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メインヒロインの双子の姉(死亡予定)に転生しました。

違和感しかないゲームなんですが

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大学病院の中は今日も館内放送の音や、ざわめく人の話し声が聞こえてくる。

外来の待合いには、予約診療の患者さんや再診の患者さんたちで賑わっている。

「ご記入ありがとうございます。もう少々診察までお待ちくださいね。」

私は、記入用のボールペンを受け取るとにこりと笑顔で笑った。

色素の薄い栗色の髪を1つに結んで、ぺこりと礼を取った。

私は待合ロビーで待っていた患者さんから、書き終えた問診票が挟まったボードを回収していた。

受付にボードを手渡すと、ため息交じりに腕時計の時刻を確認する。

私は当麻真宙とうままひろ
大学病院の児童精神科の心理士として働いている。

次の検査は・・・。

「あっ。当麻先生!?」

まだ数人の患者さんが午後診待ちで長椅子に腰かけたまま待っていた。

私の背後から聞こえた聞き覚えのある声に、私はゆっくりと顔を上げた。

「やっぱり!!・・当麻先生だ!もう、探したんだよ。やっと見つけたー」

「・・な、夏妃ちゃん!?」

後ろから大きな声で自分の苗字を呼ばれた私は、中腰姿勢からゆっくりと身を起こして後ろを振り返った。

「しーっ、ここは外来の待合いなのよ。
患者さんがびっくりするから、大きな声で叫んじゃ駄目だよ。
そりゃあ、夏妃ちゃんがとびきり元気になったのは嬉しいけど・・。」

「当麻先生ってば病棟にいないんだもん!!
今日は病棟にいるって言ってたから・・。焦って、売店まで探したんだから。
今日は先生に会わなきゃ・・。ううん、退院してからずっと先生に会いたかったんだ!」

嬉しそうに制服姿を見せてくれた夏妃ちゃんに思わず顔が綻んだ。

「そうだね、先生も会いたかったよ。探ささせちゃってごめんね。
急遽検査取る予定の心理士さんがお休みになっちゃったのよ。病棟の看護師さんに一応、伝言頼んでおいたんだけどな。」

息を切らして駆け込んできた児童精神科の元入院患者である夏妃ちゃんに向かって、私は困ったように笑いかけた。

「それは・・。急だったんだし仕方ないよ。
それよりも!!先生、聞いてよ!!ついに私、”エメティア”の裏ルートクリアしたんだ!!」

「退院して2週間しか経ってないよ?もうクリア出来たって、すごいじゃない!!
そのゲーム、入院前からハマってプレイしていたゲームだったわね。
退院してプレイするのをずっと楽しみにしていたものね。おめでとう!!良かったね。」


「うん、エメティア最高!!みんな押しのイケメン達だから、めっちゃ楽しかったよ!!
でも、ボーナスステージでバッドエンド回避がない無理ゲーだったんだんだよね。
苦労してクリアしても、どうやったってボーナスステージの戴冠場面でバッドエンドになるんだよね。戴冠式のないルートだとハピエンなのに。
私の押しのコンラッドはセーフだったから良かったけどさ。他ルートは、霧散エンドって・・。
ホント、意味不明!」

退院の時には長かった髪を切った夏妃ちゃんは、ショートカットの健康的な姿で手に持っていたDSを私に向けて画面を見せながら、ヒロインやヒーローが光になって消失する霧散エンドを見せてくれた。

覗き込んで見ると、光がキラッと輝いた場面になると急に画面にバッド・エンドの文字が浮かんで真っ暗になったことに私は驚いて眼を丸くしてしまった。

「このエンド、最悪でしょう?気分が落ち込んじゃってさ。・・・で、今度は先生がこのゲームをプレイしてみて欲しいの。お願い!!」

「ええっ。わ、私が?ちょっと待って!
ゲームとか普段プレイしないよ。ファンタジーとか、ロープレとか昔は遊んでたけど・・。
中学生以来だし?夏妃ちゃんのお友達とかに感想を聞いたらどうかな?」


私の困ったような声に、身を乗り出してニコニコ笑う夏妃ちゃんは嬉しそうに言った。

「簡単だし、先生なら大丈夫だよ!
先生は、何でも出来るもん。
当麻先生なら、主人公たちの気持ちの機微に気づけるだろうしね。だってプロだもん!!」

「きっと、先生なら違うエンディングに出来るんじゃないかと思って。
先生がプレイしてみた感想が聞きたいと思うんだ」

夏妃ちゃんは下を向くと本体からソフトを取り出して、右手に問診票を抱えていた逆の左手を取って握らせた。

「貸しておくね!約束だよ?絶対×2プレイしてね!!」

私は困った表情を浮かべながらも、笑顔の夏妃ちゃんを見下ろした。

「やりこんでいる夏妃ちゃんが、どうやってもバッドエンドになる無理ゲーって私にも無理だよ!
クリアする自信なんて皆無だけど・・。」

「絶対、先生なら大丈夫だよ!!
当麻先生なら、みんなが幸せになれるルートを開拓してくれると思うんだ。
だから・・。絶対プレイしてみてね!
そのゲームの感想をちゃんと夏妃に教えてね。」


にっこりと笑った夏妃ちゃんはゆっくりとそう告げると、手を振って用は済んだとばかりにエントランスに向けて歩み出した。

乙女ゲー?ロープレ入っている魔法物・・。

駄目だ。全然想像が出来ない!!

私は茫然とゲームのタイトルを眺めながら固まっていた。

気づいた時には、夏妃ちゃんの姿は見えなくなっていた。

「もう・・。どうしよう、これ。・・ゲームに心理のプロって関係あるのかな。
バッドエンドの無理ゲーを、ゲーム初心者の私がクリア出来るなんて思えないけどな。」

仕事中にもかかわらず手には乙女ゲームを握りしめたままでボソッと呟いた。

白衣を着たまま、私は差し出されたDSを眺めていた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


パチッ。

「ただいま。」

誰もいない真っ暗のマンションの一室に電気がついた。

靴を揃えて、鞄をテーブルに置くとすぐに洗面所で手洗いをして点滅している留守番電話のボタンを押した。

「・・留守1件です。ピーッ。」
「・・お母さんです。真宙元気?あんた・・。相変わらず薄情ね。」

母の声が部屋に響き渡ると、私は着替えながら留守電に入ったメッセージに耳を傾けた。

「元気にしてるの?あんたから全然連絡もないし、家族に興味がない冷たい情もない娘のくせに・・。
人様のカウンセリングなんて出来るのか私には到底理解出来ないけど。頭が可笑しい人を治して私には理解できないけどね。恨みをかってこっちに迷惑かけないでよ?・・・それに電話もたまには・・  プッツ・・。」

私は、ため息をゆっくりと吐きながら流れていた感情的な言葉を思い出すと、苦く笑って留守電の消去ボタンを押した。

「元気そうだね・・。お母さんは、相変わらずみたい。」

私はコートを脱ぎながら、ふっと笑った。

悲しみも、怒りも不安も何も感じない。

ここは私の安全な場所だから。
耳障りな母の声すら自分の指でかき消すことが出来る。

「さてと、夏妃ちゃんのご所望のゲームをやってみようかな。」

伸びをして、部屋着に着替えた私は夕食に作ったパスタを食べて大好きな紅茶をマグカップに注いだ。


その夜、私は電気を暗くしたままで夏妃ちゃんから受け取ったゲームを始めた。

「エメラルドの涙・・・。通称エメティア。魔法と剣・・。「希望」のファンタジー・・??
バッドエンドになるって聞いているから意味不明よね。」


バッドエンドの無理ゲーと言っていた言葉に頷けるほど、そのゲームの世界は不思議な違和感を醸し出していた。

「何、これ?変・・・。」

言うなれば、心理的不協和。

メインヒロインとヒーローとのやり取りの中に、時折現れる違和感。

チグハグな会話の押収が繰り広げられていた。

人形のようなメインヒロインクラリスと、彼女を取り巻く高位皇族が暮らす魔法世界と、恋愛劇。

「どうして今ヒロインの答えに瞠目した表情を浮かべたの?」

美しく輝く宝石を手にしたヒロインが、ヒーローにかけた言葉にあからさまに不快感を示したヒーロー。
その変化に気がつかない様子のヒロインはスラスラと空気を読まずに言葉を紡いでいく。

ヒーローの瞳に、はにかんだ笑みで話を続けている彼女の姿は全く映ってはいないのに・・。
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