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マルダリア王国の異変。
マルダリア王城の一夜。①
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レオが神聖獣を呼び出す少しだけ前の刻。
マルダリアの王城では、夥しい数の兵士がその城を守っていた。
その大きな王宮の下層部にある牢獄・・。
真っ暗で、生ぬるい熱さと湿気の多い牢獄に身柄を確保されたユヴェールとクリスの姿があった。
王城の牢獄は錆びた鉄と、歪なレンガが積み上げられた古く陰気臭い場所だった。
「・・気を付けて行くんだよ!!」
鉄格子が嵌められた窓から勢いよく1匹の銀狼が軽々と飛び出した。
その銀色の鬣が美しく宵闇の中を勢いよく駆けて行く様をユヴェールは静かに見守る。
王城の牢獄に捕らえられたが、辺りには他の囚人の気配や声はなかった。
クリスは、自分の神獣を出すと何やら神獣にレオ達に向けた伝言をしていたようだった。
「・・・よし!!これで大丈夫そうだね??
この城の城壁の外まで兵に気づかれずに出て行ったみたいだよ??」
嬉しそうに微笑んだユヴェールは、クリスの神獣が飛び出した窓を見ながらガッツポーズを取っていた。
「レオ達に助けを呼んで、伝言を聞いたみんながこの城に来てくれるまでは
黙ってここで待つ感じで大丈夫・・。か・・なぁぁ!??」
「ヒック。えー??
黙って待ってるのは性に合わないんだよねぇ。ここ暗いし、鉄臭くて汚いもん。」
「・・あの??さっきから何してんの!!?待ってよ!!その瓶・・なに・・むぐうっ!??」
驚いた声を出したユヴェールの口をもがっと塞いだクリスは赤い瞳を大層据わらせた
ままでため息を吐いた。
「シィっ・・。
・・・ちょっとだけ声が大きいよ、ユヴェールさん!!」
大きな茶色の瓶をグビッと最後まで飲み干したクリスの頬は赤く色づいていた。
「・・うわっ、酒臭っ!!ええっ、何で?酒飲んでるの??
閉所恐怖症とか、暗所恐怖症とかの部類で可笑しくなったとか??
その人でなし感たら、まるでルカみたいじゃない!!(失礼)」
「ちょっとさ・・。ヒック。試してみたんだよねぇ・・。
僕の魅了の力が落ちてないか・・。ヒック。」
クリスはそう言うとキュポンと酒の瓶にコルクで蓋をして揺れる身体で立ち上がった。
その言葉に、意味が全く解らない様子のユヴェールは口をパクパク
させたままクリスを見上げていた。
右手を翳すと、暗い部屋に明るく銀色の光を持つ物が指先から零れ出た。
チャリッ・・。
「どんなに入り組んだ王宮の牢獄に捕らえられたとしても、
僕の力を持ってすれば、・・こんなの簡単だよね??」
銀色に光り輝く棒鍵が揺れていた。
ユヴェールは、クリスの手に収まっていた銀色の鍵束を見て唖然とした表情を浮かべていた。
「・・そんな。い、いつの間に??
この牢の鍵束じゃないの??形状ピッタリじゃないか!!すごいな・・。」
「さっき、ご飯を運んでくれた兵士に上目遣いで「ついでにその鍵束置いてって?」って
優しく微笑んでみただけなんだけど。僕の魅了で全部が楽勝だったかなー・・。
・・・ついでにほら、飲みかけの酒もくれたんだ。ヒィーック。」
「なるほど!!
だから、レオはクリスを連れてけって押したんだね!!??
魅了の神力って、そんな男女共に万能に効くもんなんだ・・・。
でも、そんな足元が覚束ない程の泥酔状態で脱出して大丈夫なの??」
碧の瞳を引きつらせたユヴェールは、鍵を持ったまま不敵に微笑むクリスを不安そうに見上げた。
頬を赤らめたまま、しゃくりあげているクリスに一抹の不安を覚えざる得なかった・・。
「大丈夫に決まってるじゃないの・・。
頭も明瞭だしね・・ヒック!!今の僕は、頬の血色は最高に良いし。
この潤んだ瞳で、甘い上目遣いで魅了の技を繰り出すとね・・。ふふっ、最強になるんだよ??」
紅い瞳を煌々と輝かせたクリスはニヤッと口角を上げた。
「・・そ、そうかな??
頭が明瞭なのは怪しいけど。まだここから出るのは早いんじゃ・・。」
心配しかなさそうな表情のユヴェールは、眉を顰めたまま首を傾げてクリスを黙って見ていた。
その時、牢の通路から2つの足音が聞こえた。
ゆっくりとこちらへと近づいてくる足音にユヴェールは一瞬緊張で身構えた。
ユヴェールとクリスの収監された牢の前に来ると、2人のマルダリア兵士はピタッと足を止めた。
キッと睨んで立ち上がろうとしたユヴェールを、クリスが片手で制して唇に一指し指を軽く当てると
微笑みを浮かべた。
「遅いじゃないか??・・・例の物は持って来たの??」
赤い瞳が据わったまま、涼し気な声が響いた。
「お待たせして申し訳ありません!!クリス様・・・。兵服を二名分、お持ち致しました!!」
「こちらは、武器の剣と銃二丁です。渡された小瓶は明日の朝飯に入れておきました!!
城の地図と兵の配置図についても今夜の最新の物がここに・・。
他に御所望のものはございませんか???」
厳つい長身の男性と、髭面で筋肉質な兵士はクリスの瞳をキラキラした目で見上げていた。
「うーん・・。あと、マッチ持ってる?それ頂戴??
あとは・・。この城の火薬庫って何処!??
この地図に印書いといてくれると助かるんだけど!!
あ、うん。そこね・・。ハイっ、・・どうも、有難うね!!」
後ろで黙って聞き耳を立てていたユヴェールはクリスの言葉にゾッとすると、
息を止めてクリスを見ていた。
「・・・怖いんだけどこの人。この城、燃やさないよね?」
教えられた火薬庫の場所に、ペンで二重丸で印をつけたクリスはウキウキした表情で
地図を握りしめて笑っていた。
「あの!!クリス様・・!!
その、大変厚かましいお願いかもしれませんが、
よくやったと褒めて欲しいんです!!その時に、頭を・・。こうですね。
そっと優しく・・。こう、「よしよしっ」という感じで・・。」
「・・貴様ぁ!!こんの無礼者がぁっ!!!」
バキッ・・。
もう1名の兵が、大きな拳で腹部に一発見舞うと声の主だった兵士がドサッとレンガの床に倒れた。
その鼻からは、興奮のあまり鼻血が流れていた。
ぎょっとした表情のユヴェールが目を大きく見開いてその様子を見ていた。
「・・お前なんかの汚い頭を触ったら、クリス様のお手が汚れる。
クリス様・・。あの、儂は・・。有難うのお言葉だけで・・。もう充分です!!
・・ああっ、嘘です!!
やはり貴方の白魚のような手に触れたい!!どうか握手だけでも・・。いいですか??」
頬を染めた髭面で筋肉質な兵士のほうが、クリスを見上げた瞬間だった。
ドスッ・・。
赤い瞳が暗闇で光った次の瞬間、兵士は冷たい床に倒れた。
今度はクリス自身が、その鼻の下が伸びきったもう一人の兵士の腹部に一発KOを入れた。
「・・・嫌だよ!!
僕はね、褒めるより褒められたいんだよ。感謝の言葉だって言いたくないのにさぁ・・。
欲張りな奴には天誅だね?・・ヒック。」
ふらりと立ち上がったクリスが、銀色の鍵を開けて牢を出ると無表情のまま兵達の身体にドカッと足を乗せた。
その行動に、ユヴェールはヒッと息を飲んで見上げた。
「ふふっ・・・。薄汚い溝鼠たちが軽々しく僕に触れて言い訳ないだろ??
僕を誰だと・・ヒィック。
アルトハルトの天族出の、ファーマシストだし・・。更にコンダクターの・・。
・・うああっ!!この肩書、妙に長いんだけど!?
肩書なんて邪魔で糞なだけだなぁ・・?!!捨てちまえっ。はははっ、あっはっはははは!!」
「酒は人格を変えるもんだな・・。
いや、あれが元からの素なのか?・・凍えるよ。」
しっかり人格まで変わってしまった様子のクリスに、
驚きを隠せないユヴェールは口をポカンと開けて見上げていた。
「さぁて、全部手に入ったしい・・。
ヒック、着替えちゃって、さっさとここから出よっかぁ??ヒィック。」
バサッと貰った騎士服を牢のベッドの上に置くと、サッと上着を脱いだクリスの
きめ細かな白い上半身が月夜に照らされていた。
伸びきった兵たちは、ズルズルと牢獄の床の上に横たえていた。
その顔に向けてクリスが手を翳すとぱぁっと光が牢の中に溢れた。
「ねぇ、クリス・・・。
薬の時も何回も思ってたんだけどさ、
・・・絶対に、その神力さ・・。俺には使わないでよ??」
ユヴェールはさっきのやり取りに心からの恐怖しか感じなかった。
着替えながらも、その心からの本音をクリスに伝えた。
敵認定されたら、あっさり毒薬も魅了の神力も使われるのだと確信したユヴェールは
ゴクリと喉を鳴らした。
暗闇にその赤い瞳が怪しく輝いた瞬間に、ゾッとした悪寒が背中に走ったのだった。
「時と場合と、状況に寄るけど・・。
僕の味方であればこの力は使わなくて済むけど??
ユヴェールさんがさぁ・・。ヒィック、ずーっと僕の味方でいれば無事ってことじゃない?
ヒィィック。」
笑顔のクリスは楽しそうに笑ってた。
「すっ・・。末永く仲良くしような・・。
これからは、アレクシアの付けるあだ名っぽく魅了無双クリス君と呼ぶね・・!?」
「それ長いし、お馬鹿っぽいからクリスでいい・・。ヒック
出来ればこの力は男には極力使いたくないからさ。
・・心底吐き気がして、本気で殺意が芽生えちゃうんだよね僕っ。・・ヒイック。」
青ざめたユヴェールは、気配を消すと静かに身支度をしていた。
2人は自分の脱いだ服を兵士たちに着せると、ベッドの上に寝かせて牢を出た。
「はーい・・。あっ、じゃあ。まずは、ここっ!!ここ、行ってみよっか??」
地図を手にしたまま、赤い丸字で囲まれた地図の一か所を指さすと笑顔のクリスは
嬉しそうに廊下を走り出した。
「うん・・??火薬庫じゃない??
まさか、いきなりここを爆破とか考えてないよね!?
ちょっと待ってよ!!・・・落ち着いて、冷静になってくれ。
クリスっ!?ああ、もう姿も見えない・・。」
会う兵たちを魅了で言いなりにさせ、女性の侍女に道を聞いてやりたい放題の
クリスの魅了無双がマルダリア王城では繰り広げられていたのだった。
酔拳のように魅了を使いながらテンション高めのクリスを見て
ユヴェールは心からの不安を隠せなかった・・。
マルダリアの王城では、夥しい数の兵士がその城を守っていた。
その大きな王宮の下層部にある牢獄・・。
真っ暗で、生ぬるい熱さと湿気の多い牢獄に身柄を確保されたユヴェールとクリスの姿があった。
王城の牢獄は錆びた鉄と、歪なレンガが積み上げられた古く陰気臭い場所だった。
「・・気を付けて行くんだよ!!」
鉄格子が嵌められた窓から勢いよく1匹の銀狼が軽々と飛び出した。
その銀色の鬣が美しく宵闇の中を勢いよく駆けて行く様をユヴェールは静かに見守る。
王城の牢獄に捕らえられたが、辺りには他の囚人の気配や声はなかった。
クリスは、自分の神獣を出すと何やら神獣にレオ達に向けた伝言をしていたようだった。
「・・・よし!!これで大丈夫そうだね??
この城の城壁の外まで兵に気づかれずに出て行ったみたいだよ??」
嬉しそうに微笑んだユヴェールは、クリスの神獣が飛び出した窓を見ながらガッツポーズを取っていた。
「レオ達に助けを呼んで、伝言を聞いたみんながこの城に来てくれるまでは
黙ってここで待つ感じで大丈夫・・。か・・なぁぁ!??」
「ヒック。えー??
黙って待ってるのは性に合わないんだよねぇ。ここ暗いし、鉄臭くて汚いもん。」
「・・あの??さっきから何してんの!!?待ってよ!!その瓶・・なに・・むぐうっ!??」
驚いた声を出したユヴェールの口をもがっと塞いだクリスは赤い瞳を大層据わらせた
ままでため息を吐いた。
「シィっ・・。
・・・ちょっとだけ声が大きいよ、ユヴェールさん!!」
大きな茶色の瓶をグビッと最後まで飲み干したクリスの頬は赤く色づいていた。
「・・うわっ、酒臭っ!!ええっ、何で?酒飲んでるの??
閉所恐怖症とか、暗所恐怖症とかの部類で可笑しくなったとか??
その人でなし感たら、まるでルカみたいじゃない!!(失礼)」
「ちょっとさ・・。ヒック。試してみたんだよねぇ・・。
僕の魅了の力が落ちてないか・・。ヒック。」
クリスはそう言うとキュポンと酒の瓶にコルクで蓋をして揺れる身体で立ち上がった。
その言葉に、意味が全く解らない様子のユヴェールは口をパクパク
させたままクリスを見上げていた。
右手を翳すと、暗い部屋に明るく銀色の光を持つ物が指先から零れ出た。
チャリッ・・。
「どんなに入り組んだ王宮の牢獄に捕らえられたとしても、
僕の力を持ってすれば、・・こんなの簡単だよね??」
銀色に光り輝く棒鍵が揺れていた。
ユヴェールは、クリスの手に収まっていた銀色の鍵束を見て唖然とした表情を浮かべていた。
「・・そんな。い、いつの間に??
この牢の鍵束じゃないの??形状ピッタリじゃないか!!すごいな・・。」
「さっき、ご飯を運んでくれた兵士に上目遣いで「ついでにその鍵束置いてって?」って
優しく微笑んでみただけなんだけど。僕の魅了で全部が楽勝だったかなー・・。
・・・ついでにほら、飲みかけの酒もくれたんだ。ヒィーック。」
「なるほど!!
だから、レオはクリスを連れてけって押したんだね!!??
魅了の神力って、そんな男女共に万能に効くもんなんだ・・・。
でも、そんな足元が覚束ない程の泥酔状態で脱出して大丈夫なの??」
碧の瞳を引きつらせたユヴェールは、鍵を持ったまま不敵に微笑むクリスを不安そうに見上げた。
頬を赤らめたまま、しゃくりあげているクリスに一抹の不安を覚えざる得なかった・・。
「大丈夫に決まってるじゃないの・・。
頭も明瞭だしね・・ヒック!!今の僕は、頬の血色は最高に良いし。
この潤んだ瞳で、甘い上目遣いで魅了の技を繰り出すとね・・。ふふっ、最強になるんだよ??」
紅い瞳を煌々と輝かせたクリスはニヤッと口角を上げた。
「・・そ、そうかな??
頭が明瞭なのは怪しいけど。まだここから出るのは早いんじゃ・・。」
心配しかなさそうな表情のユヴェールは、眉を顰めたまま首を傾げてクリスを黙って見ていた。
その時、牢の通路から2つの足音が聞こえた。
ゆっくりとこちらへと近づいてくる足音にユヴェールは一瞬緊張で身構えた。
ユヴェールとクリスの収監された牢の前に来ると、2人のマルダリア兵士はピタッと足を止めた。
キッと睨んで立ち上がろうとしたユヴェールを、クリスが片手で制して唇に一指し指を軽く当てると
微笑みを浮かべた。
「遅いじゃないか??・・・例の物は持って来たの??」
赤い瞳が据わったまま、涼し気な声が響いた。
「お待たせして申し訳ありません!!クリス様・・・。兵服を二名分、お持ち致しました!!」
「こちらは、武器の剣と銃二丁です。渡された小瓶は明日の朝飯に入れておきました!!
城の地図と兵の配置図についても今夜の最新の物がここに・・。
他に御所望のものはございませんか???」
厳つい長身の男性と、髭面で筋肉質な兵士はクリスの瞳をキラキラした目で見上げていた。
「うーん・・。あと、マッチ持ってる?それ頂戴??
あとは・・。この城の火薬庫って何処!??
この地図に印書いといてくれると助かるんだけど!!
あ、うん。そこね・・。ハイっ、・・どうも、有難うね!!」
後ろで黙って聞き耳を立てていたユヴェールはクリスの言葉にゾッとすると、
息を止めてクリスを見ていた。
「・・・怖いんだけどこの人。この城、燃やさないよね?」
教えられた火薬庫の場所に、ペンで二重丸で印をつけたクリスはウキウキした表情で
地図を握りしめて笑っていた。
「あの!!クリス様・・!!
その、大変厚かましいお願いかもしれませんが、
よくやったと褒めて欲しいんです!!その時に、頭を・・。こうですね。
そっと優しく・・。こう、「よしよしっ」という感じで・・。」
「・・貴様ぁ!!こんの無礼者がぁっ!!!」
バキッ・・。
もう1名の兵が、大きな拳で腹部に一発見舞うと声の主だった兵士がドサッとレンガの床に倒れた。
その鼻からは、興奮のあまり鼻血が流れていた。
ぎょっとした表情のユヴェールが目を大きく見開いてその様子を見ていた。
「・・お前なんかの汚い頭を触ったら、クリス様のお手が汚れる。
クリス様・・。あの、儂は・・。有難うのお言葉だけで・・。もう充分です!!
・・ああっ、嘘です!!
やはり貴方の白魚のような手に触れたい!!どうか握手だけでも・・。いいですか??」
頬を染めた髭面で筋肉質な兵士のほうが、クリスを見上げた瞬間だった。
ドスッ・・。
赤い瞳が暗闇で光った次の瞬間、兵士は冷たい床に倒れた。
今度はクリス自身が、その鼻の下が伸びきったもう一人の兵士の腹部に一発KOを入れた。
「・・・嫌だよ!!
僕はね、褒めるより褒められたいんだよ。感謝の言葉だって言いたくないのにさぁ・・。
欲張りな奴には天誅だね?・・ヒック。」
ふらりと立ち上がったクリスが、銀色の鍵を開けて牢を出ると無表情のまま兵達の身体にドカッと足を乗せた。
その行動に、ユヴェールはヒッと息を飲んで見上げた。
「ふふっ・・・。薄汚い溝鼠たちが軽々しく僕に触れて言い訳ないだろ??
僕を誰だと・・ヒィック。
アルトハルトの天族出の、ファーマシストだし・・。更にコンダクターの・・。
・・うああっ!!この肩書、妙に長いんだけど!?
肩書なんて邪魔で糞なだけだなぁ・・?!!捨てちまえっ。はははっ、あっはっはははは!!」
「酒は人格を変えるもんだな・・。
いや、あれが元からの素なのか?・・凍えるよ。」
しっかり人格まで変わってしまった様子のクリスに、
驚きを隠せないユヴェールは口をポカンと開けて見上げていた。
「さぁて、全部手に入ったしい・・。
ヒック、着替えちゃって、さっさとここから出よっかぁ??ヒィック。」
バサッと貰った騎士服を牢のベッドの上に置くと、サッと上着を脱いだクリスの
きめ細かな白い上半身が月夜に照らされていた。
伸びきった兵たちは、ズルズルと牢獄の床の上に横たえていた。
その顔に向けてクリスが手を翳すとぱぁっと光が牢の中に溢れた。
「ねぇ、クリス・・・。
薬の時も何回も思ってたんだけどさ、
・・・絶対に、その神力さ・・。俺には使わないでよ??」
ユヴェールはさっきのやり取りに心からの恐怖しか感じなかった。
着替えながらも、その心からの本音をクリスに伝えた。
敵認定されたら、あっさり毒薬も魅了の神力も使われるのだと確信したユヴェールは
ゴクリと喉を鳴らした。
暗闇にその赤い瞳が怪しく輝いた瞬間に、ゾッとした悪寒が背中に走ったのだった。
「時と場合と、状況に寄るけど・・。
僕の味方であればこの力は使わなくて済むけど??
ユヴェールさんがさぁ・・。ヒィック、ずーっと僕の味方でいれば無事ってことじゃない?
ヒィィック。」
笑顔のクリスは楽しそうに笑ってた。
「すっ・・。末永く仲良くしような・・。
これからは、アレクシアの付けるあだ名っぽく魅了無双クリス君と呼ぶね・・!?」
「それ長いし、お馬鹿っぽいからクリスでいい・・。ヒック
出来ればこの力は男には極力使いたくないからさ。
・・心底吐き気がして、本気で殺意が芽生えちゃうんだよね僕っ。・・ヒイック。」
青ざめたユヴェールは、気配を消すと静かに身支度をしていた。
2人は自分の脱いだ服を兵士たちに着せると、ベッドの上に寝かせて牢を出た。
「はーい・・。あっ、じゃあ。まずは、ここっ!!ここ、行ってみよっか??」
地図を手にしたまま、赤い丸字で囲まれた地図の一か所を指さすと笑顔のクリスは
嬉しそうに廊下を走り出した。
「うん・・??火薬庫じゃない??
まさか、いきなりここを爆破とか考えてないよね!?
ちょっと待ってよ!!・・・落ち着いて、冷静になってくれ。
クリスっ!?ああ、もう姿も見えない・・。」
会う兵たちを魅了で言いなりにさせ、女性の侍女に道を聞いてやりたい放題の
クリスの魅了無双がマルダリア王城では繰り広げられていたのだった。
酔拳のように魅了を使いながらテンション高めのクリスを見て
ユヴェールは心からの不安を隠せなかった・・。
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