悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
上 下
68 / 259
第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

カジノデビュー

しおりを挟む
 カジノが本格的に始まるのは夜になるとのこと。
 そのため夕刻から馬車に乗って行かなければならないが、最大の難関であるサラスの目を掻い潜らないといけない。
 そうすると一番ボロの出にくい勉強の合間に、背格好が近いレイナと代わってもらう予定だ。
 今回の件は流石に側近全員に話すには、レイナたちのように拒否反応が出てしまうためやめておく。
 特にクロートの案だと知ればセルランもどのように激昂するかがわからない。


 今現在、サラスと二人っきりで勉強をしているのでどうにか席を立たなければならない。
 わたしは少しモジモジさせサラスにお願いする。

「サラス、裁縫のアイディアは出ましたので一度書き留めてきてもいいかしら?」
「……かしこまりました。すぐに戻ってきてくださいね」


 女の子だけの隠語で要件を伝えて、わたしは一度ヴェルダンディを護衛に付けてレイナの部屋へと入った。


「はぁ……、あまり乗り気ではありませんが仕方ありませんね。このような変わった魔道具があるなんてね」


 レイナはため息を吐いて手に持っている杖を見る。
 クロートが作ったらしく、わたしの髪の毛と魔力があればそっくりな姿に変えられるとのことだ。
 わたしは自身の髪の毛を数本切ってから杖に魔力を注ぎ込んだ。
 持ち手の上に小さな宝玉があり、そこに髪の毛を触れさせると吸い込まれていった。
 すぐにレイナに渡した。

「水の神 オーツェガットは踊り手なり。我の姿を変えたまえ」


 レイナが詠唱すると一瞬でわたしと瓜二つな姿となった。
 髪の色まで全く同じなのでこれはすごいものだ。
 杖の宝玉にヒビが入ってしまい、この魔道具はもう使えなくなった。
 効力がすごい分、高価な宝玉を使っても一度しか使えないのでまだ量産が難しくまたクロートでないと製法もわからない。

「姫さまが二人も。レイナ、あなたは一生その姿になりなさい。あぁ、姫さまぁあ」
「なるわけないでしょ!」


 ラケシスは何やら感激に体を震わせて自分の世界へと入ってしまった。
 一体何を想像しているのか時々顔を赤らめている。

「本当にそっくりですね。これなら下手なことをしなければサラスにもバレないでしょう」
「バレた時のことを考えると恐ろしいですが、頑張って演じてみせます。それではわたくしがマリアさまの服に着替えますね。一応下級貴族が着るようなドレスを用意しましたので、不快でしょうが我慢してください」


 レイナにはわたしの普段着用のワンピースに着替えてもらった。
 髪飾りやネックレスの類も魔法がかかっていないものを身につけてもらい、完全にわたしが目の前にいる。
 準備が終わり、ヴェルダンディに外の様子を確認させてから外へ出た。
 すでにクロートも部屋の前まで来ていたようだ。

「おお、本当にそっくりだ。その魔道具本当にすごいもんだな」
「ヴェルダンディ、クロート、姫さまへ指一本触れさせてはなりませんからね」


 ラケシスも一緒に行けないのでどうにか苦渋の選択をして二人にわたしの安全を任せる。
 もうすでに馬車を近くに待たせているようなので、わたしは先に馬車へと向かう。
 少し待つとヴェルダンディもやってきた。


「ルキノは許可してくれたのですね」
「はい。マリアさまから用事を頼まれていると言ったら少しの間だけ代わってもらえました」
「結構、それでは行きましょう」


 クロートが従者にお願いしてカジノをやっている場所へ連れていってもらう。
 王国院から街も近いためすぐにたどり着いた。
 見た目は貴族用に建てられた高級ホテルに近い。
 賭博場と聞いていたのでもっと小汚い地下室とかで行なっていると思っていたが、どうやら堂々と店を構えているようだ。
 わたしは髪色ですぐにバレてしまうため、金の髪をしたウィッグを被り普通の貴族として入店することにする。
 クロートとヴェルダンディも一応下級貴族の護衛ということになっているので、安そうな鎧を着て、黒い髪のかつらを被ってわたしの側にいるとのことだ。
 本来カジノは違法である。
 それは平民に限ってであり、貴族用のカジノが別にあるのでそちらに関しては国へ届けていれば合法らしい。
 王都にあるカジノはほとんど非合法組織とのことだ。
 一度クロートがお店の前にいる従業員に話をして、しばらくすると中から小太りのおじさんがニタニタした顔でこちらに媚びへつらう。


「これはこれはよくおいでくださりました、レイチェルさま。わたくしめはここの支配人をしております、バラガンと申します」


 レイチェルはわたしの偽名だ。
 適当に付けた名前だが、流石に数の多い下級貴族の名前なんぞ覚えていないので問題ないはずらしい。
 相手も全くこちらに気づいていない。
 わたしは扇子で口元を隠していたが扇子を閉じて素顔を見せた。

「今日はここで楽しい遊びができると聞いて来ました。さあ、案内してくださいまし」

 わたしの顔を見て、支配人の顔が驚きで目を見開かれる。


「これほどお美しい御令嬢は初めて見ました。本来は中級貴族さま以上でないと入れないVIPルームへとご紹介いたします」
「まあ、嬉しいです。楽しみにさせていただきます」


 わたしが歩くたびにカジノ内の騒めきが止まっていき、一人また一人と視線がわたしに集まってくる。
 後ろを付いていくヴェルダンディとクロートは辺りを警戒しながら、クロートがわたしに耳打ちをした。

「どうやら姫さまの顔に見覚えがあるものはいないみたいです。ですがお気をつけください、ここの裏を仕切っているのは中級貴族ですが欲にまみれた方と聞いております。姫さまの美しさに乱心されるかもしれないのでご注意よ」

 わたしは他に気取られないように小声で了承を告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、離婚してくださいませ!

ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。 まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。 離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。 今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。 夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。 それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。 お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに…… なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

処理中です...