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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

ルールは守ってます

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 開始と同時にわたしは全員に命令する。


「全員、直ちに集まりなさい!」


 わたしを中心に全員が集まってトライアングルを形成する。
 作戦は至ってシンプル。
 こちらは人数が少ないのだから下手に分散するよりは全員で固まったほうが効率がよい。
 中央からまっすぐ突破するのだ。


「進みなさい! 」


 全員の騎獣が陣形を崩さないように突き進んだ。
 敵の先行している部隊をこちらはまずは叩く。
 十数人の先行部隊を叩き終えて、敵側陣営にたどり着き魔力を駒へと運ぶ。
 わたしも今回は攻めることよりも魔力を入れることに集中した。
 だが相手もすぐにこちらに対応してくる。
 邪魔をするためこちらと同じ人数が攻めてくる。


「姫さまの邪魔を許してはいけません! 」 
「了解!」


 ラケシスの号令でシュティレンツの生徒たちは張り切って戦い始める。
 こちらが守りで固めているので戦えているが少しずつこちらの者たちが拘束されていく。
 魔力量の大きい上級騎士が相手では待ち構えていても互角以上の戦いをしてくるので内心焦っていた。


「どうした、マリア! こちらはどんどん魔力を込めているぞ!」


 ウィリアノスもこちらの突撃に参加しており、豊富な魔力で自身を強化しているウィリアノスは鬼神が如く。
 一人、また一人とこちらは人数を減らしていった。


「流石です、ウィリアノスさま。でもわたくしも負けるわけにはいきません! そろそろ来ますので全員持ち堪えなさい!」


 わたしの言葉に敵は意味を理解していない。
 何かしら魔法を使った奇策をしてくれるとは思ってくれているからだろうか、相手の攻める人数が増えてきた。
 それは逆にわたしたちにとって好都合だった。


 ドゴォンン!

 体の芯まで震えるような爆音が観客の歓声すら打ち消した。
 全員が何事かと空を見る。
 空から魔力の塊が広がるように人形へと落ちてきた。


「な、なんだこれは!」


 ウィリアノスは一旦謎の光が落ちてきたため、攻めている者たちを避難させた。
 だが特に逃げる必要はない。
 人体には特に影響を及ぼすわけではない。
 これは駒へ魔力を送っているのだ。
 一瞬にして二十以上の駒に魔力を込め終わった。


「外からの援護だと……!? 流石に反則ではないのか?」
「ルールを確認しましたが魔法祭には禁止と書かれていませんでした!」


 わたしは何度もルールを確認したので失格になることはない。
 もちろん少しズルだと思えなくないが、勝つためにはこうするしかない。
 今日出場できなかった者たちに大砲に魔力を充填してもらったのだ。
 おかげでかなりの魔力を一気に放つことができた。


「全員、相手よりも早く駒に魔力を込めなさい! 」


 こちらが有利のうちに決着を付けねばならない。
 魔力を込める時間はこちらの方が長い。
 モタモタしているとすぐに追いつかれてしまう。
 大砲だとどうしても狙いが大雑把になってしまうので、乱雑に残っている駒へ魔力を送るのは難しい。
 あとは総力戦で勝つしかない。
 だがやはり王族の領土は優秀な学生が多すぎる。
 有利だった時間はもう過ぎ去り、駒の数が並ばれてしまった。
 あと十個ほどなのにこれ以上の手はない。
 そこで思わぬ人物がこちらへ攻めてきた。


「かかかっ、俺も手伝いに来てやったぜウィリアノス!」
「ガイアノス! 何をしているんだ! このまま駒へ魔力を込めれば勝てるんだぞ! なぜそんなに上級騎士を連れてくるんだ!」
「そんなの決まっているだろう。あの女に格の違いを見せないとな!」

 五人の上級騎士とガイアノスが参戦してきた。
 だがこれは逆に運がいい。
 ガイアノスの暴走で駒へ魔力を送る人数が減ったので、耐えきれば勝つことができる。
 だが、そんな考えは甘いという現実が襲ってきた。
 ガイアノスはトライードを黒く光らせて一閃した。

「各位散れ!」


 ルキノがすぐに大声で叫ぶ。
 禍々しい力が振るわれ、黒く光る斬撃が地面を抉りながら向かってくる。
 ルキノの素早い避難誘導で全員が無事であったが、その攻撃が残した傷跡は想像を絶するものだった。
 地面が割れてわたしはルキノと共にいたが、その他の側近たちとは離れてしまった。


「俺はマリアの方を攻める、お前たちはあっちを片付けろ! ウィリアノス、お前もあっちへ行け。こっちは俺一人でどうにかする」
「ガイアノス、なんだその力は? 」
「あー、もううるせえな。少し眠っておけ」


 ガイアノスが何かを呟くとウィリアノスはガクッと騎獣の上で倒れ、魔力を供給しなかった騎獣が姿を消した。
 すぐにウィリアノスを守っていた側近が助けたので外傷はない。


「どうやら疲れて眠ったようだな。おまえたちウィリアノスを休ませておけ」
「ガイアノスさまが何かしたように見えましたが……いえ、何もありません」


 ウィリアノスの側近は非難げだったがガイアノスの目を見てやめた。
 これ以上刺激するとウィリアノスも危険になると判断したのだろう。
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