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青薔薇の栄光。

マルダリア王城に咲く薔薇。⑤

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背後から襲い掛かる剣戟を受けながらも、険しい表情でエヴァンはミリアを見上げた。

「あの方の狙いは・・。貴方が一番よく知っているでしょう??
この忌々しく・・。虚構に満ちた世界を壊すこと。
・・・ねぇ、ダラス様???その為には、誰を始末すればいいと思う??」

紅く塗られた唇を楽しそうに開くと、白い歯が輝いていた。

絶望的な表情を浮かべたエヴァンは、首をふるふると振ってミリアに叫んだ。

「イヴ、世界を壊すのは簡単だ。
だけど、新しく住みやすい世界を創り上げる事は
あの方には出来ない!!お願いだ、イヴ・・。これ以上君は自分を汚すな!!
自由に生きれる道を・・・。」

「私は・・。決めたんだ!!
この世界を壊そうとするあの方と共に最期まで行動を共にすると!!
・・私の邪魔をしないでっ!!」

バチッと、雷のような光が放電されてエヴァンの胸元へとぶつかった。

痛みに顔を顰めて蹲ったエヴァンを不安気な表情でミリアが見つめていた。

「・・イヴっ。私と居てくれるのではなかったのか??
少なくとも、最後まで君と一緒なのだと・・。私はそう信じていたんだ!!」


エヴァンが、強い光を宿した視線でミリアを見つめていた。

さっきまで虚ろだった目に微かな光を宿したミリアは、気が付くと
ツーっと頬に涙が流れていた。

「止めてっ・・!!それ以上、聞けないっ・・。私は、だってもう・・。」

その時、後ろで敵兵に攻撃を受けていたアレクシアの姿を捉えたミリアは
ぎゅうっと唇を噛んだ。

「・・・さよなら!!ダラス様。私は、アレクシア様を・・・。
カラルナ様の元へとお連れします!!
これで終わり。私はこの任務を果たせば・・。私は本当の・・。自由になれるの。」

ミリアは一瞬でシャンデリアの高さまで高く飛び
エヴァンの目の前から室内のドア付近へと壁を伝って飛んで行く。



「自由になれる??
そんなの嘘に決まっている、駄目だ・・。やめろ、イヴっ!!」

横から切り付けられた剣を受けたエヴァンは青ざめた表情で入り口にいた
アレクシアの元へと剣を交わしながら走っていく。


私は、敵兵の異常な動きの良さに翻弄されていた。

神力で吹き飛ばしても、忽ち起き上がる兵達の不気味さに顔は青ざめていた。

「さっきから何なの??この兵士達!?
動きが、人間離れしてるんだけどっ!?力とか、化け物並みじゃない!?」

ミニサイズのエリザベートも、敵兵に炎を吹き出して戦闘をしていたが
私も慣れない剣を持って、両側から挟み込まれる剣戟を交わすので精一杯だった。

「・・おおい、嬢ちゃん!!
あんたが開発した、この薬が即効性あるぜぇ!!これ使えよ。・・おっと危ねー・・。」

ルカが下げた鞄から瓶とノズルを受け取った。
別々に投げ渡された私は慌ててノズルを差し込もうとしていた私は
背後からの影に気づくことが出来なかった。

その陰は、物凄い速さで私に距離を詰めて来ていた。

ドスッ・・・。

腹部を強打された私は、ぐらりと揺れる身体を支えることが出来ずに
倒れながら後ろを振り返った。

見覚えのある茶色の瞳は、少しだけ痛みを覚えて揺れていた。

「え・・・。ミ、ミリ・・ア???」

水色の瞳は、驚きに満ちて見開かれると不安気にその名を零した。

次の瞬間、痛みで頭が白く沈んでいく・・。

手足の感覚を失った私は、ドサッと床に投げ出されるように倒れ込んだ。

「お、おいっ!?・・嬢ちゃん!???」

「アレクシア??貴様、妹に何をするんだ・・!?」

ルカと、アルノルドは敵兵と交戦中ですぐに駆け付ける事が出来ない
不甲斐なさに苦虫をつぶしたような表情を浮かべていた。

哀し気に細められた私の瞳に、ミリアは苦し気に息を吐いた。

「アレクシア様・・。主が貴方をお呼びです。」

私の身体を背負ったミリアは、ドアを蹴り飛ばすと廊下へと走った。

「待てっ・・!!
行くな、イヴっ!!アレクシア嬢を返すんだ・・。
あの方の言葉を信じては駄目なんだ。
こんなの間違っていると解っているのに。君はまだっ・・・。」

怒りの形相を浮かべたエヴァンは、神力で敵兵を弾き飛ばすと開かれた道を
全力で駆け抜けるミリアを追った。

「アレクシア様ッ・・!?もう、あんたねぇ、何てことするのよっ!?」

エーテルは、シルヴィアに跨ったまま敵兵を凍らせて追いかけていく。

廊下の大きな窓は開けられていた。

その窓の淵に跨ったミリアは、追って来たエヴァンとエーテルを遠目で
確認した。

窓の外に現れたファーレルの背にアレクシアを乗せて窓の
縁に身体を乗せたままで振り向いた。

「カラルナ様に元気にしてもらったの・・。
・・・・ファーレルは、たった一人の私の家族だから。」

茶色の瞳は、真剣にエヴァンを見つめていた。

エヴァンは、向き合ったイヴに手を差し出そうとすると
苦しそうにミリアはその手をパシッと振り払って涙目でエヴァンを見下ろしていた。

「エヴァン様、私はアレクシア様の御身を差し出す代わりに・・・。
貴方の命と、私の自由の両方を得る事が出来るの・・。
私には、こうするしかないの!!」

凪いだ瞳でイヴを見つめたエヴァンは、払われた手を握りしめると
哀しそうに微笑んでいた。

「馬鹿だな・・。
あの人は少なくとも人の命は奪っても、生かすことは選ばない。
そして、誰かの自由を脅かしても、自由を与えるなんてことはしないだろう。
だが、・・・君の心は君のものだ。
信じる相手はぐらいは、自分で考えて決めたらいい・・。」

「・・・何を、言うの・・。そんな事、聞きたくない。」

その言葉に痛みを感じているかのように耳を塞いだミリアは、涙目でエヴァンを見ると
塔のベランダから下へと飛び降りた。


その身体を受け止めたファーレルは大きな尻尾を揺らして遠く離れた敷地内の
別の棟へとアレクシアを乗せて飛んで行った。

息を切らして追い付いたエーテルが、立ち竦むエヴァンの隣から窓の外へと
身体を乗り出して小さくなるファーレルを見つめていた。

「アレクシア様ぁぁっ!!!・・ミリアっ、許さないから!!
何度もアレクシア様を裏切るなんてっ・・。
なんでっ、あんなにお慕いしていたはずなのに。
・・・どうしてそんな事が出来るのよ!!」

侍女として楽しく過ごしていた日々が遥か昔のように感じられた。

少しドジなミリアをとても好きだった自分を悔しく思った。


銀色の髪を揺らしたエーテルは、見えなくなったミリアとアレクシアが飛び去った
方角を呆然と見つめていた。

「エーテル・・・。何となく解ったよ。あの方が考えている事が。
・・まさか、最初からそれが狙いだったのか??」

その言葉に、エーテルが驚いた表情でエヴァンを見た。

「・・・エヴァン様、ミリア達は・・。一体、何をする気なのですか??」


「あの方は、絶望的な光景を作り出すつもりなんだ・・。
そして、こちら側を揺さぶるつもりなんだ。
だが、その悲劇だけは・・・。もう二度と繰り返させるわけにはいかない。
今度は必ず、この手で止めて見せる。
私はもう、二度とあんな後悔はしたくないんだ・・。」

レムリアが眠るベッドの上にそっと青い薔薇を置いたエヴァンは、冷たくなった
レムリアの手を取った。

その冷たく固い指は、あの優しい微笑みと柔らかい腕の中で髪を撫でてくれた
レムリアを永遠に失ったのだとあの時、初めて理解した・・。


エヴァンは、ミリアに払われた右手をぐっと握りしめた。


その後ろに立っていたエーテルは、ゴクリと留飲を飲むと一度窓の外を振り返って
何も見えなくなった虚空を見つめた。


その瞳は閉じられて、エーテルはぐっと唇を噛んだ。


「もしも、ミリアが・・・。
アレクシア様を傷つけるような選択をしてしまうなら・・。
この私が自らの手で、何としても止めないといけないわね。」


再び開かれた紅い瞳には鋭い闘志を宿していた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


バサッ・・・。


大きな羽を畳んで静かに固い石の上に着地をしたグリフォンは、左右を警戒したように
眼を見張っていた。

「有難う、シリウス・・。君の背中はやはり心地よかった。」

レオは瞳を細めて、シリウスの鼻の上に手を伸ばした。

「グルルル・・。」

嬉しそうに答えたシリウスを見て少し笑うと、エリアスはシリウスの背中からゆっくりと降りた。

シリウスに跨っていたレオがユヴェールの部屋のベランダへと降り立つと
部屋の中で呆然とした表情で立ち竦むクリスの姿があった。


その光景に、不思議そうに首を傾げたレオは部屋の中へと無言のまま入って行った。

ハッと何かを感じたエリアスは、シリウスを収めると西の棟へと視線を向けた。


「どうした???クリス・・。お前、爆発させすぎでビックリしたぞ??
城を全壊させる気なのかと思ったが・・・。」

「・・・ん??どうした、クリス??何かあったのか??」

ドアを見守ったまま固まるクリスは、レオに気づくと不安気に抱き着いた。


振り返ったクリスは赤い瞳を不安気に揺らして心細そうな表情を浮かべていた。

「レオッ・・・。何かヤバイかもしんない!!
ユヴェールさんが・・・。すぐ戻るって言ったのに、全然戻って来ないんだけど!?」

ドンッとレオの胸に拳を置くと、焦るような声で喚いた。

「ユヴェールが・・??
それって、どういう事??クリスとずっと一緒に行動していたんじゃなかったの?」

「カ・・。カイルさん!?あれっ・・・。
そうか・・。エヴァン王太子の元に居て和解したって本当だったんだ!?
全然こっちとそっちじゃ時間の流れも理解度も違うもんね。
仲間に戻ったのは良かったんだけど、シアさんを攫って行った時はどうなるかと思ったよ??
でも、良かった・・・。戻ってきてくれて!!」

シリウスから最後に降り立った後、後ろからゆっくりと歩いて来たカイルを見付けたクリスは
大きな声でカイルに叫んだ。

心から嬉しそうなクリスに、カイルは緊張気味に苦く笑った。

「ごめんね、クリス・・。
色々あったし、僕自身が間違えに気づけたんだ。
今は、自分の意思でレオ達の元に居て・・。行動を共にしている。
組織を裏切った形になったので、あまり大きな声では言えないが・・。
志を同じく持った仲間として、レオやダラ・・。エヴァン様と一緒に戦うと決めたんだ!!」

「・・と、そういう事だから、また宜しくな。」

レオも、嬉しそうに2人を交互に見ていた。


「それは良かったんだけどさ・・。
ユヴェールさんの母君に会って、不安そうな母君が心配だからって部屋まで送ってくって
言って出てってから・・。
ユヴェールさんてば、すぐ戻るって言ってたのに・・。
全然戻って来ないんだけどっ・・!!」

「・・・ユヴェールの母君って。
まさか・・・。アンブリッジ様がここに現れたと言うのか??
・・ユヴェールに会いにか!???」

金色の瞳が激しい感情に包まれて、引き締まった唇が震えていた。

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