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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

祝勝会

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 平民たちが趣向を凝らした芸や見世物を競技場で行うが、まずはわたしは参加した者たちを労うためにお父様にお願いして、学生だけのパーティを執り行うため離宮の大広間を借りた。
 百人以上の人数が集まるので椅子に座ってテーブルを分けるより、立式にしてバイキング形式とした。
 身分関係なく呼んでいるので、普段は食べられないものを食べさせてあげたほうが喜ぶだろう。
 伝説の杖の載った大きなタペストリーをレイナ、ラケシス、ディアーナがこのパーティを予期して刺繍してくれたようだ。


 ……この子たち有能すぎるでしょう。


 領土ごとに入場してきた。
 領主候補生である、メルオープ、カオディ、ユリナナの三人も来ていた。
 ユリナナに関してはマンネルハイムに参加はしていないが、派閥に入っているので仕方なく来たのだろう。
 表面上は招待を感謝されたが、今回の魔法祭では必要最低限の協力のため嘘にしかみえない。
 まだヨハネとわたしのどちらを選ぶか決めかねているのだろう。


「マリアさま、優勝おめでとうございます」

 ラナとアリアがやってきた。
 ラナが水色のドレスを着ており、髪を可愛く纏めて首から這わせるように前に垂らしている。
 やはり最上級生となってくると大人の色気が際立っており、男性陣もチラチラと見ている者も多い。
 アリアは赤いドレスとお花の髪飾りによって普段よりもさらに愛おしいものとなっている。
 共同研究をしてもらったので、協力してもらったシュトラレーセの学生たちも呼んである。


「よく来てくださいました。シュトラレーセの協力のおかげでこのような催しができます。ぜひ楽しんでいってくださいね」
「はい。わたし、これからもマリア姉さまのような方になれるように頑張ります」


 うんうん、と微笑ましく思っているとラナとレティアの顔が固まっている。
 他にも側近たちも似たような感じだ。
 そういえばわたしもまだ誰にもアリアに姉さま呼びをさせているのを伝えてなかったことを思い出す。
 アリアも無邪気に言うのでおそらく伝えていないのだろう。


「つい、可愛かったのでそう呼んでほしくてお願いしましたの。ラナという姉がいるのに失礼だと思ったのですが、気持ちを抑えられなくて」
「い、いえ。マリアさまが許可をしているのであればいいのです」


 ラナは少しばかり戸惑っている。
 わたしの側近も似たような雰囲気であり、どうしたものかと思った。

 ……あとで聞きましょう。


「お姉さまがわたしだけのお姉さまではいてくれないのですね」


 レティアが少しばかり膨れている。
 これは独占欲というものだろうか。
 レティアの背中を軽く触り微笑むと少しずつ機嫌を直してくれた。
 次にやってきたのはメルオープが三人の下級貴族を連れてやってきた。


「マリアさま、最後の戦いでは不甲斐ない自分をお許しください」
「気にしないでくださいませ。あなたには連日頑張らせた無理が来たのでしょう。後ろの三人も今回の戦いは頑張りました」


 特にルージュは上級貴族相手に雪辱戦を果たしたのだ。
 これで他の下級貴族たちも少しはこちらの派閥へ入りたがるはずだ。
 三人とも誇らしげにしているので、前のようないじめられっ子から成長したのだろう。


「次の騎士祭も期待しております。あとはもう少し研究所の方でも成果が出ると嬉しいのですが」
「わたしどももどうにか試行錯誤しているのですが、まだまだ資源と資金がありませんので遅々として進んでいません。ですが土地が復活していけばもう少し良い発表ができるかと思います」
「こればかりは少し時間を見てみるしかありません。……せっかくの祝勝会なので大変な話は明日からにしましょうか。楽しんでいってくださいね」


 メルオープたちは一礼してその場を離れていった。
 今回はほとんど身分に関係なく呼んでいるので少し騒がしいが、せっかく頑張ってくれたのだから今日くらいはいいだろう。
 今日は慰労も兼ねているので、成人した側近以外は全員参加者として出席してもらっている。
 レイナとアスカは仲良く談笑しているのが見えた。

「二人とも楽しそうですわね」
「マリアさまも聞いてくださいよ。この子魔法祭で……」
「ちょっとレイナ! マリアさまに言わないでくださいよ! 秘密って約束でしたでしょ!」


 どうやらアスカは途中で一人だけ逸れてしまったらしい。
 たまに抜けているせいか思わぬところで被害がくるが、事前にラケシスとレイナがサポートしたおかげで難を逃れたのこと。
 亜魔導アーマーや研究の方でも頑張ってくれたのでよしとしよう。
 次に目に入ったのは下僕とヴェルダンディとルキノだった。
 なかなか珍しい組合せだ。


「マリアさまのために文官のお前が前線に出るとはやるじゃないか! それもあのレイモンド相手に倒れなかったんだろ? 」
「ヴェルダンディのおかげだよ。ずっと稽古してくれたからどうにか付いていけたけど、マリアさまが倒してくれなければこっちが倒されてた」
「いいえ、遠くから見ていましたがよく頑張っていました。自信を持ってください」


 ヴェルダンディが下僕相手に特訓してくれていたとは知らなかった。
 文官だから本来騎士の特訓なんてやる必要ないのに、ヴェルダンディが眠っている間も欠かさずやっていたようだ。
 戦いの話をしていたせいか、メルオープもその談話に混じり始めた。


「確かによく持ちこたえていた。わたしはマリアさまに啖呵切ってみせたのにあのざまだ。主人に前に出てもらうなど騎士としてはまだまだ未熟だと実感させられた」
「メルオープさまは領主候補生なのですからあまり気にする必要はないのでは? 」

 メルオープはルキノの言葉に目を逸らした。
 やはり騎士の血が濃ゆいパラストカーティのせいであろう。
 領主として領土を見るより戦いの場に出たいのだろう。


「それならいっそのことマンネルハイムの合同練習でも今後行わないか? 騎士祭だってあるし、次はルキノも前に出たいだろ? 清楚な見た目にあわず脳筋だもんな」


 ルキノは周りの視線を確認してわたしと目が合った。
 わたしは笑顔で思いっきり頷き、ルキノも意味を汲み取ったようだ。
 ドレスの裾をあげて思いっきりヴェルダンディのお尻を蹴り上げた。


「~~~~!」


 痛みのせいで漏れる声を出しながら静かに悶絶している。
 下僕といい、ヴェルダンディといい女性への配慮が足りないのでいい気味だ。
 メルオープは普段見ない姿をみてポカーンとしていた。
 ルキノは何もなかったように笑顔でメルオープに問いかける。

「どうかしましたか、メルオープさま?」
「いや、ルキノさまは心が熱い方だと思ってもいませんでしたので。ぜひマンネルハイムの合同練習に参加させていただこう」

 少しばかりメルオープの目に熱が帯びている気がするが気のせいだろうか。
 まあ、側近たちの仲も良好なようなので良しとしよう。
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