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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

魔法祭の結果発表

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 蒼の髪の伝承についてはしっかり評価されたようで一緒に表彰を受けるようだ。



「先生ですか、不快なのでどこかへ消えてくれません」
「っえ、僕はそこまで嫌われていましたっけ」


 おっと、つい幸せな気分だったため本音が出てしまった。
 わたしは貴族特有の曖昧な笑顔を向けた。
 だが流石に色々な恩があるのであまり邪険にしすぎるのも良心が痛む。


「冗談ですわよ。先生こそおめでとうございます。でもまさか先生が自ら出られるなんて思ってもみませんでした」
「本来なら六番に行かせたかったが、僕の研究による部分が大きすぎてね。ムーサさまからも僕が出るように言われたんですよ」


 何故だかホーキンス先生は弟子に取った生徒を順番に番号で呼ぶようで、下僕のことを六番と呼んでいる。
 土地が回復するような現象についてのレポートは興味が引かれる者も多いようで、今回の表彰となったようだ。
 さらに隣ではカオディが立っており、魔導アーマーはしっかり評価されたようだ。
 ジョセフィーヌ領全体で合計五つの研究所が選ばれ、スヴァルトアルフの七つと王族の六つが上にあるが三位というこれまでにない素晴らしい成果だ。
 研究所ごとに表彰状をもらった。
 さらに今後は一律で国から援助が多少下りることになったのでカオディは特に喜んでいた。
 全員で列の方へ振り返って表彰状を掲げて惜しみない拍手をもらった。
 受賞者の中にアクィエルの顔がチラッと見えて、どうやら研究所に関しては評価されたようだ。
 こちらに気付いて表彰状をひらひらと見せびらかしてくる。
 しっかり受賞されているあたり彼女の行動力は本当にすごいとそこだけは感心してしまう。


「次は総合優勝を発表をしますので、一度おさがりください」

 再度列へと戻るとついに総合優勝だ。
 わたしは手を握って神へと祈りを捧げる。
 王族の領土に表彰された研究所の数で負けているため、あとは研究の重要度でいくらでも順位が変わってしまう。
 心臓の動きがどんどん早くなっていく。
 それなのに時間の流れはゆっくりのため、今か今かと待っていた。

「総合優勝ジョセフィーヌ領」


 ……キャアアアアア!


 やったやったとわたしは大きく拍手した。
 それにつられてわたしと共に出場した選手たちも一様に盛り上がって、自身のマントを空へと投げていた。


「やりましたね、マリアさま!」
「ええ、やりました! みなさんやり遂げましたよ!」


 レイナの言葉に頷いて全員に伝えた。
 もちろん全員が優勝したことをわかっているだろうが、それでも伝えずにはいられなかった。
 各々の選手たちが肩を抱き合ったり、水の女神万歳とラケシスが盛り上げていた。
 わたしは代表として今度は一人で全員の先頭に出てムーサの元へと向かう。


「ジョセフィーヌ領、総合優勝おめでとうございます。マンネルハイムに続き、研究の成果についても素晴らしいものです。まるでスヴァルトアルフの改革を見ているようです。季節祭制覇を楽しみにしております」
「はい、この結果に慢心することなく日々みんなと成長していきます」


 わたしはムーサから魔法祭優勝を表す杖をもらった。
 蒼の髪を持った人物が持っていた伝説の杖のレプリカらしいが、今では本物がどこにあるのかもわからないものだ。
 それを全員に見せるため大きく掲げた。
 一段大きな拍手でこちらを祝福してくれる。
 これでわたしも無事最初の関門だった目的も達した。
 そこで疑問が出てくる。

 ……結局夢の内容を思い返すのを忘れたままでした。なんで季節祭で優勝を目指していたんでしたっけ。


 夢の内容をすっかり忘れていたが、今のところは問題ないはずだろう。
 拍手に迎えられながら列へと戻っていった。
 最後に国王の言葉を待った。
 国王は訓練場の中央にある専用の席からこちらを見渡して一拍置いて話し始める。


「学生諸君、これまで魔法祭のために頑張り大変ご苦労であった。今回の魔法祭は特にジョセフィーヌ領の働きは目覚ましいものであった。このように盛り上がれば神々も喜ばれるだろう。では最後に最高神へ魔力の奉納を行なってこの魔法祭を閉会としよう」


 ……ガイアノスの件は何もなしなの?


 ウィリアノスも特に何も聞いていなかったのか戸惑っている様子だ。
 わたしの側近も同じように考えているようで不満の色が強い。
 わたしだってそうだ。
 完全に今回のことを無かったことにしようとしている。
 だがせっかくの優勝のよい気分を壊すのは悪いと思い、わたしは特に異論を言うつもりもない。
 側近たちもわたしが抗議を言わないわけに気付いているので、なんとか飲み込んでいる。
 そして全員で光と闇の神に魔力の奉納を行った。
 当然わたしだけは魔力の奉納ができないので形だけのお祈りとなった。

 ……どうせなら三神にも送らせてくれればわたしも感謝を捧げますのに。


 国王が最高神にのみ指定しているのでわたしだけ他の神へ送ったら悪目立ちしてしまう。
 こういったことは伝統に従わなければならない。
 そして魔法祭二日目が終わり、明日は魔法祭の後の祭りとして王国院内でお祭りが開かれる。
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