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2 ダメな大人

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 こんな少女が死にたいと口にすれば、ダメ人間の俺でさえ気になって仕方がない。
 お互いに無言が続くせいで気まずさがあった。
 いや、これは俺だけが感じている可能性もある。
 ここで俺が一言気の利いた言葉を伝えることができたのなら、この子も次の瞬間は世の学生たちのように頭がハッピーセットに変わっていたのかもしれない。

 しかし残念ながら俺にはお酒を飲んでぐうたらしかできなかった。
 代わりにまたゴクンッと喉にビールを入れた。

「うめえ……」

 どうしてこんな空気が重くともビールは美味いのだ。
 こんなものがあるから俺みたいなダメ人間が出来てしまうのに、世のメーカーたちは競って安くて美味いビールを出そうとする。
 俺はメーカーたちの血の滲むような努力から生み出された悪魔の飲み物による哀れな被害者なかもしれない。


 しかし、ほろ酔いになっても隣の女の子の深刻な顔をずっと無視するのは、流石に俺の良心が痛んだ。
 見たところ女子高生に見えるので、今日は春休み明けの登校日のはずだ。

 俺みたいなダメ男が結婚をしているわけでもないのに春休みの時期に詳しいのは理由があった。
 誤解してほしくないのは、決して学生の休みを調べる変態ではない。

 だが今にも死にそうな少女にそろそろ一言くらいは掛けてあるべきだ。
 よし、今だ。
 今ならいける。

 悲しいかな。
 言おうと思うと喉に言葉が突っかかるのは、普段から人と接するのを最小限にしたせいかもしれない。

 これではいかん。
 俺は自分の飲みかけのビールをベンチに置いて、ズズっと少女側へ寄せた。
 すると少女はそのビールをチラッと見て、俺の方へ死んだ魚のような目を向ける。

「何があったのかは知らんがこれを飲んで忘れるといい。効果は折り紙付きだ」

 短い言葉で少女に伝えた。
 俺が何度嫌な目にあっても生きてこれたのは、お酒という頭をおかしくさせるこいつのおかげだ。
 もしくはこいつのせいで嫌な目に遭っているとも言えなくもくないが、今はこの子のメンタルを回復させることが第一だ。
 俺の体験談を話すだけで日を跨いでしまうため今回は割愛させていただく。
 少女は俺のビールを手に取らず、両手で自分の顔を隠して涙ぐむのだった。


「こんな……ダメ人間にまで心配されるなんて、死にたい……」
「誰がダメ人間だ!」


 俺の優しさを無碍にするんじゃねえ。
 こっちは金の少ない中で財布から絞り出して買った貴重なお酒だ。
 胸ポケットからタバコを一本取り出して口に咥えてから火を点ける。

「ふー、うめえ」

 タバコと酒のコンボは本当に美味い。
 ただ今日ばかりは隣の少女が気がかりすぎて堪能できなかった。

「なんだ、辛いことがあるなら相談に乗るぞ。これでも人生の逃げ方だけは得意だからな」


 タバコを吹かしながらぼんやりと空を見上げる。
 少し俺の方を見ている気がする。
 そう思っていると隣から恐る恐るといった感じで話をしてもらえる。

「失礼ですが、お兄さんっていつもここにいますけど無職なんですか?」

 全くもって失礼だが、この子だけは許そう。
 分かりやすく俺はポケットに押し込んでいたヨレヨレのネクタイを取り出して、ひらひらと見せつけた。

「馬鹿を言え。俺はしっかり働いている。このスーツ姿が見えんのか。これでも家庭教師だ」

 そう今日も俺は働いている。
 今は休憩しているだけだ。

「ならどうしていつもここにいるのですか?」


 自分以外のことに興味が出てきたおかげか、少し前よりは声の覇気がある。
 もう少し誘導すれば少しは立ち直れるかもしれない。

「なんだ興味が湧いたか?」

 わざとらしく俺は隣の少女へ顔を向けた。
 目がカチッと合うと、彼女はビクッと小動物のように驚く。

「別に興味ないです」

 彼女はすぐに目を逸らす。
 少しばかり俺に興味を持ったのなら、憂鬱な気分が紛らわせるため俺の身の上を話してやろう。


「体調不良って言って抜け出している」


 背けた目が俺の方へ向き、まるで虫けらを見るような目で見てくる。
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