上 下
37 / 259
第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

伝承が読み解かれるのは吉か凶か

しおりを挟む
 目の前にもステージがあり、昼間のことが思い出される。
 ちょうどこちらの近くを歩いていたルージュに話しかけた。

「ルートくん、ここにもステージがあるのですね」
「はい、過去の蒼の髪の女神はさまざまな踊りの伝説を残しております。それで我々パラストカーティでは全員が蒼の髪の女神の踊りを継承してきました」
「そうだ、そうだった! いいことを言ったパラストの生徒よ! すっかり忘れていた」


 そこでホーキンス先生は嬉しそうに声をあげた。
 わたしはよくわからず尋ねた。

「何を忘れていたのですか?」
「パラストカーティだけは百年前の内乱を起こしたことで、聖典をもらえてないのですよ」


 聖典とは神について書かれている本だ。
 基本は王族が管理しており、各領土に渡されたものなのだ。
 その内容には神の恵みを得るための方法が載っている。
 しかしパラストカーティだけは内乱を起こした責任で渡すことを禁じられた過去を持つ。


「ええ、そうですわね。でもそれと何が関係あるのですか?」
「大ありですよ。パラストカーティは過去の聖典を頼りに生きていたから、このようなステージが至る所にあります。過去はどの領土もステージがあったのですよ!」
「他ではないのですか!?」


 ルージュは驚きの声をあげる。
 わたしもびっくりだ。
 このステージは過去の聖典では、なくてはならないものだと知らなかった。


「もう一度、パラストカーティは調べないといけませんね。マリアさまの髪の伝承は伝説ではなく、実在したものという信憑性が増してきてます。湖が戻ればだれも疑うものはいません」
「まあ、そうですわね。あとはどうすればあの湖が戻るのか」

 考え事をしながら、顔をルートくんのパパへと向けると、ちょうど侍従の者から耳打ちされており、すぐにこちらへ伝えてくる。


「ではマリアさま、領民たちが遥か昔から引き継いできた伝統の踊りをお見せします。王国院で習う神々の祈りとは少し趣が違いますが、良い余興くらいにはなると思います」
「ええ、楽しみにしております」


 わたしがそう言うと、ルージュのパパが声をかける。
 すると大勢の民たちがステージへと上がり、踊りを披露する。
 竪琴を持った奏者たちも緊張した面持ちで奏で始める。
 さすがは伝統の踊り。
 最初からかなり激しい動きで、優雅さはないが力のある踊りだ。
 しかし、少しばかり自己主張し過ぎて目が疲れてくる。


「さすがは庶民の踊りですね。貴族とは違う味があります」
「ラケシス、それは褒めてますの? ですが、何かもうひと押しあれば光る気がしますね」


 レイナの言うことにわたしも同意する。
 普段から音楽については嗜んできたので、こういった粗には気づいてしまう。
 だが特別教育を受けていない庶民であるならばこれも仕方がない。


「わたしはこういう音楽をわざと作ったと思いますけどね」


 アスカの言葉がわたしにはよくわからない。
 なぜ物足りない曲を作るのか。


「どういうことです、アスカ?」
「言葉で説明するのが難しいのですが、わざと自分たちを下に下げて、何かをあげようとしてるような。おそらく神より自分たちが下だと表しているのではないでしょうか」


 そう言われるとそういう気がしてきた。
 神はわたしたちの生活と密接している。
 神のおかげで生きていけるので、それが音楽でも表されたのだと納得した。
 そこで下僕がつぶやく。


「これってもしかして」


 下僕が何かを閃きそうな顔をして、考え込んでいる。

「どうかしましたの、下僕?」

 この子はたまに驚くことを言うことがあるので、念のために確認する。
 ゆっくり考えをまとめて考えを言葉へと変える。

「これって神々への祈りを補助する踊りなのではないですか?」


 そこでホーキンス先生は立ち上がった。
 わたしも先ほどの石板の言葉を思い出す。

 蒼き髪を持つ命を司る者よ。
 魔を討つのがあなたの役目に有らず。
 命を次へと送り出す者なり。
 あなたは送る者なり。
 生命を束ねなさい。
 始まりを奏でなさい。
 あなたは神への舞を捧げ、続く者たちのしるべとなれ。
 神の眷属はいつでも我々とともに在る。


「ラケシス、レイナ! 踊りの服を用意しなさい! すぐに確かめますわよ!」


 わたしがいきなり立ち上がったことで、ルージュのパパが慌ててやってくる。
 何かやらかしたのかと顔を青くしてしまっている。


「ま、マリアさま! 何か気に触るようなことがありましたか! どうかわたしの命で家族の命だけでもお救いくださいませ!」
「落ち着いてください! 特に罰するつもりはないですからご安心してください。それよりもあそこで踊っている者たちを残しておいてください」
「は、はあ、それはよろしいですが、一体どうなされたのですか?」
「わたしもあそこで踊ります」


 わたしはそう告げると目をひん剥かせてルージュのパパは倒れた。
 状況についていけてないようだが、今は気にしている暇はない。
 わたしはすぐに着替えのために、馬車へと入り、すぐに着替えを済ませた。


 わたしの踊り子の姿を見て、平民たちから声があがる。
 不安げに見ていた平民が次第に落ち着き始め、次第に熱を帯びた目へと変わっていく。


「領民のみなさん! わたしも一緒に踊らせてもらいます。ぜひ、みなさんの踊りでサポートしてください!」


 平民たちは手をあげてこちらに了承をする。
 わたしは先頭に立ち、竪琴が流れ始めるのを待った。
 今回は二つの音楽を流して、お互いが自身の音楽通りに踊る。
 まずはラケシスとレイナが竪琴を奏で始めて、わたしが踊り始めた。


 最初はゆったりとした動きと曲調から始め、伝統の踊りも続くように始まる。
 動きと曲調の激しさにつられそうになるが、なんとか自分のパートを踊る。
 次第にわたしの体から魔力が溢れてくる。
 だが前と違うのは後ろからも魔力の光が溢れている。

 平民に魔力はない。
 なのに平民たちからも出ているようにも見える。
 わたしは不思議とこの光全てを操れる気がした。
 何故だかわからないが、体が知っている。
 これをどうすればいいかを。


「え……」

 しかし、それなのに光は勝手に霧散されていった。
 わけもわからずそのまま最後まで踊りきった。


「すげえ!」
「さすがは五大貴族様だ!」
「あんなの初めてだ」


 平民たちは浮かれ、お互いに肩を叩いて興奮している。
 ホーキンス先生とセルランがこちらへきた。

「あと少しだったのに、どうしておやめになったのですか?」
「わたしは何もしておりません。この光を神へと捧げようとしたのですが、何かに阻まれました」


 ホーキンス先生はさらに考え込む。
 前に進んでいるのにわからないこともどんどん増えている。
 しかし肝心なのは、ヴェルダンディへ水の神の涙を届けること。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...