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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか
ルージュ視点①
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ぼくの名前はルージュと申します。
百年前の内乱で国から厄介者扱いをされているパラストカーティの下級貴族です。
五大貴族であらせられ、シルヴィを冠するジョセフィーヌ家の姫君であるマリアさまから本来であれば分不相応なバッジを頂いた。
ジョセフィーヌ家の家紋が入ったバッジはいわば側近の証。
さきほどはあまりにも名誉なことのため、無邪気に喜んでしまったが、今回の内容を領主候補生であるメルオープさまに話したところ、顔を真っ青にされた。
「なんてことだ。マリア様のいる前で失態を犯した責で始末書とお詫びの品を用意しないといけないところに、自領の学生を助けていただいたお礼と生徒の治療費、百年以来機会がなかった側近へお引き立ていただくお話。よりによって全て同じタイミングで起きるのか。せめて側近の話だけでももう少し後であれば」
メルオープさまは頭を抱えながら、ゆっくり自席につく。
椅子の背もたれに体を預けて、天井を見上げる。
その苦悩の理由はぼくでもわかる。
単純にお金がないのだ。
五大貴族を煩わせるのは、いわば国王の手を煩わせたのに等しい。
そうなるとかなりのお礼と呼ばれる上納金を納めなければ、今以上にジョセフィーヌ家から冷遇され、他領からもかなりのバッシングがくるだろう。
だが側近の話は個人的なことで他二つと比べるものではないのではないか?
「側近の話も今回は都合が悪いのでしょうか?」
「当たり前だ。五大貴族であられるマリアさまの側近は誰もが憧れ、才を磨き、地位があって初めてお側にはべることを許されるのだ。本来であれば、上級貴族以外はありえない。そして個人の問題となるため領主といえども本来は口出さん。だが我々の信頼が未だ取り戻せてない以上はここ次第で領土の一生が決まってしまう」
ぼくは頭はよろしくないのでよく分からず、はぁ、と声を漏らすことしかできなかった。
話の続きを同席している文官長が務める。
「分かりやすく言えば、今回の側近の話を断るのはあなたの責任で終えることもできます。ですがもう二度とパラストカーティからお引き立てする話は来ないでしょう。これはおそらく我々の最期のチャンスです。我が領土は最下位の領地になってからは、ろくに良い縁談も来ず、神へ奉納する魔力も減った影響で豊かな土地もどんどん減っていきました。このままでは孫の顔を見る前に領地を捨てなければならないでしょう。そのためにマリアさまの庇護下に入るのは何よりも優先すべきこと。しかし、ここで問題が起きるのは、やはりお金。あなたは我が領土の上級貴族の資産五割を超える上納金、それを三人分も納められますか?」
そこでぼくは初めて声を失い、冷や水を掛けられたかのように青ざめる。
ぼくは下級貴族のため常に上への接し方を幼少の頃から学んできた。
だが上といっても所詮は自領の中級貴族程度。
支払ってきた貢ぎ物の比較が前提からおかしかったのだ。
「それほどまでに必要なのですか……」
「もちろん、上位の領地であれば中級貴族でも払える額ではあります。ただ今のパラストカーティでは他領より情報を得るのが遅く、すでに物価に差があり経済格差が大きくなっております。そのような潤沢な資金はありません」
「だが、それを鑑みてもかなりの利益はある。どうにか交渉でお前だけでも側近に入れることができれば太いパイプができる」
文官長はかなり後ろ向きになっているが、メルオープさまは少し前向きになっていた。
「だが、それでも分からないのはマリアさまはどのような目的で側近にしようとしているのかだ。お前たちはこれまでマリアさまと接点があったわけではないだろ?」
「も、もちろんです! 天上の方と同じ土を近くで踏んでいるとはいえ、遠くで眺める以外したことありません。完璧なまでの美貌に、伝承に謳われる青の髪。そしてその地位にふさわしい教養を併せ持つ水の女神と話すことなど一生ないとすら思っておりました」
誇張ではなく本気でそう思っている。
五大貴族の魔力は我々とは程度が違う。
神への魔力の奉納で実りが変わる土地のため、平民は貴族がいなければ生きていけない。
そして、貴族もまた五大貴族がいなければ国を維持する魔力が全く足りないのだ。
だが、メルオープさまはそうは思っていないのか、ふんっ、と鼻で笑う。
「確かにマリアさまたち五大貴族がいなければ我々も生きていけないだろう。だがそれはあちらも同じ。国あっての民、民あっての国だ。シルヴィ・ジョセフィーヌは一度も我々に神の如き力を分けてはくれなかった。だからこそおかしいのだ。なぜ今こちらにこれほどの温情を与えようとする? なぜ護衛も連れず、先を見通しているかのように我々の危機を救ってくれた? そして極め付けは今回は全く恩を売る気配もない」
激情家と噂されるメルオープさまだが、それは真実ではない。
確かに自領のことになると見境いがなくなることもあるが、平時であれば冷静に考えることもできる。
だがそれでもマリアさまの行動の裏を全く掴められずにいる。
「メルオープさま、ここは自室とはいえ軽々しく五大貴族の批判はおやめください。もし誰かに聞かれたら、メルオープさまは二度と地に足を着けることもできなくなります。それに先ほど言っていた言葉は間違いです。この国は国あっての民です。パラストカーティはどこよりも民と共存していますから、納得できないこともあると思います。しかしそれは他領には全く通じないと思ってください」
「ああわかってるよ。これ以上は言わない。さてルージュ、明日の交渉は俺が行う。お前はただ後ろで立っておくだけでいい。あとは連れて行く人数か。大勢いても意味ないから文官は二人いれば十分だ。侍従見習いは茶菓子の準備と段取りを決めておけ」
文官長にも指示を出して、明日の計画を密にする。
メルオープさまがすべて取り仕切る。
土地柄でパラストカーティは自領にコロシアムがあるためかどうしても知よりも武を鍛えたがる。
メルオープさまと文官長以外では全く文官が育っていないのだ。
貴族同士での話し合いはどうしても舌戦になる。
まともな文官のいないパラストカーティは苦戦を強いられており、今も最下位を維持しているのは頭の部分が大きい。
本来であれば領主も例外ではないが、次期領主と目するメルオープさまはそこから一歩先を見通す。
パラストカーティ特有の武しか持ち合わせていない自分にとって、明日戦場ともいうべき場所へ向かうのにこれ以上頼もしい人物はいないため、黙って首を振る。
メルオープさまは最後に言伝を伝える。
「ではルージュ、明日はジョンとヴェートもバッジを貰っているので出席してもらうことを伝えよ。側近の第一候補はルージュ、順にジョン、ヴェートだ。そのように伝えておけ」
「拝命承りました」
「あと……すまなかったな。お前たちの勇気ある行動に、アビ・パラストカーティの代わりに礼を言う」
お辞儀をした直後、労いの言葉をかけられ、不意に胸の内側が温かくなる。
ぼくは大きく返事をして部屋を出た。
すぐに同じく戦場へ向かう二人に伝え自室へと戻る。
就寝前に大事にバッジを専用のバッジケースにいれて、アザの痛みを我慢しながらゆっくりとまぶたを下ろした。
百年前の内乱で国から厄介者扱いをされているパラストカーティの下級貴族です。
五大貴族であらせられ、シルヴィを冠するジョセフィーヌ家の姫君であるマリアさまから本来であれば分不相応なバッジを頂いた。
ジョセフィーヌ家の家紋が入ったバッジはいわば側近の証。
さきほどはあまりにも名誉なことのため、無邪気に喜んでしまったが、今回の内容を領主候補生であるメルオープさまに話したところ、顔を真っ青にされた。
「なんてことだ。マリア様のいる前で失態を犯した責で始末書とお詫びの品を用意しないといけないところに、自領の学生を助けていただいたお礼と生徒の治療費、百年以来機会がなかった側近へお引き立ていただくお話。よりによって全て同じタイミングで起きるのか。せめて側近の話だけでももう少し後であれば」
メルオープさまは頭を抱えながら、ゆっくり自席につく。
椅子の背もたれに体を預けて、天井を見上げる。
その苦悩の理由はぼくでもわかる。
単純にお金がないのだ。
五大貴族を煩わせるのは、いわば国王の手を煩わせたのに等しい。
そうなるとかなりのお礼と呼ばれる上納金を納めなければ、今以上にジョセフィーヌ家から冷遇され、他領からもかなりのバッシングがくるだろう。
だが側近の話は個人的なことで他二つと比べるものではないのではないか?
「側近の話も今回は都合が悪いのでしょうか?」
「当たり前だ。五大貴族であられるマリアさまの側近は誰もが憧れ、才を磨き、地位があって初めてお側にはべることを許されるのだ。本来であれば、上級貴族以外はありえない。そして個人の問題となるため領主といえども本来は口出さん。だが我々の信頼が未だ取り戻せてない以上はここ次第で領土の一生が決まってしまう」
ぼくは頭はよろしくないのでよく分からず、はぁ、と声を漏らすことしかできなかった。
話の続きを同席している文官長が務める。
「分かりやすく言えば、今回の側近の話を断るのはあなたの責任で終えることもできます。ですがもう二度とパラストカーティからお引き立てする話は来ないでしょう。これはおそらく我々の最期のチャンスです。我が領土は最下位の領地になってからは、ろくに良い縁談も来ず、神へ奉納する魔力も減った影響で豊かな土地もどんどん減っていきました。このままでは孫の顔を見る前に領地を捨てなければならないでしょう。そのためにマリアさまの庇護下に入るのは何よりも優先すべきこと。しかし、ここで問題が起きるのは、やはりお金。あなたは我が領土の上級貴族の資産五割を超える上納金、それを三人分も納められますか?」
そこでぼくは初めて声を失い、冷や水を掛けられたかのように青ざめる。
ぼくは下級貴族のため常に上への接し方を幼少の頃から学んできた。
だが上といっても所詮は自領の中級貴族程度。
支払ってきた貢ぎ物の比較が前提からおかしかったのだ。
「それほどまでに必要なのですか……」
「もちろん、上位の領地であれば中級貴族でも払える額ではあります。ただ今のパラストカーティでは他領より情報を得るのが遅く、すでに物価に差があり経済格差が大きくなっております。そのような潤沢な資金はありません」
「だが、それを鑑みてもかなりの利益はある。どうにか交渉でお前だけでも側近に入れることができれば太いパイプができる」
文官長はかなり後ろ向きになっているが、メルオープさまは少し前向きになっていた。
「だが、それでも分からないのはマリアさまはどのような目的で側近にしようとしているのかだ。お前たちはこれまでマリアさまと接点があったわけではないだろ?」
「も、もちろんです! 天上の方と同じ土を近くで踏んでいるとはいえ、遠くで眺める以外したことありません。完璧なまでの美貌に、伝承に謳われる青の髪。そしてその地位にふさわしい教養を併せ持つ水の女神と話すことなど一生ないとすら思っておりました」
誇張ではなく本気でそう思っている。
五大貴族の魔力は我々とは程度が違う。
神への魔力の奉納で実りが変わる土地のため、平民は貴族がいなければ生きていけない。
そして、貴族もまた五大貴族がいなければ国を維持する魔力が全く足りないのだ。
だが、メルオープさまはそうは思っていないのか、ふんっ、と鼻で笑う。
「確かにマリアさまたち五大貴族がいなければ我々も生きていけないだろう。だがそれはあちらも同じ。国あっての民、民あっての国だ。シルヴィ・ジョセフィーヌは一度も我々に神の如き力を分けてはくれなかった。だからこそおかしいのだ。なぜ今こちらにこれほどの温情を与えようとする? なぜ護衛も連れず、先を見通しているかのように我々の危機を救ってくれた? そして極め付けは今回は全く恩を売る気配もない」
激情家と噂されるメルオープさまだが、それは真実ではない。
確かに自領のことになると見境いがなくなることもあるが、平時であれば冷静に考えることもできる。
だがそれでもマリアさまの行動の裏を全く掴められずにいる。
「メルオープさま、ここは自室とはいえ軽々しく五大貴族の批判はおやめください。もし誰かに聞かれたら、メルオープさまは二度と地に足を着けることもできなくなります。それに先ほど言っていた言葉は間違いです。この国は国あっての民です。パラストカーティはどこよりも民と共存していますから、納得できないこともあると思います。しかしそれは他領には全く通じないと思ってください」
「ああわかってるよ。これ以上は言わない。さてルージュ、明日の交渉は俺が行う。お前はただ後ろで立っておくだけでいい。あとは連れて行く人数か。大勢いても意味ないから文官は二人いれば十分だ。侍従見習いは茶菓子の準備と段取りを決めておけ」
文官長にも指示を出して、明日の計画を密にする。
メルオープさまがすべて取り仕切る。
土地柄でパラストカーティは自領にコロシアムがあるためかどうしても知よりも武を鍛えたがる。
メルオープさまと文官長以外では全く文官が育っていないのだ。
貴族同士での話し合いはどうしても舌戦になる。
まともな文官のいないパラストカーティは苦戦を強いられており、今も最下位を維持しているのは頭の部分が大きい。
本来であれば領主も例外ではないが、次期領主と目するメルオープさまはそこから一歩先を見通す。
パラストカーティ特有の武しか持ち合わせていない自分にとって、明日戦場ともいうべき場所へ向かうのにこれ以上頼もしい人物はいないため、黙って首を振る。
メルオープさまは最後に言伝を伝える。
「ではルージュ、明日はジョンとヴェートもバッジを貰っているので出席してもらうことを伝えよ。側近の第一候補はルージュ、順にジョン、ヴェートだ。そのように伝えておけ」
「拝命承りました」
「あと……すまなかったな。お前たちの勇気ある行動に、アビ・パラストカーティの代わりに礼を言う」
お辞儀をした直後、労いの言葉をかけられ、不意に胸の内側が温かくなる。
ぼくは大きく返事をして部屋を出た。
すぐに同じく戦場へ向かう二人に伝え自室へと戻る。
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