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都を跳ねる
坂本龍馬
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坂本という土佐人はすぐに見つかった。
目立つのだ。
長身にがっしりした肩幅で歩くだけで目立つ。
おまけに町民から好かれており、一歩進むごとに声をかけられ、気前よく買い食いをしている。
「あら、竜さん。きゅうりが冷えてるわよ」
と言われれば、
「おう姐さん、うまそうなきゅうりだ。一つもらおうかのぅ」
「竜さん、豆腐屋の親父が風邪気味のようだね」
と言われれば、
「そうじゃのう。心配で今朝薬を届けたんじゃが、ようなるといいのぅ」
侍のくせに、町民と距離が近く、とにかく愛想のいい男だった。
羽振は良さそうなのに、刀以外は全てみすぼらしく、顔が良くなければ浮浪者にも見える不思議な男だった。
「笹釜、どう近ずこうか」
「甘く見てはだめよ。隊長が言うには、坂本の剣の腕は超一級品で、一対一で勝つのはまず不可能って話よ。そんな豪傑が、あの振る舞い。きっとなにか策があってのことよ」
「だな」
まずは三日、遠くから観察することに決めた。
坂本の名は、坂本竜馬というらしい。
土佐藩から脱藩したとも聞くし、土佐から多額の援助を受けているとも聞く。
土佐以外の薩摩長州にも顔がきくらしい。
一番驚いたのが、幕府の海軍を統べる勝海舟の弟子だということだった。
羽毛組駐屯地にて、塩野隊長に伝えると
「海軍、か。困ったな」
と珍しく深刻そうな顔をしていた。
三日目、建物の影から見ていると、ふと見失った。
あの巨躯を見失うとは、、、
一旦引くか、と思ったその時
「にいちゃん、俺のこと好きなのかい?」
坂本竜馬に肩を組まれた。
デカい!間近で見る坂本龍馬は本当に大きい。
身体が分厚くて、見た目よりも質量を感じる。
組まれた腕の前半は、鍛えた馬の足のように筋張っている。
斬られるか?とは不思議と思わなかった。殺気がないのだ。
「貴方、坂本さんですよね」
「おう、竜さんと呼ばれることが多いかね」
目を覗き込んでみる。
まるで殺気はないが、俺のことをしっかりと見ている。
「にいちゃん、ただの子供じゃあない。手裏剣投げるの好きだったりするのかの?」
「いや、そんなものでは、、、」
竜馬の刀に目がいく。
あれ、この刀って
「気づいたかい?そう、これ竹刀。本物の刀は金がのぅなって変えてしもたわい」
持ち手は手拭いを縛った簡素な作りだ。
侍なのに帯刀しないとか、ありなのか?
「で、わしになにか聞きたいのか?」
胸元の御守りを見る。御守りが一度小さく震えた。良、の合図だ。
「維新、維新ってよく聞きますけど、あなた方は一体なにが目的なんですか?」
「ほぉ、込み入った話じゃの。時間あるか?団子でも食べながら話そう」
団子やへ入ると、店主が快く迎えてくれた。本当に町民に人気がある。
「ご主人、団子30本お願いしようかのぅ」
デカい腕を大きく上げて、店主を呼ぶ。
あいよ、と気前よく返事が来た。
「たくさん食べるんですね」
「お前さん達の分もあるぞ。一人十本ずつな」
ビクッと身体が震え、反射で数歩下がる。
「何故、二人居ると、、、」
「お前さん達、本当にお庭番や乱波じゃないのか?まあ、話聞いてくれるんなら、どっちでもいいけんど」
胸元の御守りをギュッと掴む。
「どうして、わかったのですか」
「ふふっ、わしゃ土佐じゃきぃ。狸は見たことないわけじゃあない」
胸元の御守りを、地面に置く。
ぽわん、とした煙とともに笹釜が狸の姿を現した。
「とんだご無礼を、狸の笹釜と申します」
笹釜も、こりゃ敵わんと思ったようで、平身低頭だ。
「よかよか、わしも昔、勝さん斬りにいったわ。話聞く気があるなりゃ、それでええわい。んて、攘夷の目的じゃったな」
坂本龍馬は説明を始めた。
幕府を守ろう、維持しようというのが「佐幕」
元々の形である天皇主体の国にしようというのが「尊王」
この二つは相容れないわな
外国と積極的に交流しようというのが「開国」
外国は打ち払うべしというのが「攘夷」
わしの思想は、こうじゃ。
黒船は強大じゃった。
現幕府の腐敗した体制では、勝てん。好きなようにされる。
だもんで、現幕府に変わる、天皇を頭にした統一国家樹立、これが目的じゃ。
国を守りたいっちゅう想いは、皆同じ。
どのように守るかっちゅう違いで、斬り合っとる。
わしも元々、攘夷思想じゃった。
今すぐ、外国船は打ち払うべしと。
勝先生を斬りにいって、そこを砕かれた。
今のままじゃ、外国にいいようにされると。
だから、わしは新しい国家体制を整える必要があると信じて、動いちょる。
「佐幕は、どうやって国を守ろうとしたんですか?」
笹釜が聞く。
それはわしより適任がおるなあ、と竜馬は呟き、店の入り口を見た。
「おぬしら、もしわしらに力を貸す気になったら、声をかけてくれんか。以前からの計画に、おぬしらの力は大いに役立つ。この日の本を守るため、力を貸して欲しいんじゃ」
目立つのだ。
長身にがっしりした肩幅で歩くだけで目立つ。
おまけに町民から好かれており、一歩進むごとに声をかけられ、気前よく買い食いをしている。
「あら、竜さん。きゅうりが冷えてるわよ」
と言われれば、
「おう姐さん、うまそうなきゅうりだ。一つもらおうかのぅ」
「竜さん、豆腐屋の親父が風邪気味のようだね」
と言われれば、
「そうじゃのう。心配で今朝薬を届けたんじゃが、ようなるといいのぅ」
侍のくせに、町民と距離が近く、とにかく愛想のいい男だった。
羽振は良さそうなのに、刀以外は全てみすぼらしく、顔が良くなければ浮浪者にも見える不思議な男だった。
「笹釜、どう近ずこうか」
「甘く見てはだめよ。隊長が言うには、坂本の剣の腕は超一級品で、一対一で勝つのはまず不可能って話よ。そんな豪傑が、あの振る舞い。きっとなにか策があってのことよ」
「だな」
まずは三日、遠くから観察することに決めた。
坂本の名は、坂本竜馬というらしい。
土佐藩から脱藩したとも聞くし、土佐から多額の援助を受けているとも聞く。
土佐以外の薩摩長州にも顔がきくらしい。
一番驚いたのが、幕府の海軍を統べる勝海舟の弟子だということだった。
羽毛組駐屯地にて、塩野隊長に伝えると
「海軍、か。困ったな」
と珍しく深刻そうな顔をしていた。
三日目、建物の影から見ていると、ふと見失った。
あの巨躯を見失うとは、、、
一旦引くか、と思ったその時
「にいちゃん、俺のこと好きなのかい?」
坂本竜馬に肩を組まれた。
デカい!間近で見る坂本龍馬は本当に大きい。
身体が分厚くて、見た目よりも質量を感じる。
組まれた腕の前半は、鍛えた馬の足のように筋張っている。
斬られるか?とは不思議と思わなかった。殺気がないのだ。
「貴方、坂本さんですよね」
「おう、竜さんと呼ばれることが多いかね」
目を覗き込んでみる。
まるで殺気はないが、俺のことをしっかりと見ている。
「にいちゃん、ただの子供じゃあない。手裏剣投げるの好きだったりするのかの?」
「いや、そんなものでは、、、」
竜馬の刀に目がいく。
あれ、この刀って
「気づいたかい?そう、これ竹刀。本物の刀は金がのぅなって変えてしもたわい」
持ち手は手拭いを縛った簡素な作りだ。
侍なのに帯刀しないとか、ありなのか?
「で、わしになにか聞きたいのか?」
胸元の御守りを見る。御守りが一度小さく震えた。良、の合図だ。
「維新、維新ってよく聞きますけど、あなた方は一体なにが目的なんですか?」
「ほぉ、込み入った話じゃの。時間あるか?団子でも食べながら話そう」
団子やへ入ると、店主が快く迎えてくれた。本当に町民に人気がある。
「ご主人、団子30本お願いしようかのぅ」
デカい腕を大きく上げて、店主を呼ぶ。
あいよ、と気前よく返事が来た。
「たくさん食べるんですね」
「お前さん達の分もあるぞ。一人十本ずつな」
ビクッと身体が震え、反射で数歩下がる。
「何故、二人居ると、、、」
「お前さん達、本当にお庭番や乱波じゃないのか?まあ、話聞いてくれるんなら、どっちでもいいけんど」
胸元の御守りをギュッと掴む。
「どうして、わかったのですか」
「ふふっ、わしゃ土佐じゃきぃ。狸は見たことないわけじゃあない」
胸元の御守りを、地面に置く。
ぽわん、とした煙とともに笹釜が狸の姿を現した。
「とんだご無礼を、狸の笹釜と申します」
笹釜も、こりゃ敵わんと思ったようで、平身低頭だ。
「よかよか、わしも昔、勝さん斬りにいったわ。話聞く気があるなりゃ、それでええわい。んて、攘夷の目的じゃったな」
坂本龍馬は説明を始めた。
幕府を守ろう、維持しようというのが「佐幕」
元々の形である天皇主体の国にしようというのが「尊王」
この二つは相容れないわな
外国と積極的に交流しようというのが「開国」
外国は打ち払うべしというのが「攘夷」
わしの思想は、こうじゃ。
黒船は強大じゃった。
現幕府の腐敗した体制では、勝てん。好きなようにされる。
だもんで、現幕府に変わる、天皇を頭にした統一国家樹立、これが目的じゃ。
国を守りたいっちゅう想いは、皆同じ。
どのように守るかっちゅう違いで、斬り合っとる。
わしも元々、攘夷思想じゃった。
今すぐ、外国船は打ち払うべしと。
勝先生を斬りにいって、そこを砕かれた。
今のままじゃ、外国にいいようにされると。
だから、わしは新しい国家体制を整える必要があると信じて、動いちょる。
「佐幕は、どうやって国を守ろうとしたんですか?」
笹釜が聞く。
それはわしより適任がおるなあ、と竜馬は呟き、店の入り口を見た。
「おぬしら、もしわしらに力を貸す気になったら、声をかけてくれんか。以前からの計画に、おぬしらの力は大いに役立つ。この日の本を守るため、力を貸して欲しいんじゃ」
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