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3 俺のモノにならないか?

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 これは言い方をミスってしまった。
 このままではダメ男と誤解されてしまう。
 俺は頭をフル回転させている間に、適当な言葉で場を繋ぐ。

「おいおい、いつもそうじゃないんだぜ」

 ここで俺は失策に気付く。
 毎日ここで彼女と顔を合わせているのに何を言っているのだ。
 だらだらと汗が流れるがもう後の祭り。
 彼女の目はどんどん胡散臭いものを見るようにジトーっとしてきた。

「なら今日はどうなんですか?」

 どうして俺はここまで正直なのだ。
 彼女に対して嘘を上手くつける自信がない。
 観念して本当のことを言う。

「とうとうサボりがバレて、客を一人でも見つけないとクビにするって言われてな」


 さっきのことを思い出して死にたくなった。
 いつも優しい上司があそこまで怒るとはね。
 まさか生徒の親に見つかって会社に報告されるとは。
 会社の上司からコッテリと叱られ、追い出されたのだ。

「それは……」

 彼女は途中で言葉を止めた。
 言葉の続きは、自業自得だったのか、それか御愁傷様だったのかわからない。
 しかし俺を少し憐んではくれたようで、必死に言葉を探していた。

「そ、それで見つかりましたかッ!」

 彼女なりに気遣ったのだろう。
 俺はもう見栄を張るのをやめて、タバコの煙を外に吐き出す。

「見つからん。俺にそんなアテもない。仕方ないから酒飲んで、タバコ吸ってる」
「全く話の整合性がないのですが……」


 憐れみの目から蔑んだ目に変わっていく。
 何だか喋るごとに彼女の評価が下がっていく気がする。
 だが今の俺ではどう足掻いでも彼女の人生の師にはなれそうになかった。


「まあ、とりあえずこんな俺でもどうにか生きているんだ。お酒もタバコもやらずに外に出ているだけ立派じゃねえか」
「ははっ……でも、私もいつかそっち側に行きそうですね」
「ちょうど話し相手が欲しかったから俺は歓迎するぜ」

 軽口を言うが、あまり重く受け止めすぎるのも失礼な気がした。
 大概こういう少女が不登校になっているのなら見当がつく。
 見た目は真面目そうで、受け答えもはっきりしている。
 おそらくは委員長タイプだっただろうに、こうして卑屈になっているのなら、イジメというのが妥当だろう。
 チラッと横目に見るとギョッとしてしまう。

「なっ……!?」

 ポロポロと隣で少女が涙を出し始めた。
 本人も無自覚だったようで、急いで裾で自分の涙を拭いている。

「す、すいません! 急に、どうしたんだろ……ぐすっ、ごめんなさい。私、何かッ、間違ったんですかね」

 少女は涙を流して自分の気持ちを少しずつ出していく。
 俺はただ狼狽えるしかできない。
 長い時間が経ったようにも感じていると、やっと彼女も落ち着きだした。
 今なら彼女の不登校の理由を聞ける気がした。


「一体何があったんだ?」
「つまらない、理由です。あまり話をしたことがない男子から告白されて断ったら、他の女子から目を付けられちゃって……毎日大変でした」
「人気男子だったか……それは災難だな」
「災難ではすみませんよ……このまま私はどうやって生きていけばいいですかね。高校にも行かずにダラダラと半年以上も親に迷惑を掛けて……」

 また暗くなりやがった。
 俺は仕方ないと、タバコを携帯灰皿に入れる。
 そして少女に差し出したビールを手に持ってベンチから立ち上がった。
 少女は俺をチラッと見たがすぐに視線を外した。
 どうやら重たい話で俺が逃げようとしていると思ったのだろう。
 残念ながら俺は教育業に携わる底辺男なんだ。

「不登校少女よ、一年だけ俺のモノにならないか?」
「えっ……?」

 ベンチの後ろから背もたれに寄りかかって彼女に尋ねる。
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