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1. 入学
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2018年4月10日。
石原規広(いしはらのりひろ・通称ノリ)は地元の中学の入学式に出席するため、
母親とともに自転車で学校に向かっていた。
「中学校は小学校とは比べ物にならないほどいろんなことが厳しいから、
ノリも置いてかれないように頑張るんだよ」
「うん。とりあえず勉強は遅れないようにする。部活は入ってみないと何とも言えないや」
至って普通の、中学入学直前の母と子の会話である。
ノリはこの年齢にして、「本当の幸せとは」ということを考えるのが大好きな少年だ。
「今日の幸せだったこと」を小学4年生の時から毎日寝る前に記録し、6年生の時には夏休みの自由研究として発表した。残念ながら「テーマが小学生らしくない」ということで市内のコンテストでは佳作にとどまってしまったものの、幼い年齢の割に人生そのものについて考えることが多かったのだ。
しかしノリにとって小学校は、みんなが同じことをさせられるという点では、「幸せ」ではなかった。比較的成績の良かったノリは授業もそれなりにこなしており、一番遅い子に合わせるような授業のやり方に疑問を持っていた。
5年生の頃、担任の先生に
「算数が好きな子とそうじゃない子で授業のクラスを分けてください」
と頼みに行ったことがあったのだが、そのときは
「39人全員で5年3組なんです。クラスを分けるだなんてなんてことを言うんですか。3組を崩壊させる気ですか」
と、親を呼び出してまで説教された。
この「みんなで足並みを揃えて」という感じがノリには耐えられなかったのだろう。
中学校ではそんなことはないだろうと期待に胸を膨らませ、散りかけた桜の木々を横目にゆっくりと自転車を漕ぐ。
先月届いたばかりの、真新しい自転車のハンドルに、1枚の花びらがくっついた。ノリはあの場所からは解放されたのだ。全員を同じ色・形にしようとする没個性養成所からはもう卒業したのだ。
次のステージへ。
新たな場所へ舞台を変える時、不安も感じるが、それ以上にワクワクした気分になる者も多いだろう。
ノリの心は、12年と8ヶ月の人生で最も踊っている。
この横断歩道を渡れば中学校だ。
本当の幸せを感じるための、ノリの華々しい中学校生活が始まろうとしている。
石原規広(いしはらのりひろ・通称ノリ)は地元の中学の入学式に出席するため、
母親とともに自転車で学校に向かっていた。
「中学校は小学校とは比べ物にならないほどいろんなことが厳しいから、
ノリも置いてかれないように頑張るんだよ」
「うん。とりあえず勉強は遅れないようにする。部活は入ってみないと何とも言えないや」
至って普通の、中学入学直前の母と子の会話である。
ノリはこの年齢にして、「本当の幸せとは」ということを考えるのが大好きな少年だ。
「今日の幸せだったこと」を小学4年生の時から毎日寝る前に記録し、6年生の時には夏休みの自由研究として発表した。残念ながら「テーマが小学生らしくない」ということで市内のコンテストでは佳作にとどまってしまったものの、幼い年齢の割に人生そのものについて考えることが多かったのだ。
しかしノリにとって小学校は、みんなが同じことをさせられるという点では、「幸せ」ではなかった。比較的成績の良かったノリは授業もそれなりにこなしており、一番遅い子に合わせるような授業のやり方に疑問を持っていた。
5年生の頃、担任の先生に
「算数が好きな子とそうじゃない子で授業のクラスを分けてください」
と頼みに行ったことがあったのだが、そのときは
「39人全員で5年3組なんです。クラスを分けるだなんてなんてことを言うんですか。3組を崩壊させる気ですか」
と、親を呼び出してまで説教された。
この「みんなで足並みを揃えて」という感じがノリには耐えられなかったのだろう。
中学校ではそんなことはないだろうと期待に胸を膨らませ、散りかけた桜の木々を横目にゆっくりと自転車を漕ぐ。
先月届いたばかりの、真新しい自転車のハンドルに、1枚の花びらがくっついた。ノリはあの場所からは解放されたのだ。全員を同じ色・形にしようとする没個性養成所からはもう卒業したのだ。
次のステージへ。
新たな場所へ舞台を変える時、不安も感じるが、それ以上にワクワクした気分になる者も多いだろう。
ノリの心は、12年と8ヶ月の人生で最も踊っている。
この横断歩道を渡れば中学校だ。
本当の幸せを感じるための、ノリの華々しい中学校生活が始まろうとしている。
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