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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

亜魔導アーマー

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 しばらくマンネルハイムの練習が授業の代わりに行われる。
 わたしはしばらく見ていなかったため、わたしがいなかった数日でどのように変わったかを貴賓席で見ることになった。
 またもやお暇なアクィエルが小馬鹿にしたような顔で声をかけてきた。

「久々にお顔を見れましたわね。大事な騎士を亡くしてしまったため療養でもしてらしたの?」
「ヴェルダンディはまだ生きてますわよ。情報の一つも満足に文官からもらえないのですね。怪我ももう治りましたのであとは復活を待つのみです。でもアクィエルさんと会えない日々は本当に疲れが取れることに気付きましたの」
「あらっ、それならばずっとお休みでもよかったのに。そうすればあんな滑稽なマンネルハイムも見る必要がなかったのに」


 アクィエルが言った言葉が気になり、マンネルハイムの方を観戦した。
 今回はシュティレンツの領主候補生であるカオディも参加していた。
 メルオープはまだ帰りついてないので仕方ないが、やはりゴーステフラートからは領主候補生たちは誰も出場しない。


 今回の相手は火の神を信仰するリーベルビラン領との戦いだ。
 前に戦ったスヴァルトアルフ領よりは領土自体の発展度も優秀さも下なので、特に策がなくてもどうにかなるだろう。
 そうわたしは甘く見ていた。

 ……惨敗。


 わたしが使った魔法を使った奇策は相手も使い始めている。
 そのせいで終始翻弄されて、立て直せないまま終わった。
 隣でアクィエルが笑う声が聞こえてくるのを聞き流しながら今後の方針を考える。
 そこでウィリアノスさまからお声がかかった。


「指揮官の不在でここまで落ちるとは思わなかった。少しは楽しめるかと思って戦ったときはガックリきたぞ」
「ウィリアノスさまも参加されたのですか!」
「そなたが出ているのだから婚約者である俺が後ろで見ているわけにはいくまい。それにあんな戦いを見せられて黙って観戦など満足できるわけがないだろ」
「本番までにはまた楽しませられるように頑張ります」

 婚約者という言葉に心が撃ち抜かれた気がした。
 ウィリアノスさまは魔法祭は他の学生に見せ場を作るためにわざと参加していなかったが、わたしの戦う姿に触発されたようだ。
 わたしは少し嬉しくなりながらも今後のことを考えていた。
 午後からは自由な時間も多いので、わたしは一度シュティレンツの研究所へと向かう。

「リムミント、最近の進捗はどうですか? シュトラレーセと上手く連携は取れておりますでしょうか?」
「シュティレンツは豊富な魔力や過去の研究のおかげでかなり効率はよくなっております。我々も度々シュトラレーセの研究所に赴き、意見を交換しておりますので良好だと思います。今年はジョセフィーヌ領からも質の高い研究結果を発表できるので是非お楽しみにしてください」
「流石ですわね。リムミントの頑張りがなければ上手くいかないこともあったでしょう。今後もうまく仲を取りもってください」


 わたしはリムミントを労い、だいぶご満悦になった。
 シュトラレーセのおかげこちらの領土も発展するいい機会をもらったのだ。
 わたしがウキウキしながらシュティレンツの研究所へ入ろうとすると、中から大きな音が聞こえてきた。

 壊れる音や大きな声も聞こえてくる。
 とりあえずまずはステラがドアを開けてみる。
 するとシュティレンツの者たちがまるで屍のように倒れている。


 ……また毒!?


 わたしは前に見た襲撃を思い出して身構えた。
 だがそれは杞憂だったようだ。


「ラナさま、それ以上はご勘弁ください! 我々はもう体力がーー」
「なにを甘えたことを言っているのですか。もうすぐ魔法祭が始まるというのに完成品がほとんどできていないではありませんか! 魔力量を言い訳にするのなら限界まで使ってからおっしゃってください」


 カオディが情けない声を上げているがラナはスパッと切り捨てる。
 ラナもまたシュトラレーセの領主候補生でありながらも、研究者としての一面も持っている。
 そこにアリアも居てあたふたしている。


「みなさん、楽しそうですわね」

 わたしが声を掛けるとやっとわたしの入室に気付いて全員が跪く。
 わたしは楽にするように言い、周りを見渡す。
 数人の生徒が変わったフルアーマーを着て倒れていた。


「マリアさまから言ってください! このままでは我々は死んでしまいます」
「死んでしまうとは少し大袈裟ではないですか? マリアさまたちの苦労もわかります。この者たちは少しぬるま湯に浸かりすぎです」


 ラナの話を聞いてみると、シュティレンツは確かに錬金術の知識が多かった。
 魔道具と併用するとかなり強力な道具も作れるので、シュトラレーセもかなり勉強になったようだ。
 しかし、出来るものは多いが、魔力を供給できる人員が足りなくなっていた。
 そこで強硬策として、シュティレンツの生徒を限界まで使うことになったのだ。


「なるほど、そういうことなのですね。それならば水の女神からも人員を出しましょう。多少は人も足りるでしょう」
「ありがとうございます。マリアさまの配慮には心が救われます」
「いえ、せっかくあなたたち上位領地が協力してくださるのですからこれぐらいは協力させてください」


 まずは人員をこちらに割かなければならないので、リムミントにお願いしておく。
 わたしは奇妙な鎧が気になって仕方がない。

「それであの鎧はなんですの?」
「あれは亜魔導アーマーです。もともとの魔導アーマーでは過剰すぎる能力を上手く活用できないかと思いまして、いっそのこと鎧にしてみようと思ってこのようになりました」


 この亜魔導アーマーは上限があるものの下級貴族でも身体強化をかけた上級貴族程度の実力は発揮できるらしい。
 さすがはシュティレンツだ。
 これであまり役にたつとは言えなかった下級貴族もマンネルハイムで活躍させられる。
 アスカも目をキラキラさせていた。

「そんな素晴らしいものとは……マリアさまも着てみたいですよね」
「ええ、そうね。これでわたくしも前線に出られますね……冗談ですわよ?」

 わたしの言葉に側近たちの視線が突き刺さるので今の話は曖昧に濁しておくのだった。
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