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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

楽しい楽しいお茶会

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 午後は久方ぶりの授業があり、当主候補生と領主候補生、そして同い年の側近たちは全員同じ座学を受けた。
 下僕は本来中級貴族であるため、一緒に授業を受けることはできないが、わたしの側近であることと座学の成績が優秀なためこちらのクラスに振り分けられている。
 わたしはウィリアノスさまの横顔をたまに盗み見ながら、今後のことをぼんやりと考えるのであった。


 どうすれば自分の死の運命を回避できるのか、いくら考えてもわからない。
 悪い噂が流れるとあったが、今のところそんなものはない。
 わたしがうーんと悩んでいると隣の席にいるレイナが気付いてこちらを気遣う。

「どうかなさいましたか、マリアさま。かなり難しい顔をされていますが」
「あぅ、えーと、魔法祭を勝つにはどうすればいいかを考えてましたの!」
「そうですね。やる気の出る生徒も少ないですし、魔法の才がかなり影響を及ぼしますからね。万年最下位から上に行くのはかなり難しいですので、頭を悩ませるのも仕方ありません」


 とっさに出た言葉だったが、レイナの指摘で現実を直視させられる。
 魔法祭は魔力量の差は致命的なほど才能の戦いなのだ。
 平均以下の領地しかいないわたしの領土ではかなり苦戦を強いられる。


「マリアさま、わたくしに任せてください。文官としてクロートからたくさん吸収しますから」


 後ろから声をかけたのは、レイナと同じく幼馴染として仲の良い文官見習いのアスカだった。
 元気の良さがウリの彼女は自信満々に答えたので、ふと疑問が湧く。


「アスカは特にクロートを毛嫌いしてはいないのですね」
「もちろんですよ! マリアさまと並ぶ魔力に文官としての技量も凄いですから。まさか下僕にあんな素晴らしいお兄さまが居たなんて羨ましいかぎりです」


 目が輝かんばかりに言い切る。
 アスカはわたしの側近の中でも一番素直な子だからだろうか。
 爵位の違いで人を比べたりしない。
 アスカが上手くやれるのなら、魔法祭も少しは上手くいくかもしれない。


「ですが、今日は流石に疲れましたわね。せっかくいい天気ですし、今日は久しぶりにお茶会でもしませんか? 」
「ただマリアさまが現実から逃げたいだけじゃないですか」


 アスカの指摘にわたしは苦笑する。
 まさにそのとおりだ。
 わたしはこんな難しいことを考えるより、女の子同士で他愛のないおしゃべりをしたい。
 美味しいお菓子と紅茶でのんびりしたい。
 今日のお茶会のことを考えていると、下僕も後ろから話しかけてくる。


「マリアさま、シュトラレーセとのお話がまだ残っていますよ」


 わたしの笑顔が固まる。
 完全に忘れていた。

 ……もう、せっかく楽しめると思ったのに!


 朝は他の領土が挨拶に来るため手短に済ませたのであった。
 わたしは憂鬱な気分になったが、我ながら完璧な打開案を思いついた。
 シュトラレーセの緊張も無くなるだろう名案が。

「そうよ、シュトラレーセもお茶会に呼べばいいのよ!」


 わたしはあまりにもいい名案を思いついたため、大声で心の声を漏らしてしまいました。
 あっ、と思ったがもう遅い。
 全員がこちらの方向を見ている。
 ウィリアノスさまも驚いてこちらを見ている。
 そして算学の先生は咳払いをして、こちらに怖い顔を向けていた。



「マリアさま方。今は講義中ですので不要な私語はお慎みください」
「大変申し訳ございません!」


 わたしは謝罪して、授業に集中するふりをする。
 周りから痛い視線を感じて、居た堪れなくなる。
 チラッと見えたアクィエルの馬鹿にしたような顔を見て、少しずつ冷静になっていく。
 ウィリアノスさまの前でやる気のないところを見せるわけにはいかない、と講義へと意識が向けられた。


 講義が終わって、すぐさま招待状をシュトラレーセに送ってもらう。
 わたしはウキウキしながら、五大貴族しか使えないバラ園の場所取りを命令する。
 そして、シュトラレーセからも快く参加すると返事を貰った。
 連絡に行ったリムミント曰く、顔を蒼白にしていたとのことだ。


 ……あれ、何か間違ったかな?


 今日の講義は全て終わり、わたしはすぐさまバラ園へと向かう。
 すでに側近たちの手によってテーブルと椅子が並べてある。
 たくさんのお菓子がすでに置いてあり、わたしは幸せな気持ちになりながら席に座る。
 今日のお茶会メンバーは、わたし、レティア、レイナ、アスカ、ラケシスであった。
 レティアを除いてわたしと同い年だけのお茶会だ。
 パラ園内の護衛は同じく女の子である、ステラとルキノが護衛騎士として側で立っている。


「このメンバーでのお茶会は久し振りね。特にレティアとはずっと離れていましたから」
「はい。お姉さまは最近特に城へと戻ってくれませんから、いつも寂しい思いでした。でも今後はずっと一緒にいられますね」
「レティア……。もうずっと一緒ですからね」


 よく出来た妹に感涙する。
 ウィリアノスさまのお側に居たいがために、お城に戻る日を減らして、王城で過ごしたのはレティアにはとてもじゃないが話せない。
 そのことを知っている側近たちは何も言わず、黙って紅茶を飲んでいた。
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