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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

ラケシス視点2

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 流石の姫さまも同い年でご友人の方に姉と呼ばれるのはあまり嬉しくないようで困惑していた。
 わたくしは姫さまを助けるべく、紅茶の入ったポットを持って間に入った。


「紅茶を用意しましたので淹れさせていただきます」

 手が姫さまから離れたのを確認してから、カップに紅茶を注いでテーブルの上に置いた。
 姫さまが先に飲んで、続けてカナリアさまもカップに口をつけた。


「あら、この紅茶いつも飲んでいる物と違いますわね。パラストカーティから取り寄せた物ではないのですか?」
「いいえ、これはパラストカーティのよ」


 姫さまがリムミントに目を向けると、一礼して主人の代わりに説明を始めた。

「マリアさまが蒼の髪の奇跡を起こしたことで、今までより品質の高い茶葉が取れるようになりました。まだ数が多いわけではありませんが、まずはマリアさまに味わってもらいたいと献上されたものです」

 リムミントは話が終わったことで再度一礼して主人に発言を譲った。


「今は環境の変化に対応するだけで精一杯のようですが、今後の取り組み次第では最下位からの脱出も夢ではないと思っております」
「あの猛犬だったパラストカーティが最近静かなのもマリアお姉さまのお力あってこそです。ホーキンス先生の研究所でマリアお姉さまの踊りについて書かれていまして、わたくしも見てみたかったです」


 文字だけではどうしても想像には限界がある。
 わたくしもあの場にいたおかげで幻想的な奇跡を見られて幸運でした。
 次にやってきたのは、最初にシスターズに選ばれたうらやま……もとい、幸運なシュトラレーセのアリアさまだった。
 まだ入学したばかりなのに、魔法については博識であり、姫さまの魔法を打ち破るほどの才能があるらしい。
 まずは姫さま、次に初対面であろうカナリアさまに挨拶を行なった。
 右側はカナリアさまが座られているので姫さまの左側の席へと案内した。


「マリア姉さま、体調の方はもう大丈夫でしょうか? パーティーで倒れられて心配で気持ちが休まりませんでした」
「ええもう大丈夫。ラナにも心労を増やしたことでしょうね」
「いいえ、マリア姉さまさえ無事であればそれでいいのです」


 アリアさまはホッと胸を撫で下ろした。
 どうやら姫さまが忙しい間も魔道具の研究は進めているようで、騎士祭でもまた表彰されるように日々頑張っているようだ。
 何個か新しい魔道具もできたので、近いうちに献上品として渡されるようなのでわたくしも姫さまを護衛できる物がないかチェックしておかないといけない。
 わたくしがアリアさまにも紅茶を差し出すと、カナリアさまと同様の感想をこぼしたので同じ説明をリムミントがした。


「そういえばマリアお姉さまがウィリーー」

 アリアさまが喋っている最中に続々と来客がきたので遮られた。
 約二十人近くの妹たちが来ており、害がなく純粋に姫さまの妹になりたい者を選抜したせいか全員がうっとりしている。
 参加者はジョセフィーヌ直轄領がほとんどだが、シュティレンツやシュトラレーセから二、三人ほど来ている。
 ここ数日サラスから教育されているので、側近も含めてこちらの流行である衣服やお菓子、伸びのある殿方の話を十分に出した。
 だが誰も殿方の話で盛り上がらないのは、流石のわたくしでもびっくりだ。


「マリアさまは前に出て戦う姿は本当にかっこよかったです。もうあの日のことを思い出すと胸が高鳴ります」
「わたくしも一緒に戦いたかったのに家族に反対されて本当に悔しかったです。弟には次の騎士祭で活躍するように言っておりますので、是非ともこき使ってくださいませ」


 みんな一様に姫さまのお役に立ちたいという熱意を感じるので好ましく思う。
 これなら次の騎士祭では姫さまの負担はかなり減らせるので、危険な前線に出て行かずともよくなる。
 だいぶ時間も経ったので、マリアさまも本題である情報収集を始めた。


「そういえば、シュティレンツでも蒼の髪の伝承があったと思いますが、エリーゼさんは何かご存知ですか?」


 エリーゼとはシュティレンツの領主候補生であるカオディの妹君である。
 少しのんびりした雰囲気で兄と同じく錬金術に関して携わっているが、突出した何かをもっているわけではない。
 手を頬に当てて一生懸命思い出そうとしている。


「うーん、そうですね。どの家も自分で研究した真理の探究については記録があるとは思うのですが、あまり伝承についての本は持っていないと思います。マリアさまがお生まれになって伝説の蒼の髪を持っているという噂が広まった時も、わたくしの城にいる者以外は蒼の髪の伝承があることすら知らなかったそうですから」
「まさか自領の伝承を知らない者がいるなどと、嘆かわしい限りですね」


 わたくしはどれだけ蒼の髪の伝承について読んだか。
 それを題材にした物語は出来る限り手に入れたので、姫さまのお顔を描いてもらうための絵師を雇うお金がなくなったほどだ。
 どうにか別の方法で手に入れる手段があるからいいが、どうせならいい腕を持つ絵師にお願いしたい。
 わたくしがボソッと呟いた声は姫さまだけ聞こえてたらしく、ちらっと視線がこちらにきた。
 あまり自身の品位を落とすのもどうかと思うので、これ以上は胸の内にしまっておく。

「そうするとシュティレンツの城には何かしら伝承について残っているのですか?」
「いいえ、全部王国院で写本したものですので、ホーキンス先生が知らないようなことはないと存じます」


 マリアさまの肩が落とされている。
 情報を期待していたのに何もないではそうなるのも仕方がない。
 わたくしは姫さまの好きな紅茶を淹れ直して、少しでも気持ちを入れ替えてもらおうとした。


「ですが、もしかしたら探せばあるかもしれません」
「どういうことですか?」
「シュティレンツは今では中領地ですが、過去の錬金術士の腕前だけは誇りとして受け継がれております」


 シュティレンツの錬金術はほかの領土ではあまり熱心に研究されていない分野である。
 しかしやはり上位の領地ではマイナーな分野でもしっかり成果を上げており、シュティレンツはジョセフィーヌ領では錬金術最先端なだけだ。


「例えば、魔道具の基礎を築いたのはシュティレンツだと言われております」
「そうなのですか? リムミント知っていて?」
「いえ、初耳でございます。ですが、今の魔道具の製法は二つ。魔物や植物の材料を使って一から作るか、元ある道具に魔法陣を描いて簡易的な機能を付けるかです。今の錬金術は魔法陣を描くための道具を作る技術という印象です」


 リムミントが知らないとなると、シュティレンツの虚言ではないかと思ってしまう。
 もしそうなら先駆者でありながらなぜ今のような地位になっているのか。



「確かにそうです。しかし、過去の錬金術士が遺した遺産は、今の魔道具学では実現できない様々な奇跡を起こしたそうです。例えば物を転送できる魔道具ですが、各領土に数個しかないはずです。あれは元々シュティレンツが国王にすべて献上して、各領土に配られたそうです」


 確かに物を転送する魔道具は貴重な物だ。
 基本的に姫さまから許可をもらえないとわたくしたちも使えない。


「それで本題ですが、わたくしの城にはどうも隠された部屋があるみたいなのです。城の設計図に現実にはない部屋が描かれているのに、そこはただの壁しかないのです」
「それはただ間違いで描かれたというだけではありませんの?」
「確かにその可能性があるのですが、ちょうどマリアさまが生まれた日にその設計図がどこからともなく現れたそうです」


 あまりにも可笑しな話だが、最近は姫さま関連で奇跡が起こっている。
 蒼の髪については謎が多いので、これは偶然であるとは言い切れない。


「もしかしたら、また姫さまが出向くと何か起きるかもしれませんね」
「そうみたいね。でも何度かわたくしシュティレンツの城には行ったことあると思うのだけど、何も起きなかったわよ?」


 わたくしがコソッと姫さまに話すと同意された。
 シルヴィとたまに各領主の城へ招待されていた姫さまはよく監視の目を掻い潜って、下僕とヴェルダンディと共に城内を駆け巡ったそうだ。
 リムミントはゴホンと咳払いしたので私語をやめた。


「エリーゼさんありがとうございます。大変参考になりました」
「あの、もしよければシュトラレーセやスヴァルトアルフでも蒼の髪の伝承について情報を集めましょうか?」
「本当に!」

 アリアさまの提案に姫さまは喜んだ。
 その純粋な笑顔を向けられるアリアさまが憎いが、姫さまが喜ばれることが一番大事だ。
 ほかの妹たちも自分のツテを使って調べてくれると約束してくれた。
 今日のお茶会は満足なものとなり、終わりを迎えた。
 あとは全員の心は一つに向かっていた。


 ……サラスをどうやって説得しようかしら。
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