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異世界。

夜明けの後。

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ズシャッ・・。

真っ青な顔色でよろりと立ち上がる騎士団員の前に長剣の先が向けられる。

「・・す、すいません!!もう一回お願いします!!」

長いポニーテールを靡かせた、黒いマントに、赤い騎士服に白いズボン・・。
黒い長ブーツを身にまとったスラリとした肢体の女性がニヤッと笑う。

「よし!!いい覚悟ね。かかってきなさい・・・。」

青く金色が映える瞳を凛と見開いて、ハキハキとした声で団員を見た。

うっとりするようなその美しさに、団員も一瞬その美に見とれていた。

・・ガッツ!!!


目の前で数メートル吹き飛んだ団員よりも、私の方が突然の目の前の惨状に驚いた。

漆黒の騎士服とマントを揺らしたアルベルトの右足が上がっていた。

蹴り飛ばしたらしく、鍛錬場を囲む塀にめり込んだ団員は未だに動かない。

「・・・馬鹿が!!鍛錬場で女に現を抜かすなんて信じられない。あいつの鍛錬メニューを
倍に増しとけ。ルードリフ。」

金色の髪を怠そうに掻き分けて、不快そうなアルベルトは後ろで真っ青になっていたルードルフ
に命じた。

「あの・・・。倍ですか?そろそろ、肉体的にも精神的にも死んでしまいますが・・。」

「あんな鼻の下を伸ばしてる余裕があるんだろ??やれる。増やせ!!」

苛立つアルベルトをアレクシスとクレイドルは笑って見ていた。

「どうかな・・。私情が入りすぎだよ?団長。」

アレクシスが揶揄うようにアルベルトの肩を組む。

「さっきまで、美月の新しい魔術騎士団のユニフォームに見とれてたろ?
鍛錬上で現を抜かしてたのはどっちだ。」

クレイドルは後ろからアルベルトの髪をグシャグシャにして、微笑む。

「うっさいな!!お前ら、今日は賓客が集うんだから警護頼んだぞ。
王立騎士団より、便りにしてるからな。お前たちの優秀さは、俺が一番知ってるんだからな!!」

団員たちは、ツンデレ気味の団長を見て嬉しそうに顔を見合わせていた。
いつもは鬼な団長が素直に褒めると、倍以上の嬉しさを感じるらしい・・。

「あはははは。・・素直じゃないなぁ。アルベルトはさ。」

アレクシスは苦く笑う。

明らかにドMだらけだわ・・。

私はクスっと笑ってアルベルトと団員たちを見た。

魔術の国、シェンブルグの魔術と武術の優れた者達が集う魔術騎士団は我が国の至宝なのだ。

もっと、普段から優しくすればいいのに・・。

「美月、うるさい。」

頬を少し染めて、プィッと横を向くアルベルトが可愛い。

「はいはい。今日は活躍してもらわなきゃね。宜しく頼むわね!!!」

私の声に、団員たちは大きな声で返事を返した。

そして、おめでとうございますの言葉が鍛錬場に木霊した。

「それにしても、よく今日の朝に稽古なんて・・。美月らしいけど。」

クレイドルは、私を見て笑う。

「起きたらベッドの隣にいなくてな・・。探したら結婚式の朝から兵に稽古つけてる
なんて思わなかった・・。どんな花嫁だよ。」


「朝から体を動かさなきゃ、脳が目覚めないのよ。」

「そういえば、ルナ様が探していたけど??時間大丈夫なの??」

アレクシスが、思い出したようにボヤいた。

「・・・ルナ様??あれ、今何時??」

「7時だけど??」

・・・しまった!!!

ドレス着るのに、1時間以上かかるからって言われてたんだ。

式が10時からなのに、お風呂入って準備したらギリギリ・・。

「おい・・。結婚したくないのか!?普通、こう式の日の花嫁って・・。
「次!!全力でかかって来なさい!!」なんて言って剣振り回していないと思うぞ、普通・・。」

悲しそうに私を見るアルベルトに、笑って一蹴する。

「何よ?そんな私を選んだのは貴方でしょ??普通じゃないとこも愛して欲しいわね。」

剣をヒュッと一振りして、剣帯に戻した私を苦く笑っていた。

「もちろん。どんな美月でも愛してるけど??」

青い瞳を細めて、嬉しそうに笑って私の側へとズンズン近寄る。

私の腰に腕が回されて、一瞬目を見張った。

「・・・な、なぁぁっ。なんで??」

ジタバタ動く私を、楽し気に見下ろす青い瞳・・。

その瞳の青さにドキッと心臓が跳ねる。

お姫様抱っこで担ぎ上げられて、私の額にそっと唇を落とした。

「ちょ・・ちょっと!?何してんのよ??」

暴れる私を気にも留めない団長は、マントを翻した。

「さあ、行こうか。今日の式が楽しみすぎてよく眠れなかったよ。」

揶揄うように、私の青い瞳をジッと見る。

「嘘だ!?だって、朝は爆睡してたじゃない?」

「・・それまで、夜遅くまで美月が強請るから。男としては・・応えたいだろ?」

「な、ななんですって!?ねだ・・強請ってない!!デタラメ言わないでよ!?」

かぁぁぁっと頬を染めた私は、全力で抗議した!!

嬉しそうに微笑むアルベルトを睨み付ける。

「貴方でしょ??寝かせないって言って、寝てる私に・・。何度も何度も・・。
この変態っ!!・・式の前日ぐらい、手加減してよ!!」

「朝稽古なんて余裕を見せるくらいなら、もう一度相手してもらえば良かったな・・。
元気じゃないか・・。今夜は、明日の朝稽古に出れなくなるまでベッドから出さないよ。」

「・・・死ぬってば!!このっ、変態絶倫王子!!」

「あはははは。新しいあだ名が出来たな・・。よく考えつくよな、感心するよ。」

ポカポカ叩く私の攻撃など、蚊が飛んでるぐらいの受け流しで笑ったまま青い瞳を細めていた。

長身に引き締まった体躯のアルベルトは私を抱えたまま、美麗な微笑みを浮かべて
騒ぎ出した兵たちをかき分けて、鍛錬場を足早に去った。

騒ぎ立てる私に、笑顔で騒ぐと口を塞ぐと脅してまんまと黙らせたまま
颯爽とした立ち姿で兵たちの視界から消え去ったのだった。

「・・・すごいな。朝からなんだ・・・。惚気全開だな。」

「牽制したいんだと思うけど??美月の周りは群がる男性だらけだから・・。」

クレイドルとアレクシスが、複雑そうに笑う。

「ま、こっちにいるなら俺たちにもいくらいでもチャンスはあるさ。」

面白そうに笑いながら発されたクレイドルの一言に、アレクシスは驚いて振り返った。

「諦め悪くない?兄さん・・・。」

「・・・・・・・・。」

その言葉に返答はなかった。


クレイドルは去っていくアルベルトを見て嬉しそうに笑っていた。


美しいであろう、ウエディングドレス姿の彼女を思い浮かべて空に輝き出した太陽の光を見た。
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