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29. 1年生のくせに 後編

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試合が始まった。

スターティングメンバーがコートに整列し、一人一人とハイタッチを交わす。ヤジを飛ばす観客たちの異様な雰囲気とは打って変わって、試合は非常に和やかに始まった。

観客席からは太鼓や鳴り物の応援が響いている。いち地方大会とは思えないほどの盛り上がり。まるでインターハイ決勝のような、大きな歓声がこだまする通葉市総合体育館。鳴り物などの応援は中学生の間は禁止されそうなものだが、市の中学体育連盟が選手のモチベーションや、いちイベントとしての側面等を考えて容認しているようだ。

試合は4分が経過して4-3で青山中が1点リード。バスケットボールの試合としてはかなりのロースコアである。両チームの選手とも、かなり緊張している様子で、ミスが目立つ。

「大森、石原!いくぞ」

早くも光二とノリの1年生コンビが呼ばれた。1年生としては異例のデビューの速さだ。2人はTシャツを脱いで光二が12番、ノリは13番のユニホーム姿となり、テーブルオフィシャルに交代を告げた。2人が背番号を露わにした瞬間、観客席からは大きな声が聞こえた。

「おお!いきなり1年生の登場だ!」

「最初の総体で1年生がデビューなんて生意気な!」

「申し訳ないと思わないのか!」

「3年生は今まで必死の思いでやってきたんだぞ!」

「勝利至上主義とは、公教育もお先真っ暗だな」

北村と村田に代わり、1年生の登場。色々な声が飛ぶ通葉市総合体育館。「1年生は観客席で大声を出して先輩たちを鼓舞するもの」という偏見がそのままヤジとなって光二とノリに突き刺さる。

「うるせえなあ、あいつら自分の人生を生きてろよ。しょうがねえだろ、3年生より俺らの方が上手いんだから」

ノリが小さな声でつぶやき、2人はコートに入る。

青山中のオフェンスから試合は再開した。ノリがスローインから中野にパス。そして再びノリがボールを受けると、インサイドで待ち構えていた光二にボールが渡る。そしてノリが素早くベースライン側に移動し、同時に光二がパワーを生かして攻めていく。

「ノリ!」

光二がノリを呼び、スリーポイントラインあたりにいるノリにパスを出した。

「おい、1年2人で試合をコントロールしてるぞ!実力派だなぁあの2人…」

他校の生徒が騒めき始める。他の中学には、これほど上手い1年生はいないようで、2人への警戒が始まったようだ。

(シュパッ)

ノリが美しいフォームから放った3点シュートが、完璧な放物線を描いてゴールへ吸い込まれた。1年生が2人コートへ入って最初のプレーで得点。しかも完全に2人の独壇場である。シュートが決まった瞬間、観客全員が完全に声を失った。あまりにも見事な1年生のコンビネーション。3年生の汗と涙の結晶を期待していたおじさまたちはさぞかし不服であろうが、スポーツとは実力の世界だ。

「いいぞ!大森、石原!その調子で遠慮せずどんどん行けよ!」

石野中ベンチは一気に盛り上がった。そして勢いそのままに、17-9で青山中がリードして第1ピリオドを終えた。

「いいじゃん光二!ノリも!」

副キャプテンの田中が2人の背中をポンと叩く。

「1年生が大人しくしてなきゃいけないルールなんてないですからね。やってやりますよ」

2人は上級生優先という慣習を僅か6分ほどで闇に葬り去った。
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