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婚約破棄のため、同盟結びます!

波乱の婚約披露舞踏会①

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執務室にある大きなテーブルに私と向かい合って座るカイルは長い脚を組んで物憂げな表情を見せていた。
憂いを帯びた表情を浮かべているので話しかけ難いのだが・・。

青さの中に深い緑の混じった瞳の下にある泣き黒子が色っぽい・・らしいけど。

「カイル様は睨んだ顔も、怒った顔もご尊顔は崩れず、秀逸な輝きを放っていて最強の顔面!!」
と、数多のご令嬢方から黄色い声が常に上がる。

ごめん、令嬢たち・・。
貴方たちの心情が私には全く理解出来ない。

私にとって、危険でしかない最凶の顔面であることには心から同意出来るんだけど・・。

執務室に戻って数分間以上の長い沈黙が続いていた。

部屋の中には時計の秒針の音が響いていた。
エリオスは、こちらが気まずい状態だというのに書類が積んである執務机の上で、何やらかじりついて作業している様子だった。

そんな時、暇そうに窓の外の鳥の数を数えていた私にゆっくり向き合ったカイルが言葉を発した。

「エメリア、落ち着いたか・・?」

「・・・ええっ!?今まで私待ちでしたの!?
取り乱してもいなかったんですが・・。
ノアは初対面時から浮気男の片鱗が見えていたので確信に変わって喜びしかないですが!?」

その言葉に非常に驚いた私は、露骨に眉間に皺を寄せてしまった。

「そ、そうか・・エメリアは・・喜んでいるのか!?
コホン、婚約破棄の方法の方が問題なんだが・・。
「イシーラの夜」で婚約を表立って破棄するには、国の筆頭侯爵家と、公爵家から3人以上の婚約破棄の同意が書かれた内容の意見書を提出することが必要なんだ。・・そのことが目下の悩みだな」

「意見書・・ですか?お偉い方3名分貰わないといけないと・・。何やら難題のようですね」

カイルの手元には、ラグラバルトの法律が書かれている司法六坊書があった。
分厚い法律が書かれたその書の中をパラパラと捲りながら、ため息を吐いた。

「申し訳ありません、お待たせしました・・。」

作業を終えた様子のエリオスが、手に数枚の紙束を持って私とカイルのソファの横に立った。

エリオス待ちだったんかい!!と、突っ込みそうになった。

「今まで「イシーラの夜」での婚約破棄の件数が少なかったのは、侯爵家と公爵家からの意見書を入手するのが恐らく非常に困難だったからでしょうね・・。
今回のカイル様とエメリア様の婚約破棄事案を我々だけで三ヵ月で成し遂げることは難しいと思います。
協力者が何名か必要になるますね。・・・・と、言う訳で。我々で秘密裏に協力体制を組む、婚約破棄の為の同盟を結ぶことで如何でしょうか??」

「どっ、同盟ですか・・!?しかし、お姉さまとノアの破廉恥行為が人様にバレてしまったら・・。
私まで巻き添え連座の上、家無し職なしになっちゃうんですけど・・。そのへんは大丈夫ですか?」

「勿論。利害が一致した人物で、尚且つ信用の足る者だけを同盟に引き入れていくのです。
あのようにはき違えて自由気ままに行動しているノア様の動きへの監視も必要なので、騎士団にも協力を得なければいけないと思います。
同盟への勧誘者リストを作成しましたので、こちらの資料に目を通して下さい。」


「こ、これは・・・。侯爵家のご令嬢や、王族の発言力のある方々ばかりじゃないですか!!」

「流石だなエリオス。短時間でよく整理してまとめ上げたな・・。
なるほど、確かに彼等の力を得られれば確実に意見書にたどり着くだろうが・・。」

エリオスから渡されたリストを見て、私とカイルは感嘆の声を上げた。

「恐れ入ります。しかし、問題はどうやって彼等の利益と我らの目的を一致させるかですね・・。
皆さま、名家のご子息とご令嬢ばかりです。
しかも、社交界の花で蜘蛛の巣と言われるだけある情報網をお持ちの方々ばかりですから」

そのリストには、私の親友である公爵令嬢のリリア=メイアクトス(18歳)、カイルの幼馴染で公爵家の長男で第二宮廷騎士団長でもあるエイルアン=イグノス(19歳)、エイルアンの婚約者で学友でもある筆頭公爵家の令嬢カリーナ=オルディス(17歳)、弟のオーヴリーの婚約者で幼馴染のクロエ=アスペクト(17歳)、学校の社交部仲間の筆頭公爵家のアルフレド=クラウ(17歳)の名前があった。

11歳から、浮気者ノアとの婚約破棄ばかりを考えて、必死に仮病を使ってみたり、策を張り巡らせて回避を狙ってみたが最後はいつも上手くいかなかった事を振り返っても相当な準備が必要よね・・。

最後には、いつでもこの国から国外逃亡出来るように勉強を必死で頑張って近隣諸国の数か国語を
話せるように準備している。

貴族だけでなく国境を越えて人脈を作って来た甲斐があって、ここに書かれている上位貴族に並ぶリストに書かれた人間たちは、私にとっても知人以上の間柄だった。

法的な拘束でいつも断念してきたが、それを逆手に取って法的根拠のあるやり方で婚約破棄が出来るなら今度こそ、ノアと婚約を破棄するわ・・。

二度と結婚なんかしなくていい人生を手に入れられるかもしれないっ!!

「ふふっ、面白くなってきたじゃないですか!
今夜の婚約披露の舞踏会で皆様の情報収集と行きましょう!!
個人的な価値観や趣味趣向の情報の把握が急務です!!何が相手の利益となるのかが分かりませんから・・」

「そうだな・・。今日の婚約披露の舞踏会には、全王侯貴族がそろい踏みする場となる。
今夜は僕の動きには制限があるだろうから、エリオスとエメリアに情報収集の任を担ってもらいたい」

カイルは落ち着いた表情で私とエリオスに諭すように伝えた。

その時、トントンと私の背中側の執務室の扉の方からノックの音が聞こえた。


「よーし、お任せください!!早速、今日の婚約披露の舞踏会でみんなに近づいて情報収取をし・・てぇっ・!!?・・・おっ、お母さま!?オーブリーまで・・。こんな所で何してるんです!?」


婚約破棄が現実可能になって感情が盛り上がっていた私は椅子から立ち上がって叫んだ瞬間に、肩をトントンと叩かれた。

私の目の前には、鬼のような形相の母上とその隣で困り果てた表情のオーブリーが立っていた。

「・・・エメリア?今夜の舞踏会の支度があるのだからお昼には王宮から下がるとお約束をして出向いた筈よね??
もう14時を過ぎているのだけど可笑しいわね??
貴方は一体、ドレス選びに何時間かかると思っているんですかっ!?」

「姉さん・・。痺れを切らしたお母さまが、今夜のドレス候補数十点を王宮の客間の方に運び込んであるんだ。
観念して支度をしておいでよ」

「・・嫌よ――!!
今夜の主役はお姉さまとカイル様なんだから・・。私なんてメインディッシュに添えてるニンジンみたいな物なんだか・・イッタタ・・!!」

「お黙りなさい!!いつもそうやって逃げ回って・・。今回ばかりは許さないわよ、絶対に逃がしませんから!!」

私のドレスの首元を掴むと、ズルズルと引きずるように歩き出した。

「ほほほほ・・。では殿下、失礼致しました」

「あ・・ああ。お手柔らかにな、グラディアス夫人」

「お、お母さま!?ご・・ごめんなさい。あの、ちゃんと戻ろうと思って・・痛いいいっ!!髪が禿げますからっ。
落ち着いってって・・イテテテッ!!何ですかこの馬鹿力は??ああっ、すみません・・」

バタン・・。

茫然とするカイルと、エリオスの前でゆっくりと執務室の扉が閉ざされた。

鬼のような形相の母は、青ざめた私をモップのようにズルズルと引きずり倒したまま執務室から着替えに使用することを許可された客間へと連行していった。

数時間後。
母が、鏡台の前に私を立たせて目を輝かせていた。

「まぁまぁ・・。社交界の花と呼ばれたお義母様にそっくりね・・!!
まるで花の妖精のよう・・!!流石私の見立てだわ。まるで女神エメルディナ様みたいだわ!!」


私は濃い宵闇のような深い青色のシルクタフタのドレスに、銀色に輝くミルクティブラウンの髪をハーフアップにして、エメラルドとルビーの髪飾りを挿した。

イヤリングはガーネットと、ネックレスは私のアエキサンドラの瞳の色であるエメラルドと金剛石を使った精巧な物を身に着けていた。

疲れ切った私は、小鹿のようにプルプルと足を震わせながらハイヒールの靴に踵を合わせた。



王宮内の舞踏会の会場はピアノと管弦楽団の奏でる上質なワルツの音楽で溢れていた。


王宮のボールルームには、この国の王侯貴族や、近隣諸国の国賓が招待されていた。
クリスタルが光を集めて、眩い輝きを放つシャンデリアが天井から美しい令嬢や令息たちを照らしていた。

「エメリアは今夜もいつもに増して美しいね。
まるで貴方がこのパーティの主役のような輝きを放っているね。さぁ、お手をどうぞ」

「ノアこそ、王宮騎士団の紋章が輝く青の騎士服が素敵ですね。今夜は、エスコートをどうぞ宜しくお願い致します」

ホールの中央で白に金糸の精緻な刺繍が施されたシャケットと豪華な腕章を身に着けたカイルと、真っ白のシルクの身体のラインがよく出たマーメイドラインのドレスを身に着けている姉のアデレイドが踊っていた。

凛々しい衣装で着飾ったカイルを熱い瞳で見上げているアデル姉さまと、笑顔も浮かべずアデルを視界になるべく入れないようにしている王子を見て唖然とした。

「カイル様ったら露骨ね!?主役なんだから多少は演じないと・・」

姉とカイルのぎくしゃくした様子に気を取られながらも、ノアに手を引かれてホールの中央へと進んでいく。

気が付くとノアに腰に手を添えられて、肩を抱かれた姿勢になっていた。
サラサラの赤い髪を揺らして、青い瞳で私を見つめていた。

ザワザワとした嫌な感覚に悪寒が走っていた。

「エメリアの腰は折れそうなほど細いね。それに君の・・その胸。いつもと違わないか?」

「・・えっ??胸って何の事ですか??」

「エメリアのその大きなハリのある透き通るような白さの2つの芸術的な丸みが・・。
シャンデリアの眩い光に照らされて、理想的な渓谷を作っているじゃないか・・。
ああ、身震いが止まらない。なんて美しいんだろう・・」

ハッと自分の胸元を確認して息を飲んだ。

し、しまった―――・・!!

ドレスを身に着ける際にいつも巻いているサラシをお母さまに見すぼらしいと言われて思いっきり剥ぎ取られてしまったんだった!!

加えて、お母さまお気に入りのスタイルアップのコルセットで、胸元と腰の細さを強調されてしまって信じられない理想的なボディバランスが曝されてしまっているじゃない・・!!

「着飾っている君は・・今まで見たことがなかったから驚いたし、新鮮だった。今夜は、じっくり君だけを見つめていたいよ・・」

「ちょっと・・!?ノア!??妙に近いんですんけどっ・・!!距離と言葉が気持ち悪いんで離れてよ!!そして、出来るならこれ以上一言も喋らないで下さいな!!」


不味い・・。今まで変態の食指に触れないように、いつも気を付けていたのに。

この変態ノアに身体に興味を持たれてしまったら何をされるか分からないもの!!

視線を胸に向けられ、腰と身体を強く抱きしめられた私は両腕で相手の胸を押した。

「エメリア、どうかしたの?離れてしまったら踊りにくいじゃないか?」

上から胸元をじっと見られて、腕には蕁麻疹が現れ始めていた。

気持ち悪い・・。
何で私ってこんなに男運がないんだろう!!

びくともしない強固な身体に、驚いて涙を溜めた瞳を見開いた。

そんな時、強い力で私の腕が引かれた。

誰かに思い切り身体を引きはがされて、次の瞬間・・。シトラスとグリーンマンゴーの爽やかさの中に甘い香りのする白いジャケットに私の顔が埋没した。

「カイル・・殿下??あの、一体どうされたのですか?」

ノアが唖然とした表情でカイルを見上げた。

柔らかく抱き留められた私は、ノアの言葉に目を白黒してゆっくりと視線を上げると全力疾走で駆けつけたかのように、息が整わない様子で睨んでいるカイルの余裕のない表情が見えて目を疑った。

「はぁ・・。はぁ・・・。ノア、すまないが・・。
・・義理の妹である、エメリアとワルツを踊りたいのだが・・。彼女を連れて行ってもいいだろうか??」
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