上 下
13 / 21

伝統料理

しおりを挟む
「お前なぁ、いい加減にしろよ!まともに資料が作れたこと1回もないじゃないか!」

ある会社の部長、松田憲彦(まつだ・のりひこ)が大声で叫んだ。

「す、すみません!本当にごめんなさい…」

糾弾されているのは入社3年目を迎える松笠淳(まつかさじゅん)である。

淳は人柄を買われてこの会社の面接をクリアしたが、蓋を開けてみればパソコンは苦手で注意は散漫、典型的な「仕事のできない人間」であった。

「本当に、お前を雇ったのは間違いだったよ」

憲彦のキツい言葉に、淳は何も言い返すことができない。

(キーンコーンカーンコーン)

「あ、もう昼休みか。松笠くん、昼イチで資料訂正するんだぞ」

淳は悔しさのあまり、憲彦の見えないところで突き返された資料を握りしめてクシャクシャにし、憲彦のデスクの下に放り投げてロッカーへ向かった。

「ったく、なんだよあのクソ部長。なめやがって…」

淳は先月から自分で弁当を作って会社に持参している。平日の唯一の楽しみである昼食を職員用冷蔵庫から取り出して蓋を開け、電子レンジに入れようとした。

「あーら、仕事は半人前なのに食べる量は一人前なんだなぁ」

(うるせえなぁ…)

淳は憲彦のイヤミを無視して、弁当を温めた。

「おら、なんとか言えよ。図星だから何も言い返せないんだろ」





「今日は、岡山県倉敷市特集でーす!」

19時17分。帰宅した淳がテレビをつけると、地元密着テレビ局の「通葉テレビ」で旅行特集が放送されていた。

「そうか、もうすぐお盆休みだもんな…」

7月下旬の熱帯夜。世間は2週間後に迫った夏の休暇に浮き足立っているが、淳は夕食を作る気力もなくカップ焼きそばにお湯を注いだ。

「かつての岡山の町民は、贅沢を禁止されていたんです。しかしながら…」

「そうか、これだ」

淳は何かを思い付き、明日の昼ごはんを作り始めた。





(キーンコーンカーンコーン)

翌日、昼休みのチャイムが鳴った。

「おー松笠くん、今日の弁当は白ご飯とたくあんだけか。えらく質素じゃないか。昨日の俺の言葉が効いたようだな」

憲彦は意地汚い笑みを浮かべながら、淳の弁当を左手の人差し指で突いた。淳は無言で憲彦を睨みつける。

「いただきまーす」

淳は敷き詰められた白米の一角を箸で持ち上げた。そこには実家から送られてきた特産品であり、そこそこの値段のするアジフライがびっしり入っていた。

「ざまーみろ、馬鹿野郎!」

淳は一人しかいない休憩室で、大声で叫んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

東京カルテル

wakaba1890
ライト文芸
2036年。BBCジャーナリスト・綾賢一は、独立系のネット掲示板に投稿された、とある動画が発端になり東京出張を言い渡される。 東京に到着して、待っていたのはなんでもない幼い頃の記憶から、より洗練されたクールジャパン日本だった。 だが、東京都を含めた首都圏は、大幅な規制緩和と経済、金融、観光特区を設けた結果、世界中から企業と優秀な人材、莫大な投機が集まり、東京都の税収は年16兆円を超え、名実ともに世界一となった都市は更なる独自の進化を進めていた。 その掴みきれない光の裏に、綾賢一は知らず知らずの内に飲み込まれていく。 東京カルテル 第一巻 BookWalkerにて配信中。 https://bookwalker.jp/de6fe08a9e-8b2d-4941-a92d-94aea5419af7/

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...