49 / 259
第一章 魔法祭で負けてたまるものですか
二人の指揮官
しおりを挟む
先生方も試合内容を見直してくださり、今回だけ特別に両将を捕縛した方の勝ちというルールへと変わった。
わたしはみんなの士気を高め終わったので、セルランの水竜から降ろしてもらった。
そこでセルランがもう疲れ切った顔をしていた。
「マリアさま、もう何も言いません。ですがどうか無茶はしないでくださいね」
「何を言ってますの。わたくしは一歩も動かないのだから無茶しようがないではありませんか」
わたしは心外だと伝えたが、セルランのため息が大きくなるだけだ。
今はルキノしか護衛できる騎士がいないため、セルランはルキノに注意する。
「ルキノ、負傷したヴェルダンディがいない今では君にすべて任せるしかない。かなり負担になるだろうが、必ずマリアさまをお守りしろ」
「かしこまりました。必ずお守りします」
ルキノは敬しく礼をして了承する。
セルランもわたしの無事を祈ると言って、観客席の方へと戻っていく。
わたしは文官たちを呼び出す。
「リムミント、アスカ、下僕、今回は総力戦となります。リムミントとアスカは二部隊を持って撹乱してください。下僕があの”三人組”を使って状況を見て攻めてください」
「かしこまりました。おそらく今回の戦いですとあれを使ってなんとか互角です。それほど最近のフォアデルへの生徒たちは優秀です」
「そうでしょうね。ゴーステフラートは結局優秀な生徒たちは参加しくれませんね」
ユリナナは傍観を決めているので、他の貴族たちも参加せず。
わたしの水の女神に属している者たちが参加するだけだ。
ゴーステフラートが参加してくれればかなり助けになるが、無いものをねだってもしょうがない。
「アスカはなるべくゼヌニム領の者たちを抑えてください。ラケシスとレイナは上手くサポートしてあげてください」
「お待ちください! わたくしは姫さまのお側でお守りいたします!」
ラケシスは必死の形相でこちらの意見に反対した。
だが、彼女の魔力がなければ前線を維持はできない。
どうにか説得しなければならない。
「ラケシス、あなたは勘違いしているわ」
「勘違いですか?」
「将が動いてはいけないなんてルールはありませんのよ? わたくしの進む道に邪魔者はいりません。真っ直ぐにアクィエルさんまで行くための道を作りなさい」
「かしまりました。姫さまの進む道はわたくしが切り開きます。この日のためにシュティレンツに教育を施してきました。彼らには姫さまの覇道のために犠牲になっていただきましょう」
……こわっ! 教育しろなんて特に命令したことありませんわよ!
ラケシスは楽しげな笑いをするので、あとは放っておこう。
こちらの精神的にもそれが安全だ。
下僕は少し不安げにこちらを見ていた。
「下僕、大丈夫? あまり顔色が良くないですわよ?」
「いえ、ぼくたちの部隊があの二人の護衛騎士を相手にすると考えると足が竦みそうで」
そう、下僕たちに相手してもらうのはアクィエルの身を守護する騎士。
どちらも上級騎士であるため、ルキノやヴェルダンディと大きく実力が変わるわけではない。
だが彼らを突破しなければアクィエルを捕まえることができない。
この戦いの勝利は下僕が握っているといっても過言ではない。
わたしは下僕の背中を叩いた。
「しっかりしなさい! あなたの主人はあの女より上なのよ、それならばわたくしの側近があっちの騎士より弱いなんてあるはずがないでしょ!」
わたしは下僕を勇気付けるためにかなり無茶苦茶な論理を言ったが、下僕の顔から怯えも消えていた。
「そうですね。誰もが憧れるマリアさまの側近は自分からなったんです。それに恥じない動きくらいしてみせます」
これで全員の役割も確認し終わったので、あとは開始の合図を待つだけだ。
主審を務める先生が大きな二対の旗を振り上げて声を張り上げながら落とした。
「マンネルハイム始めぇええ!」
その言葉に全員が動き始めた。
最初に先頭へ出て行ったのはーー。
「我ら、パラストカーティが先陣する! パラストカーティの勇者たちよ、我らの姫のために敵を薙ぎ払え!」
「っは!」
パラストカーティの領主候補生であるメルオープがトライードを普通の剣ではなく、三又の槍へと変化させていた。
魔力の高い領主候補生であれば、自在にトライードを変化させられる。
射程の大きな武器を器用に振り回して、相手をなぎ倒していった。
さすがは騎士を数多く排出していた領土。
魔力不足でも技量の方だけは研鑽を積んでいたようだ。
メルオープたちが倒した相手を次々と捕縛していく。
「いいわよ、メルオープ! じゃんじゃん行きましょう!」
次に目を向けたのはシュティレンツ。
あちらはカオディが指揮官として攻めてくれているはずだ。
だが、劣勢に見舞われていた。
「我々もパラストカーティ共に遅れをとるな! 」
「しかし、フォアデルへは流石に厳しいです!」
カオディは頑張って士気を保とうとしていくが、次から次へと捕縛されていく。
第三位のフォアデルへの騎士たちの猛攻に完全に振り回されていた。
そこへアスカとラケシス、レイナが上級騎士たちを連れて援護に向かっていった。
「みんな、助太刀してあげて!」
アスカの指示にすぐに騎士たちも従う。
さすがに三位の領土といえど、ジョセフィーヌ領の貴族たちも負けてはいない。
ルキノ、ヴェルダンディより一段劣るがそれでもしっかり訓練を積んでいる騎士たちだ。
文官と侍従見習いたちは戦闘を得意としない代わりに後方から魔法や援護をする。
どうにか戦線を立て直したが、それでも少しばかり負けている。
ルキノは曇った顔で戦況を見つめている。
「厄介ですね。あちらもこちらと同じように守るべき主人がいるせいで士気がものすごく高いです」
「ええ、まさか指揮官の存在でこれほど変わるなんて」
わたしが最初にやったこととはいえ、相手から見るとこうも違うのだろう。
守るべき者の存在の大きさを初めて認識した。
あちらもそう思ってか、アクィエルの苦々しい顔を見た。
すぐにこちらに気付いてか急いでその表情を隠して、まるで余裕があるような顔を作った。
今のところはほとんど互角。
どちらも中央の戦いで次々に自分の兵たちを失っていく。
だが均衡も崩れた。
「アクィエル・ゼヌニムさま! 主人の命によりあなたを捕まえます!」
メルオープと数人の騎士が中央を突破してアクィエルの方へと向かっていく。
だがそれを守る二人の側近が目にも留まらぬ速さでメルオープ以外の騎士たちを水竜から叩き落として捕縛した。
「っな、いつのまに!」
二人の上級騎士が風竜に乗って回り込んでいたのだ。
風を支配する彼らの速さは全領一位だ。
「「我々は風の神の加護を持つ者なり! アクィエルさまに手出しは許さない!」」
メルオープはすぐに状況判断をして水竜を上空へと上げさせる。
アクィエルから一旦距離を空けたことで、二人の騎士も主人の近くへと戻っていった。
さすがは側近に登用されただけはある。
魔力をかなり使ったメルオープでは分が悪い。
「くたばれえええ!」
いじめのリーダー格だったルブノタネがメルオープへと追撃をしてくる。
他の手下は未だにアクィエルの椅子を持ち上げているので、単身で攻めているようだ。
メルオープも見覚えのある顔だったようで、槍を構えてぶつかった。
わたしはみんなの士気を高め終わったので、セルランの水竜から降ろしてもらった。
そこでセルランがもう疲れ切った顔をしていた。
「マリアさま、もう何も言いません。ですがどうか無茶はしないでくださいね」
「何を言ってますの。わたくしは一歩も動かないのだから無茶しようがないではありませんか」
わたしは心外だと伝えたが、セルランのため息が大きくなるだけだ。
今はルキノしか護衛できる騎士がいないため、セルランはルキノに注意する。
「ルキノ、負傷したヴェルダンディがいない今では君にすべて任せるしかない。かなり負担になるだろうが、必ずマリアさまをお守りしろ」
「かしこまりました。必ずお守りします」
ルキノは敬しく礼をして了承する。
セルランもわたしの無事を祈ると言って、観客席の方へと戻っていく。
わたしは文官たちを呼び出す。
「リムミント、アスカ、下僕、今回は総力戦となります。リムミントとアスカは二部隊を持って撹乱してください。下僕があの”三人組”を使って状況を見て攻めてください」
「かしこまりました。おそらく今回の戦いですとあれを使ってなんとか互角です。それほど最近のフォアデルへの生徒たちは優秀です」
「そうでしょうね。ゴーステフラートは結局優秀な生徒たちは参加しくれませんね」
ユリナナは傍観を決めているので、他の貴族たちも参加せず。
わたしの水の女神に属している者たちが参加するだけだ。
ゴーステフラートが参加してくれればかなり助けになるが、無いものをねだってもしょうがない。
「アスカはなるべくゼヌニム領の者たちを抑えてください。ラケシスとレイナは上手くサポートしてあげてください」
「お待ちください! わたくしは姫さまのお側でお守りいたします!」
ラケシスは必死の形相でこちらの意見に反対した。
だが、彼女の魔力がなければ前線を維持はできない。
どうにか説得しなければならない。
「ラケシス、あなたは勘違いしているわ」
「勘違いですか?」
「将が動いてはいけないなんてルールはありませんのよ? わたくしの進む道に邪魔者はいりません。真っ直ぐにアクィエルさんまで行くための道を作りなさい」
「かしまりました。姫さまの進む道はわたくしが切り開きます。この日のためにシュティレンツに教育を施してきました。彼らには姫さまの覇道のために犠牲になっていただきましょう」
……こわっ! 教育しろなんて特に命令したことありませんわよ!
ラケシスは楽しげな笑いをするので、あとは放っておこう。
こちらの精神的にもそれが安全だ。
下僕は少し不安げにこちらを見ていた。
「下僕、大丈夫? あまり顔色が良くないですわよ?」
「いえ、ぼくたちの部隊があの二人の護衛騎士を相手にすると考えると足が竦みそうで」
そう、下僕たちに相手してもらうのはアクィエルの身を守護する騎士。
どちらも上級騎士であるため、ルキノやヴェルダンディと大きく実力が変わるわけではない。
だが彼らを突破しなければアクィエルを捕まえることができない。
この戦いの勝利は下僕が握っているといっても過言ではない。
わたしは下僕の背中を叩いた。
「しっかりしなさい! あなたの主人はあの女より上なのよ、それならばわたくしの側近があっちの騎士より弱いなんてあるはずがないでしょ!」
わたしは下僕を勇気付けるためにかなり無茶苦茶な論理を言ったが、下僕の顔から怯えも消えていた。
「そうですね。誰もが憧れるマリアさまの側近は自分からなったんです。それに恥じない動きくらいしてみせます」
これで全員の役割も確認し終わったので、あとは開始の合図を待つだけだ。
主審を務める先生が大きな二対の旗を振り上げて声を張り上げながら落とした。
「マンネルハイム始めぇええ!」
その言葉に全員が動き始めた。
最初に先頭へ出て行ったのはーー。
「我ら、パラストカーティが先陣する! パラストカーティの勇者たちよ、我らの姫のために敵を薙ぎ払え!」
「っは!」
パラストカーティの領主候補生であるメルオープがトライードを普通の剣ではなく、三又の槍へと変化させていた。
魔力の高い領主候補生であれば、自在にトライードを変化させられる。
射程の大きな武器を器用に振り回して、相手をなぎ倒していった。
さすがは騎士を数多く排出していた領土。
魔力不足でも技量の方だけは研鑽を積んでいたようだ。
メルオープたちが倒した相手を次々と捕縛していく。
「いいわよ、メルオープ! じゃんじゃん行きましょう!」
次に目を向けたのはシュティレンツ。
あちらはカオディが指揮官として攻めてくれているはずだ。
だが、劣勢に見舞われていた。
「我々もパラストカーティ共に遅れをとるな! 」
「しかし、フォアデルへは流石に厳しいです!」
カオディは頑張って士気を保とうとしていくが、次から次へと捕縛されていく。
第三位のフォアデルへの騎士たちの猛攻に完全に振り回されていた。
そこへアスカとラケシス、レイナが上級騎士たちを連れて援護に向かっていった。
「みんな、助太刀してあげて!」
アスカの指示にすぐに騎士たちも従う。
さすがに三位の領土といえど、ジョセフィーヌ領の貴族たちも負けてはいない。
ルキノ、ヴェルダンディより一段劣るがそれでもしっかり訓練を積んでいる騎士たちだ。
文官と侍従見習いたちは戦闘を得意としない代わりに後方から魔法や援護をする。
どうにか戦線を立て直したが、それでも少しばかり負けている。
ルキノは曇った顔で戦況を見つめている。
「厄介ですね。あちらもこちらと同じように守るべき主人がいるせいで士気がものすごく高いです」
「ええ、まさか指揮官の存在でこれほど変わるなんて」
わたしが最初にやったこととはいえ、相手から見るとこうも違うのだろう。
守るべき者の存在の大きさを初めて認識した。
あちらもそう思ってか、アクィエルの苦々しい顔を見た。
すぐにこちらに気付いてか急いでその表情を隠して、まるで余裕があるような顔を作った。
今のところはほとんど互角。
どちらも中央の戦いで次々に自分の兵たちを失っていく。
だが均衡も崩れた。
「アクィエル・ゼヌニムさま! 主人の命によりあなたを捕まえます!」
メルオープと数人の騎士が中央を突破してアクィエルの方へと向かっていく。
だがそれを守る二人の側近が目にも留まらぬ速さでメルオープ以外の騎士たちを水竜から叩き落として捕縛した。
「っな、いつのまに!」
二人の上級騎士が風竜に乗って回り込んでいたのだ。
風を支配する彼らの速さは全領一位だ。
「「我々は風の神の加護を持つ者なり! アクィエルさまに手出しは許さない!」」
メルオープはすぐに状況判断をして水竜を上空へと上げさせる。
アクィエルから一旦距離を空けたことで、二人の騎士も主人の近くへと戻っていった。
さすがは側近に登用されただけはある。
魔力をかなり使ったメルオープでは分が悪い。
「くたばれえええ!」
いじめのリーダー格だったルブノタネがメルオープへと追撃をしてくる。
他の手下は未だにアクィエルの椅子を持ち上げているので、単身で攻めているようだ。
メルオープも見覚えのある顔だったようで、槍を構えてぶつかった。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる