップした。
 魔力が供給されなくなったせいか、魔法陣も消えていった。
 何の魔法陣かわからないので護衛として止めてくれたのだ。

「ありがとう、セルラン。この魔法陣は一体なにかしら?」
「おそらく隠し部屋を作る魔法陣ですね。おそらく過去の錬金術士が作ったシロモノでしょう」
「そうみたいだな。あとは使用者も限定されているね。そうすると蒼の髪を持った人間を待っていたってところか」

 あの一瞬でクロートとホーキンス先生は魔法陣を読み取れたみたいである。
 王国院でも習わないほどの魔法陣なため、おそらく二人以外は誰もわからないものだろう。
 ホーキンスが触っても魔法陣は反応しない。
 そこでクロートも触ってみるとしっかり魔法陣が現れた。

「やはりそうみたいだな。ところでクロートくんはマリアさまが見たという蝶々は見えたかね?」
「残念ですがわたしには見えません」


 どうやらクロートにはわたしと同じように蝶が見えたわけではないようだ。
 しかし現に蝶がわたしが行くべき道を示してくれた。

「検証は後でもいいだろ。クロート、マリアさまの代わりに魔力を供給してくれ」

 セルランは万が一にもわたしに身の危険が及ばないようにクロートに指示する。
 クロートもそのつもりのようで魔法陣に魔力を注ぎ込むと、壁が消えて階段が出現した。
 明かりもあるみたいで、等間隔に特殊な石が飾ってあり、それが光っている。

「まさかこのようになっているとは、うん。お前たち一度この中を探索しなさい。何も触らず戻ってくるように、うん」


 アビ・シュティレンツが私兵たちに命令して中の捜索をさせた。
 しばらく待っていると兵士が全員戻ってきて何も危険なものはなく、小部屋があるだけとのこと。
 本棚に数冊の本があるだけで他には何もない殺風景な部屋だけがあるらしい。
 安全ということで、アビ・シュティレンツが先頭に階段を降りて、次にセルランとクロートが前に行き、わたしがその後ろで付いていく。
 鉄の扉があり、すでに兵士が開けているのでその中に全員で入った。

「うおおお!」
「ほ、ホーキンス先生!」

 本を見てホーキンスが奇怪な声を上げて本棚のほうへ走っていった。
 もう我慢できなかったようでわたしの制止を聞かず急いでその本のページをめくり始めた。


「申し訳ございません、ホーキンス先生が許可を取らずにあのようなことを」
「いえいえ、お気になさらず、はい。あの方を知っていれば驚くこともありません。どうせなら本をもっと別の部屋に持っていって調べてみましょう。その間にマリアさまも疲れを落とされてはいかがですかな?」


 アビ・シュティレンツの提案に乗って、
 日中はゆっくりと休息を取ることになった。
 もちろんわたしはサラスから勉強を強制されたので休めなかったのだが。
 夕食の時間になると、シュティレンツの重鎮も会食に来ていた。
 全員がわたしに挨拶をしてから夕食を摂ることになった。


「マリアさま、ホーキンス先生の協力もあり伝承についての記述を見つけることができました」
「本当ですか!」
「ええ、続きはホーキンス先生にお願いしましょう」

 わざわざ隠していた物だったためあるとは思っていたが、やはり本当にあると嬉しいものだ。
 ホーキンス先生も少しそわそわしているところを見ると早くその伝承について検証したいのだろう。

「あの部屋で見つかった本には数百年前についての本がありました。ただほとんどが今はない魔鉱石を用いた錬金術の話だったのですが、シュティレンツでは領主たちが行う行事があったみたいなのです」


 どうやらシュティレンツではここから少し離れた地下洞窟で神への魔力奉納をしていた場所があるらしい。
 どういった経緯でその風習が無くなったのかはわからないが、蒼の髪の乙女が大きな釜を持ってきてそこに自身の魔力がこもった水を入れていたそうだ。


「大きな釜ですか。どれくらいの大きさなのでしょう?」
「どうやら台座に合う大釜を用意しないといけないのですが、今日の資料が出てくるまでその地下洞窟の存在すら知らなかったため、一度調査に出ないといけませんね」


 そうするとしばらくは洞窟の中が安全かどうかを確認で時間が取られる。
 まだまだ時間が掛かりそうで、腰が重くなりそうだと感じていたら、不意に周りの視線がこちらに集まるのを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

処理中です...