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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!
最低なヴェルダンディ
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サラスが来てから三日目が経ち、今日も辛い一日が始まろうとしていた。
まだ朝食の前であればサラスもやってこないので、その合間にレティアが私の顔を見にきてくれた。
レティアがやってきたので重たい体を動かして何とかテーブルについた。
「大丈夫ですか、お姉さま?」
「大丈夫ではありません」
わたしは机の上で伏せたまま答える。
もう淑女とか言っている場合ではないほどだらけた姿をしているが今の間は許してほしい。
一日中サラスに指導されるのは肉体的疲労よりも精神的な疲労の方が大きいのだ。
「レイナとラケシスもかなり疲れていますわね」
レイナとラケシスも眠たい目をこすりながら職務を果たす。
同じようにサラスから指導されており疲労困憊のようだ。
「姫さまを守ることができず申し訳ございません。さすがのわたくしでもおばさまを相手にはどうすることもできずこのような体たらくです」
「まさかサラスさまが来られるなんて思いもしませんでしたからね。流石はシルヴィの元教育係です」
ラケシスとレイナも同学年の間では優秀な侍従にも関わらず、それでもまだまだレベルが足りないと言われているのだ。
一体サラスにはどのレベルが見えているのだろうか。
「もう嫌です。誰か、サラスを帰す手立てを見つけられないですか! このままではわたくしは死んでしまいます」
「諦めてください。でもサラスさまの言うことはもっともなことです。裁縫に帳簿管理、そして法律の勉強も卒業までに覚えきればいいと甘い考えでいたわたくしたちに当主の側近はその程度では務まらないことを再認識させてくださったのですから」
うっ、と正論にわたしも言葉が詰まってしまった。
確かに本来やるべきことをしていなかったのはわたしたちだ。
しかし今はそれよりも大事なことがある。
「みんなはサラスにバレないように上手くやっておりますか?」
わたしは小声でレイナたちにそう言うと二人は頷いてくれた。
どうにか鎧を百着発注したことについてはバレないように側近達に協力してもらっている状況だ。
だがいずれ請求書がくればバレてしまい、そのお金を払うこともできず問題が起きてしまう。
なのでわたしたちも短い時間を使ってどうにか分担で仕事をお願いしている。
「下僕からこのような資料が来ております」
レイナが数枚のレポートを出してくれた。
わたしもその中身を見ると、シュティレンツの歴史をまとめたことが書かれていた。
「なになに、シュティレンツは過去によく取れた魔鉱石を使って銀とよく似た性質の金属を作り武器や防具、魔道具や装飾の産業に大きく貢献していた。しかし、魔力不足が原因か魔鉱石自体が採掘できなくなり、今では産業が大きく衰えた。ふむふむ……ってものすごく重大な発見じゃない!」
わたしはさらっと読んだだけだが十分な情報を手に入れてしまった。
他のみんなも同じように驚いている。
流石はわたしの側近だ。
みんなと同じくらい忙しいのによくここまで調べてくれたものだ。
「そうするとまたマリアさまが踊れば土地が復活するかもしれませんね」
「姫さま、わたくしもぜひ連れて行ってください!」
ラケシスは先ほどの疲れがどこにやら飛んで行ったかのように手を挙げてぴょんぴょん跳ねている。
恐るべしラケシスの欲求。
「あら、扱い注意? なにかしら」
そこで扱い注意と大きく書かれたレポートに気付いた。
どうやらシュティレンツの伝承以外についてもあるようでわたしは中身を確認する。
「えっと、シュティレンツ以外の金策案……おお!」
「これほどの情報以外にもさらに提案してくるなんてやるわね、下僕。わたくしも姫さまの気を引くために負けてはいられませんね」
「何を張り合っているの? それよりもどのようなことが書かれていますでしょうか?」
わたしもそのレポートを読み上げる。
「まずはカジノでお金を稼ぐ……、カジノって何ですの?」
わたしは聞き慣れない言葉が出てきたので、レイナとラケシスに聞いてみるがよくわかっていない。
二人も知らないとなると一体どのようなことをするのかがわからない。
「マリアさま、クロートが至急お話したいことがあるようなのですが、入室の許可を与えてもいいでしょうか?」
今日はセルランに非番を与えているので代わりにステラが確認する。
わたしが許可をすると念のためヴェルダンディが護衛のため一緒に入室した。
朝の挨拶と一緒に要件を告げる。
「弟からレポートが届いておりますね。わたしからも挟ませていただきました」
「この金策案ですか? 」
「左様でございます」
どうやら下僕だけでなくクロートも協力してくれたようだ。
てっきりサラスと一緒にわたしを勉強から逃さないようにしていると思っていたが、クロートに関してはそうではないようだ。
「ちょうど良かったです。このカジノって何ですの? 」
「カジノ!? おいクロート、流石にそれはまずいだろ!」
どうやらヴェルダンディはカジノを知っているようで、慌てた様子でクロートを止めている。
まさかヴェルダンディがレイナとラケシスでも知らないようなことを知っていることに驚きだ。
クロートの方は特に顔色を変えずに答えた。
「平民や下級貴族が熱中している賭博場のことです」
そこでレイナとラケシスの目が一瞬で据わった。
その目線にヴェルダンディは耐えきれずにクロートの後ろへと隠れてしまった。
「クロート、マリアさまに何をさせる気ですか?」
「下賎な下々の娯楽に姫さまも興じろなんて戯言をいうのですか?」
「何か誤解されています。今回のことは姫さまの責任でこのようなお金が必要な事態になったと聞いております。それならば自分の招いた問題はご自身で解決していただくのが筋ではございませんか? それにこれは遊びではありません、仕事です」
クロートの全く譲らない物言いに、レイナとラケシスも殺意が膨れ上がっている。
側近としてそれは正しい判断なのだが、それとは裏腹にわたしは少し興味深いことのように感じた。
「面白そうですね。クロート、わたくしをその場所へ連れて行きなさい」
「マリアさま!?」
「お考えなおしてください!」
レイナとラケシスは驚き、わたしをどうにか引き止めようとする。
しかし、クロートの言うことはその通りだ。
わたしのせいでお金が必要になったのならわたしがどうにかするべきである。
「すぐにお金が手に入るのなら何でもするべきです。たとえ伝承の通り土地が復活したとしても、その後に採掘と錬金術を行うのなら時間を稼がなければなりません。クロート、そこで多額のお金が手に入るのですよね?」
「もちろんでございます」
わたしはその答えを信じてすぐさま準備を始める。
しかしそれでもレイナとラケシスは納得がいかないようで、不満げな顔をしていた。
次のクロートの言葉はさらに二人の心象を悪くする。
「お二方はここでサラスさまの足止めをお願いします!」
「なっ!? 平民が多数いる汚らしい場所に姫さまをお連れするのに侍従一人連れていかないのですか!」
クロートはラケシスの言葉を軽く聞き流して肩をすくめるだけだ。
「当たり前です。マリアさまだけでも周りから浮いている存在感があるのに、それにお二方が付いてきたら入店から断られます。護衛も必要最低限として、わたしと色々詳しいヴェルダンディで行います。これは社会勉強も兼ねているので、世事に疎いお二人には別の機会で学んでください」
わたしとレティア、レイナとラケシスは揃って冷たい視線をヴェルダンディへと向けた。
どうやらわたしの知らないところで、大人な遊びにはまっているようだ。
「ちょっと待ってください、ヴェルダンディ……まさかあなた、マリアさまの護衛ではない日はよくどこかへ消えると思っていましたが普段から通っていますね!」
レイナの指摘にヴェルダンディの顔は焦りに焦っている。
なんだか楽しくなってきた。
「ぎくっ、おいなんでクロートがそのことを知っている! まさか下僕のやつバラしたな!」
「いいではありませんか。くだらない遊びをやっていたことが今回は吉と出たのです。姫さまからのお説教は今度してもらうとして、今回は働いてもらいますよ」
クロートは少しばかり頬を緩めて楽しげだ。
わたしも便乗しておこう。
「ええ、ヴェルダンディ。わたくしの側近として何をやっていたかを今度教えてくださいまし。内容によってはしばらくの間外出は禁止しますが」
「いかがわしい事はしてないですって! くそ覚えておけよあのやろう!」
今この場にいない下僕に悪態を吐いたのだった。
まだ朝食の前であればサラスもやってこないので、その合間にレティアが私の顔を見にきてくれた。
レティアがやってきたので重たい体を動かして何とかテーブルについた。
「大丈夫ですか、お姉さま?」
「大丈夫ではありません」
わたしは机の上で伏せたまま答える。
もう淑女とか言っている場合ではないほどだらけた姿をしているが今の間は許してほしい。
一日中サラスに指導されるのは肉体的疲労よりも精神的な疲労の方が大きいのだ。
「レイナとラケシスもかなり疲れていますわね」
レイナとラケシスも眠たい目をこすりながら職務を果たす。
同じようにサラスから指導されており疲労困憊のようだ。
「姫さまを守ることができず申し訳ございません。さすがのわたくしでもおばさまを相手にはどうすることもできずこのような体たらくです」
「まさかサラスさまが来られるなんて思いもしませんでしたからね。流石はシルヴィの元教育係です」
ラケシスとレイナも同学年の間では優秀な侍従にも関わらず、それでもまだまだレベルが足りないと言われているのだ。
一体サラスにはどのレベルが見えているのだろうか。
「もう嫌です。誰か、サラスを帰す手立てを見つけられないですか! このままではわたくしは死んでしまいます」
「諦めてください。でもサラスさまの言うことはもっともなことです。裁縫に帳簿管理、そして法律の勉強も卒業までに覚えきればいいと甘い考えでいたわたくしたちに当主の側近はその程度では務まらないことを再認識させてくださったのですから」
うっ、と正論にわたしも言葉が詰まってしまった。
確かに本来やるべきことをしていなかったのはわたしたちだ。
しかし今はそれよりも大事なことがある。
「みんなはサラスにバレないように上手くやっておりますか?」
わたしは小声でレイナたちにそう言うと二人は頷いてくれた。
どうにか鎧を百着発注したことについてはバレないように側近達に協力してもらっている状況だ。
だがいずれ請求書がくればバレてしまい、そのお金を払うこともできず問題が起きてしまう。
なのでわたしたちも短い時間を使ってどうにか分担で仕事をお願いしている。
「下僕からこのような資料が来ております」
レイナが数枚のレポートを出してくれた。
わたしもその中身を見ると、シュティレンツの歴史をまとめたことが書かれていた。
「なになに、シュティレンツは過去によく取れた魔鉱石を使って銀とよく似た性質の金属を作り武器や防具、魔道具や装飾の産業に大きく貢献していた。しかし、魔力不足が原因か魔鉱石自体が採掘できなくなり、今では産業が大きく衰えた。ふむふむ……ってものすごく重大な発見じゃない!」
わたしはさらっと読んだだけだが十分な情報を手に入れてしまった。
他のみんなも同じように驚いている。
流石はわたしの側近だ。
みんなと同じくらい忙しいのによくここまで調べてくれたものだ。
「そうするとまたマリアさまが踊れば土地が復活するかもしれませんね」
「姫さま、わたくしもぜひ連れて行ってください!」
ラケシスは先ほどの疲れがどこにやら飛んで行ったかのように手を挙げてぴょんぴょん跳ねている。
恐るべしラケシスの欲求。
「あら、扱い注意? なにかしら」
そこで扱い注意と大きく書かれたレポートに気付いた。
どうやらシュティレンツの伝承以外についてもあるようでわたしは中身を確認する。
「えっと、シュティレンツ以外の金策案……おお!」
「これほどの情報以外にもさらに提案してくるなんてやるわね、下僕。わたくしも姫さまの気を引くために負けてはいられませんね」
「何を張り合っているの? それよりもどのようなことが書かれていますでしょうか?」
わたしもそのレポートを読み上げる。
「まずはカジノでお金を稼ぐ……、カジノって何ですの?」
わたしは聞き慣れない言葉が出てきたので、レイナとラケシスに聞いてみるがよくわかっていない。
二人も知らないとなると一体どのようなことをするのかがわからない。
「マリアさま、クロートが至急お話したいことがあるようなのですが、入室の許可を与えてもいいでしょうか?」
今日はセルランに非番を与えているので代わりにステラが確認する。
わたしが許可をすると念のためヴェルダンディが護衛のため一緒に入室した。
朝の挨拶と一緒に要件を告げる。
「弟からレポートが届いておりますね。わたしからも挟ませていただきました」
「この金策案ですか? 」
「左様でございます」
どうやら下僕だけでなくクロートも協力してくれたようだ。
てっきりサラスと一緒にわたしを勉強から逃さないようにしていると思っていたが、クロートに関してはそうではないようだ。
「ちょうど良かったです。このカジノって何ですの? 」
「カジノ!? おいクロート、流石にそれはまずいだろ!」
どうやらヴェルダンディはカジノを知っているようで、慌てた様子でクロートを止めている。
まさかヴェルダンディがレイナとラケシスでも知らないようなことを知っていることに驚きだ。
クロートの方は特に顔色を変えずに答えた。
「平民や下級貴族が熱中している賭博場のことです」
そこでレイナとラケシスの目が一瞬で据わった。
その目線にヴェルダンディは耐えきれずにクロートの後ろへと隠れてしまった。
「クロート、マリアさまに何をさせる気ですか?」
「下賎な下々の娯楽に姫さまも興じろなんて戯言をいうのですか?」
「何か誤解されています。今回のことは姫さまの責任でこのようなお金が必要な事態になったと聞いております。それならば自分の招いた問題はご自身で解決していただくのが筋ではございませんか? それにこれは遊びではありません、仕事です」
クロートの全く譲らない物言いに、レイナとラケシスも殺意が膨れ上がっている。
側近としてそれは正しい判断なのだが、それとは裏腹にわたしは少し興味深いことのように感じた。
「面白そうですね。クロート、わたくしをその場所へ連れて行きなさい」
「マリアさま!?」
「お考えなおしてください!」
レイナとラケシスは驚き、わたしをどうにか引き止めようとする。
しかし、クロートの言うことはその通りだ。
わたしのせいでお金が必要になったのならわたしがどうにかするべきである。
「すぐにお金が手に入るのなら何でもするべきです。たとえ伝承の通り土地が復活したとしても、その後に採掘と錬金術を行うのなら時間を稼がなければなりません。クロート、そこで多額のお金が手に入るのですよね?」
「もちろんでございます」
わたしはその答えを信じてすぐさま準備を始める。
しかしそれでもレイナとラケシスは納得がいかないようで、不満げな顔をしていた。
次のクロートの言葉はさらに二人の心象を悪くする。
「お二方はここでサラスさまの足止めをお願いします!」
「なっ!? 平民が多数いる汚らしい場所に姫さまをお連れするのに侍従一人連れていかないのですか!」
クロートはラケシスの言葉を軽く聞き流して肩をすくめるだけだ。
「当たり前です。マリアさまだけでも周りから浮いている存在感があるのに、それにお二方が付いてきたら入店から断られます。護衛も必要最低限として、わたしと色々詳しいヴェルダンディで行います。これは社会勉強も兼ねているので、世事に疎いお二人には別の機会で学んでください」
わたしとレティア、レイナとラケシスは揃って冷たい視線をヴェルダンディへと向けた。
どうやらわたしの知らないところで、大人な遊びにはまっているようだ。
「ちょっと待ってください、ヴェルダンディ……まさかあなた、マリアさまの護衛ではない日はよくどこかへ消えると思っていましたが普段から通っていますね!」
レイナの指摘にヴェルダンディの顔は焦りに焦っている。
なんだか楽しくなってきた。
「ぎくっ、おいなんでクロートがそのことを知っている! まさか下僕のやつバラしたな!」
「いいではありませんか。くだらない遊びをやっていたことが今回は吉と出たのです。姫さまからのお説教は今度してもらうとして、今回は働いてもらいますよ」
クロートは少しばかり頬を緩めて楽しげだ。
わたしも便乗しておこう。
「ええ、ヴェルダンディ。わたくしの側近として何をやっていたかを今度教えてくださいまし。内容によってはしばらくの間外出は禁止しますが」
「いかがわしい事はしてないですって! くそ覚えておけよあのやろう!」
今この場にいない下僕に悪態を吐いたのだった。
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