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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

入学式とシュトラレーセ

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「ふんっ、もうすぐ入学式も始まりますので、貴方に付き合っている時間はありませんの。それではごぎげんよう」
「ええ、やっとわたくしの心の平穏が戻りそうです」


 アクィエルが去ったことでレティアが心配そうにわたしを覗き込む。


「お姉さまとアクィエルさまは今でも仲がお悪いのですね」
「あちらが喧嘩を売ってくるのよ。さあレティア、やっと邪魔者もいなくなりましたので行きましょうか」


 今度は誰にも会うことなく大聖堂へとたどり着く。
 一番前にあるステージ上へと向かう。
 ステージから階段を登ると、五人ほど座れる五大貴族用の椅子があり、王族はさらに一つ階段を昇るところにある。
 わたしは新入生であるレティアを紹介するため、ウィリアノスさまがいる席へと向かう。
 わたしとレティアは一礼する。


「ウィリアノスさま、ガイアノス、今年からわたくしの妹であるレティアが入学しました。ぜひ紹介させていただきます」
「ウィリアノスさま、ガイアノスさま、今日から就学します、レティア・ジョセフィーヌと申します。この世に光が差し込み、常に前へ進もうとしたことで今日の出会いとなりました。万物の母であり、世界に初めて光をもたらした光の神デアハウザーと同じ感謝をお二人に捧げることをお許しください」
「光の神デアハウザーに感謝を」


 代表して、ガイアノスが応えると、三人が光の神へ魔力を奉納する。
 わたしはいつもの通り光の神には奉納はできないので祈りだけを捧げた。
 全員が奉納を終えて、ガイアノスは特に何も言わず、こちらを睨んでいる。
 ウィリアノスさまがガイアノスを見てため息をついたあと、レティアに話しかける。


「久しぶりだな、レティア。いつの間にか素敵なレディーになって見違えたぞ」
「ウィリアノスさまこそお久しぶりです。ウィリアノスさまたちと一緒にお勉強できる日をずっと楽しみにしておりました。まだまだ分からないことばかりですが、今後ともよろしくお願いします」


 レティアの挨拶も終わり、行きたくもないがアクィエルの元へも向かう。
 一度階段を降りて、わたしの席の隣に座っているアクィエルへ声をかける。


「アクィエルさん、妹を紹介してあげてもいいですわよ?」
「なんで上からなのよ!」


 ……失敗、失敗。
 一応同格でした。


「もう、お姉さま。あまりアクィエルさまを怒らせてはいけませんよ。姉が失礼ました。レティア・ジョセフィーヌと申します。この世に光が差し込み、常に前へ進もうとしたことで今日の出会いとなりました。万物の母であり、世界に初めて光をもたらした光の神デアハウザーと同じ感謝をアクィエルさまに捧げることをお許しください」
「光の神デアハウザーに感謝を……。本当にレティアさんはよくできた妹ですこそ。いっそのことこちらの養子に来ませんか?」
「大変魅力的なご提案ですが、わたくしの心は常にジョセフィーヌと共にあります。ですがまだまだ浅学な身ですので、今後とも仲良くしてくださると嬉しいです」


 レティアがうまく話を締めてくれたので、そのまま自席へと向かい式が始まるまで待つことになった。

「領地シュトラレーセ、入場!」

 すぐに領地ごとにこの大聖堂に入ってくる。
 上級貴族以上はステージ近くの三人がけの椅子に座り、残りは二階席で座る。
 全ての領地が到着して、ステージの上に王国院最高責任者が登壇した。
 女性でありながらも圧倒的な叡智と魔力を持って、実力でその地位に就いたムーサさまだ。
 長い式辞を終えて、次に国王が法衣を纏って、法王として現れる。
 そこで王族、五大貴族含めた全員が立つ。

「次代を担う新しい子らよ。今日の入学を嬉しく思う。この学び舎で研鑽を積み、国の発展をすることを期待しておる。では、最高神と三神へ魔力の奉納を行う。神の器たる大聖杯へ向けて魔力を送るように。では、神々へ感謝を、そして繁栄の約束を」


 空に浮かぶ特大の聖杯へ魔力が奉納される。
 すべての領土の学生から奉納されるため、周りが光り輝き顔が見えないほどの光量
だ。
 法王の合図と共に全員の奉納を終える。
 そのあと式も進み、今日の入学式も無事に終わった。
 わたしは気を緩める間もなく、次の仕事がある。
 各領土の領主候補生と側近を二人まで付けて挨拶に来る。
 まずはシュトラレーセから、最上級生であり領主候補生のラナとアリアがやってきた。
 二人とも顔色を悪くして跪く。
 まずは入学したばかりのレティアに対して挨拶をする。
 挨拶が終わるとさっそく本題へと入る。


「マリアさま、先日はアリアが御身に対して大罪を犯したことをお許しください。もし必要とあればアリアの首を献上、または嫁入りでジョセフィーヌ一族のどなたかへ嫁がせます。ですからどうかシュトラレーセにご慈悲をお願いします」


 領主候補生であるアリアはいかようにもしていいので、領地への罰は最小限にしてくれと言っている。
 今の言葉にアリアは肩を震わせている。
 十歳になってもいないアリアにはかなりきつい内容だろう。
 わたしの一言でこの領土は上位の領地から下位の領地にすらなる。

「顔を上げなさい、ラナ、アリア」


 わたしの言葉に二人は緊張した面持ちで顔を上げた。
 アリアの目は今にも泣きそうになっているが、懸命に堪えている。
 わたしがこの子を罰するのは簡単だが、今は私怨を優先するべきではない。
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