上 下
51 / 259
第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

亜魔導アーマー

しおりを挟む
 アクィエルの安全を守護する騎士はアクィエルに変わって戦況を分析している。
 もともと優秀な敵に対してはこちらも相手のミスを期待してはいない。
 こちらの予想通り側近の騎士はすぐにこちらが攻めてくることに気が付いた。

「アクィエルさま、変な鎧組が向かってきております。一人は別の方向へ向かっていきますね」
「まあ、本当ですわね。あの黒い鎧以外は全く見ない顔ですわね」
「あれはパラストカーティの下級貴族です」

 ルブノタネの手下は過去にいじめていた者たちだと気付き、アクィエルの疑問を解消させた。
 アクィエルはさらに笑いだした。
 こちらを舐めた態度にいいものを見せるときだ。
 相手も撃退のために側近一人を動かしてきた。
 おそらくは中級や下級貴族程度なら一人で十分ということだろう。
 目にも止まらぬ速さで先ほどのように撃墜させるつもりのようだ。


「残念だがアクィエルさまの元へは行かせない!」

 騎士のトライードが下僕へと振りとされた。
 だが下僕はその一撃を同じくトライードで受け止めるのだった。


「なにぃ!?」
「僕たちを甘く見過ぎだ!」

 魔力の劣る下僕が受け止めるとは思ってもみなかった敵は驚愕の表情を浮かべる。
 魔力強化で筋力の差が大きくなるはずなので下僕では一瞬も保たないと思ったのだろう。
 その油断が逃げるという選択肢をなくしてしまった。
 ジョンとヴェートがトライードで敵を風竜から叩き落とした。
 高所から落下して気を失ったのを確認したが念のために拘束をした。


「おいおい、あれは中級と下級貴族らしいじゃないか」
「それは本当かね。アクィエルさまの側近は上級の中でもトップの成績のはずだぞ。最低でも上級以上じゃないと相手にならないはずだ」
「あのへんてこな鎧のおかげか? もしや魔道具か?」


 観客たちもわたしの配下の者たちがアクィエルの側近を倒したことでかなり関心を集めている。
 これなら試合が終わった後に研究所に人がたくさん見に来るに違いない。
 計画通りではないが、思惑通りにことが進んでいるので結果オーライだ。
 これで残る主力は一人のみ。
 あとは援護が来る前に倒すだけ。


「全員、アクィエルさまが危ない! 一度下がるぞ」


 敵側も前線から後方へ引き下がろうと命令を下す。
 指揮官が捕らえられてしまったら負けるのでいい状況判断だ。


「姫さまの王道に邪魔はさせません! シュティレンツは姫さまのために捨て身で止めなさい! 」
「はい、ラケシスさま、我らが女神のために!」

 ラケシスの命令にシュティレンツは迷いなく従った。
 ゴーステフラートにはレイナを、シュティレンツにはラケシスを派遣したりしたのでいつのまにか騎士たちの心を掴んでいるようだ。
 しかし少しばかり目に熱がこもりすぎではないだろうか。

「ラケシスは一体何を吹き込んだのかしら?」
「マリアさまに対して悪いことはしてないと思いますので、お見逃しするのがいいと思います」

 わたしもそう願う。
 ラケシスならうまく手綱を引いてくれるだろう。
 そこで悲鳴が聞こえてきた。
 アクィエルを捕まえに行っていた三人のうちの一人、ジョンが気絶した状態で拘束されていた。


「不意打ちで倒したようだが所詮は下級貴族。アクィエルさまをお守りする最強の騎士である、このレイモンドに勝てると思うな!」


 下僕とヴェートは魔力をさらに込めて亜魔導アーマーに力を与える。
 だが鎧の性能を最大限使っても、上級騎士の中でもトップの魔力を持つレイモンドには遠く及ばない。

 ……早くしなさい、ルートくん!


 メルオープとルブノタネはお互いに何度も得物をぶつけ合った。
 鬼気迫るルブノタネの攻撃には殺意が乗っており、メルオープもなかなか反撃にいけてない。

「この前の仕返しだああ!」


 ルブノタネはまるで長年の宿敵かのように憎悪をぶつけていた。
 前にやられたと言っていたのでそれのことだろう。
 腐っても上級騎士なため、魔力の消費の多いメルオープと互角に渡り合っている。


「仕返しならこちらは百年分だぁあ!」


 メルオープも負けじと怒気で槍を振るった。
 鬼気迫るその熱気がこちらにも届くほどだ。
 お互いに攻撃を加えては守るの繰り返しを行いまるでの互角のようにみえたが、長旅の疲労が抜けていないメルオープに一瞬の隙が出来てしまった。


「しまった」
「ははは、これで終わりダァ!」


 殺傷を最小限に抑えたトライードではなく、相手を殺すための刃を出したトライードがメルオープの腹を捉えた。
 一直線に吸い込まれ、懐に入られた槍ではもう間に合わない。


「メルオープさま!」


 ルージュが声を張り上げて、自身の持つトライードでルブノタネの一撃をギリギリのところで止めた。
 亜魔導アーマーの力で底上げされた力にルブノタネは忌々しげだ。
 わたしが考案した鎧のデザインで顔の認識が遅れたようだが、ルージュの顔だと分かると分かりやすいほど相手を馬鹿にした表情となった。

「お前はルージュ!  貴様ぁ、おれに刃向かうのならわかっているだろうな! 」
「ぼくはマリアさまの剣です! 刃があってこそぼくたちはマリアさまをお守りできる!」


 ルージュは自身の気合をトライードに乗せて、ルブノタネの攻撃を跳ね飛ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...