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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

愛しのウィリアノスさまとおまけでアクィエル

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 まだわたしは領主じゃないのに、勝手にことを大きくしすぎている。
 クロートは大きくため息をついて、側近を見渡す。


「これほど優秀な方が集まって、姫さまの意見に反対はいなかったのですか? 具体的な案はまだほとんどないようですが?」


 耳が痛い。
 全員で話し合っても未だ足りないことだらけだ。


「まあ、全領土の成績を上げることと派閥強化はわたしも賛成です。シルヴィ・ジョセフィーヌにはわたしから説明します。そのためにもう少し計画を煮詰めましょう。そういったことは文官の仕事ですので、この機会にわたしが指導します。姫さまにはアリア・シュトラレーセさまへの協力を貰っていただきます。シュトラレーセが入るなら、かなりの予算をこちらからも出せるでしょう。今日の夕刻にこちらに来るよう伝えておりますので、大変でしょうがご対応お願いします。研究所にも心当たりがあります。それからそろそろ朝食の時間です。今日は大事な入学式。まずは目の前のことを終わらせましょう」


 クロートの提案に乗り、一度解散とした。


 朝食も食べて元気も出たことで、わたしとレティアは学生が集まる前に本棟の前にある大聖堂へと向かう。
 五大貴族は他の貴族よりも上位の存在なので、先に待っておかねばならない。


「今日のお話し合いは問題なかったですか、お姉さま」
「ええ、順調に終わりました。わたしの側近たちとも、三領土の成績をどう上げるか有意義な話し合いもできました」
「まあ、お姉さまはもう動き始めているのですね。わたくしも今日にでも側近たちと計画を立ててみます。少しでも自分たちの領土を発展させるためにも」
「一緒に頑張りましょうね。でも無理だけはダメよ?」


 少しでもレティアにいい姉として尊敬してもらわないと。
 そこでわたしは意中の人を見つける。
 いつも凛としたお顔をしており、どんなことにも熱心に取り組む様はわたしの心をいつも熱くさせてくれる。


「ウィリアノスさま!」

 わたしは両手を握りしめて、ウィリアノスさまに声をかける。
 長い足を止めて、お顔をこちらに向ける。


「ん、ああマリアか」
「今日もお美しい髪色でございます。長い休みの間、ウィリアノスさまにお会いできなかったことが辛く、今日をどれほど待ち望んだか。もしよろしければ今度お茶でもいかがでしょうか」
「悪い、今は忙しいんだ。時間が空いた時にまた誘ってくれ」
「おいおい、ウィリアノス。許嫁と会ったんだ、もう少し愛想よくしてやれよ。マリア、こんなやつより俺と結婚しろよ。お前の領土を俺が発展させてやるよ」
「ガイアノス……好きにしろ」


 ウィリアノスさまはガイアノスの言うことを聞き流して去っていく。
 わたしはもうすこしお話をしたかったのにとんだ邪魔が入った。
 貴族として必須の愛想笑いをガイアノスへ向ける。

「これはこれは、ガイアノス。あいにくとわたくしの愛する方は一人だけですの。水の神も愛した殿方は一人と聞きます。水の神ですらそうなのに、矮小なわたくしではそれを覆せません」
「っち、なんでウィリアノスは敬称を付けて俺には付けないんだ? 俺はあいつの双子の兄だぞ!」
「本来、五大貴族より上位は国王のみです。王族と五大貴族の血族に優劣はございませんので、わたくしは敬称を付けたい方にのみつけてますの。それにわたくしが当主になった時には立場が下になることをお忘れないように。あと女遊びも大概にしてくださいね。わたくしたちの品位も疑われますので」
「この俺を見下したな!」


 ガイアノスは激高して、わたしに飛びつかんばかりに迫る。
 だがそんなことはわたしの優秀な騎士が許しはしない。
 セルランがわたしの前に立つ。

「ガイアノスさま! これ以上近寄るなら、わたしも実力行使せばなりません。後ろにいる護衛よりわたしの剣が貴方さまの首を取るほうが早いことはご存知だとは思います」



 セルランの威圧にさっきまで勇んでいたガイアノスも躊躇う。
 さすがの小物でも、自分の立場が不利なことに気付いたのだろう。
 悪態を吐いて、大聖堂へと向かっていった。
 セルランも危険を去ったと気付いて、わたしの後ろへ戻る。


「マリアさま、たとえ小物といえどあまり挑発なさらないように」
「あら、セルランもそう思っているのね」


 セルランはこほんっと咳払いをする。
 せっかくウィリアノスさまとお話し出来る時間だったのに、あの馬鹿のせいで遮られたのだ。
 少しは溜飲を下げたい。
 気持ちを改めて、廊下を進むと見たくもない人物と遭遇した。


「あら、ごぎげんよう、マリアさん! 今日もウィリアノスさまにお相手にされなくて可哀想だこと。わたしくらいは話してあげてもよくてよ」


 高い声で話しかけた人物は、先ほどのガイアノスと嫌いな人物一位の座を争う五大貴族の当主候補のアクィエルだった。
 緑のドレスに身を包んで、豪勢に飾り付けをしている。
 わたしは不快感を隠さずに皮肉を言う。

「今日はなんて厄日なんでしょう。ウィリアノスさまとの至福の時間は邪魔され、ましてやアクィエルさんとも出会ってしまうなんて。これ以上の不幸は闇の神から寵愛を受けた時だけでしょう」
「……へらず口は相変わらずね。あーあ、やっぱり野蛮な領土の主人は同じ野蛮人ですわね」
「あら、そっちこそ隠れていじめを行なっている領土の主人さまじゃない。頭の悪い領土の主人は同じくらい頭が悪いようね」


 お互いの目で威嚇し合う。
 昔からこの女とは仲が悪い。
 特にウィリアノスさまの婚約者になってからはやっかみがひどいのだ。


「頭が悪いのは、そちらではありませんの? こちらの領土にはフォアデルへという第三位の領土がありますのよ? そちらは最高で十位でしたかしら?」
「九位ですわよ。良かったですわね。さらに賢くなったみたいで。それにジョセフィーヌ自体の発展度では三位だから最下位のゼヌニムより上よ。管理している領土が五大貴族より優秀なんて可哀想ね」



 わたしとアクィエルの言い争いは止まることなく続けられる。
 お互いに息が切れるまで罵って、やっと終戦となった。
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