上 下
73 / 259
第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

ラケシス視点1

しおりを挟む
 わたくしの名前はラケシス。
 由緒正しき五大貴族の末裔にして、伝説の蒼の髪を継承する姫さまを敬愛する者である。
 わたくしの家系は代々五大貴族に忠誠を誓ってきた一族であり、その筆頭が叔母のサラスである。
 サラスは厳しい面も多いが、それでも上に立つ者を教育する姿勢には尊敬できるものが多い。
 サラスが休んでいる今日はわたくしが気を配って姫さまの助けとならなければならない。
 今日は姫さまがシスターズという昔の制度で妹認定した者たちとの会合だ。
 かなりの人数が来るので中部屋を借りて、設営に取り掛かっている。
 わたくしがテーブルにシーツを被せてシミ一つないことに満足する。


「このような仕事で満足げになるのはラケシスくらいよ」


 わたくしの同僚であるレイナが苦笑しながら手伝ってくれる。
 本来ならわたくしの侍従たちに仕事を任せて、自分が最終チェックすればいい話なのだが、やはり姫さまが使われるテーブルであるのならばわたくしが用意してあげたい。

「わたくしが用意したテーブルで姫さまが楽しくお茶会をしてもらえるのならこれ以上ない喜びですよ」


 わたしは何度も姫さまが座る予定の椅子を磨く。
 楽しい時間を過ごし、レイナは少し苦笑気味だ。


「そういえばラケシスは妹申請しなかったのですね」


 どうやらわたくしがシスターズに入りたがらないのを不思議に思っている様子。
 だがわたくしこそその質問に疑問を感じた。

「当然です。わたくしは姫さまに守ってもらいたいのではなく、お側に侍り覇道を進まれる姫さまの手助けをしたいだけです」
「覇道って……。マリアさまは特に国をどうこうするなんて考えていないと思いますよ」
「それはウィリアノスさまにご執心だった頃のお話です。今の行動を見て何も感じないのですか!」


 たしかに前までの姫さまはウィリアノスさまとの婚姻が決まってから浮き足立っていた。
 だがやるべきことさえ見定めれば、人員、魔力、技量、すべて足りなかったマンネルハイムで優勝を取ることなど造作もない。
 蒼の髪の伝承に新たな一ページを刻む最高の出だしではないか。


「まあ、確かに最近は精力的に活動されていますね。ですが少しばかり焦っているようにも感じます」


 お金を急いで稼ごうとしている、という内容でないことはもちろんわかっている。
 少しずつ学生の意識を改革していくのが一番確実で楽な道なのに、あえて茨の道を進んでいる。
 今回の予算が足りなくなったのも早急に物事を推し進めようとした弊害だ。
 だがそれでも前の姫さまと比べればこれぐらいの勤労など苦労には入らない。

「だからこそわたくしたちが姫さまの身を守るのです。それなのにヴェルダンディときたら、カジノで中級貴族の醜い豚に姫さまの手を触らせたなどと……」


 ヴェルダンディを時間があるときに呼びつけてカジノの件を聞いたが、一体何のために護衛騎士としてお側にいたのか。
 時間もなかったので少しの間説教しただけで終わりましたが、もっとわからせないといけませんわね。
 わたくしはどのような罰をくだすか考えているとレイナは思案げにしている。

「どうかしましたか?」
「え……、うん。ガイアノスさまがあそこまでマリアさまに敵意を出してくるなら、わたしたちはどう対処すればいいのかしらね」


 魔法祭では、競技中の事故として姫さまの顔に傷をつけようとしたガイアノスに関しては憎っくき相手だ。
 競技前にレイナとアスカに憤怒の声を発散させなければ、わたくしは自分の怒りを抑えきれなかっただろう。
 正直、ウィリアノスにも姫さまに近付いてほしくないのだ。
 姫さまからご寵愛をいただけることが確約されているのに、それを蔑ろにする態度にあまりいい印象は持っていないからだ。
 姫さまは少しばかり恋愛で心がお花畑になっているので鈍感になっているが、想い人を考えればそれも仕方ないといえる。
 しかしウィリアノスに限っては婚約自体は否定的であるせいで、姫さまが不憫でならない。
 それにマンネルハイムでは早々と魔力疲れで退場して、婚約者である姫さまを守ることすらできていなかったのだ。


「わたくしたちも最低限姫さまが逃げられる時間を稼ぐ方法を考えとかないといけませんね。ぜひレイナからセルランに聞いておいてもらっていいかしら」
「なんでそこでセルランが出てくるのよ! 」
「あらっ、別に二人で恋愛に興じろなんて言ってませんわよ。ただ自衛の術を聞いてほしいだけって言っただけですのに」


 ここにも少しばかり恋愛脳がいて困るものだ。
 頬を膨らませて怒っている同僚が可愛いのでそれもいいが。
 すぐに準備を終わらせて、マリアさまの部屋へと入った。


「姫さま、失礼します。お茶会の会場の設営も終わりましたのでいつでも入室できます」

 ディアーナがすでにスレンダータイプのドレスをマリアさまに着付けして、化粧も済ませている。
 今日はシスターズの集まりということで、いつもより大人めな印象だ。

「ご苦労様。貴方のことだから自分で全部仕上げたのでしょうけどあまり無理しすぎないようにね」


 わたしが入室すると微笑んで労を労ってくれた。
 マリアさまのために頑張ることこそが何よりも愉悦だ。
 そこに無理などないが、やはり褒められると嬉しくなる。

「本日もお美しいです。たとえ火の神がどれだけ荒れ狂うとしても、姫さまの山紫水明のような美しさに目を奪われ、大地を慈しむようになるでしょう」
「さんし……すいめい? よくわからないけど褒めていることだけは伝わったわ。では行きましょうか」


 姫さまと一緒にお茶会が行われる中部屋で客人たちをもてなす。
 まず最初にやってきたのは、同じジョセフィーヌ直轄領に住むカナリアさまだった。
 五大貴族に次ぐ大貴族であり、姫さまの純粋な友人である。
 いつもうっとりと姫さまを見ていたと思っていたが、まさか妹になりたいと熱烈な手紙が来ていたのは記憶に新しい。
 左側の髪を縦ロールにしており、笑顔の素敵な方ではある。
 挨拶を終えて、姫さまの隣へと座った。

「今日はお招きいただき嬉しいです。マリアさまとは最近お話もできなかったので、寂しい思いでした」
「ごめんなさい。今年はたくさんお茶会をするお話でしたのに、やっと今日招待できましたことをわたくしも嬉しく思います」
「まあ……、そう言っていただけると嬉しいですわ。もし何かお手伝いできることがあれば言ってくださいまし、マリアお姉さま」
「カナリアさん……」


 熱烈に姫さまの手を取って頬を赤く染めている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

処理中です...