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聖女ルルドの恋模様

音楽祭は奈落の底から①

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死んだふりの心得②

「死んだふりは動かないことで敵への視覚の情報は失われターゲットではなくなる。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おはようございます、アリア様」「ご機嫌よう」
「おはようございます、カリーナ様」「おはようごございます」

新緑が映える爽やかな日差しを浴びて私は空を見上げた。学園生活に慣れてきた5月。
前世の知識や聖女のスペックもあり学問、魔法学、化学、薬草学などを幅広く学ぶハードな勉強についていけていた。
母の職業と同じ医学部を目刺していた私は、名門女子校の特進に通っていたこともあり、魔法学以外は楽勝だった。

ゲーム廃人化していた状況から、早寝早起き生活を送れてるおかげで健康的な生活を取り戻していた。

しかし、毎朝の光景ではあるが、未だ慣れないこともあるのだ。
カリーナと並んで登校する後方から雷のような光がバシャバシャと点滅を繰り返していた。
黄色い歓声と共に、女子生徒達の激しいカメラのフラッシュが焚かれていた。
「きゃー!!クレトス様っ、こちらに視線を下さいな」
「ケイドル様がウインクして下さったわ・・。もう、ああ、心臓が破れそう・・。」「ミラン様、は、鼻血が・・。」
「カイン様、下を向かないで下さいまし!!ああっ、鞄で顔をお隠しになったら金具しか映らない!!」
毎朝繰り広げられている朝の撮影会の風景をチラリと横目で確認した私は王子達の三者三様の応対に目を見張った。

クレトスは欠伸をしながらも、握手に応じていた。
意外と王子しているんだと感心した。

ケイドルは、右斜め45度を保ちながら髪をかき上げてモデルのようにポージングに応じている。
キャットウォークみたいな、腰クネクネ歩きで白い歯を見せる。
・・モデルか!?
本職が解らない!!
投げウィンクと頭ポンのサービス付きな神対応で、もはやお金を取れるレベルのパフォーマンスを見せていた。

「ケイドルは・・。一体何を目指してるのかしら?」
「そういえば、ファンクラブの会員に、公式ブロマイドを販売してるようですわ。商売上手だと感心しましたが、あまりご自身の美貌をひけらかすのも、表舞台に出るのも好まなかったはずですけどね?」

カインは慣れないようで下ばかり見たまま俯いて歩いていた。
時々、クレトスの足に当たって転びそうになっている。
明らかに困っている様子だった。
カリーナによると、写真を取られると魂を抜かれると本気で思っているらしい・・。
鎖国時代の日本男児のような価値観を持っていた。

女子学生が写真を取ると、いつも鞄が制服を着て歩いているような写真になっていた。

「やっぱり・・。王子様が入学して来たら、学園のアイドルになってしまうわよね」
「ええ、皆様一様に大国を背負って立つ王子なのですもの・・。」
「そうよねぇ。カイン様だけは罰ゲームみたいになっていますね。あ、アドルファス様発見」

人垣をするする通りすぎ、直角にターンを繰り返したアドルファスは人にぶつからない距離で巨歩を続けている。
瓶底眼鏡をしっかりかけて背筋を伸ばしたままアドルファスは学園の玄関へものの数秒で駆け抜けていき中に吸い込まれるように消えて行った。

「神業ね。完全に気配が消えてたわ・・。」

「相変わらずの人嫌いですのね。昔はあれらよりも食い千切られそうな勢いで群がられておりましたら、こうなるのも仕方がないと思いますが・・。」

カリーナの言葉に「?」が浮かんだ私は、その意味を聞こうと口を開けると
首に何か重い物が巻き付いてきて眉を顰めた。

「アリアっ!!今日は一つに結んでいるんだ!!今度の音楽祭でアリアのドレスアップ姿を見るのが今から楽しみだよ。そうだ、髪はハーフアップにして後ろに送毛を降ろしてみてよ!!舞台で俺にその送り毛に口づけをさせて欲しいな。あ、イヤリングも僕が似合う物を送るよ。」
「とことんマニアックですね・・。謹んでご遠慮させて頂きます。」
「えっ!?何で何で??どっちもダメ?」
「あははは。変態が過ぎて気持ち悪いよね。
交際相手でもないのに、女性に注文つける男は面倒くさいと思われてしまうよ。」
ケイドルがクレトスに呆れた声を上げた。女子生徒がその横で頬を染めている。その横を歩いていたカインが、苦笑いをしながら「おはよう」と私とカリーナに微笑んだ。

何故、人気No.1の座に輝いていたクレトスはこんなにも残念な変態になってしまったの!?
爽やかなのに中身がマニアックな変態王子って残念過ぎる・・。
女神様にキャラ変の講義を受けたい。そして意義ありを申し付けたい!!
「なんでだよ!!どこが気持ち悪いんだよ?今朝の夢もアリアと音楽祭で並んで拍手を浴びて感極まったアリアに向き合って、送り毛を掴んでキスまでしたのに・・。アリアは喜んで頬を染めて「嬉しい」って!!」
クレトスから繰り出された変態トークの衝撃に真っ青になった私は
足を早めて聞かなかった事にしてすぐさま立ち去ろうとした。
カリーナも「ひっ」と明らかに退いてる悲鳴が漏れでていた。
「君の変態の称号は揺るがないよ。オメデトウ」
クレトスの肩にポンと手を置いたケイドルが、写真にサインを終えて微笑んだ。

「ああ、アリア様が変態の欲望に塗れてしまってお可哀想!!
裏門から入れば良かったかしら。この展開は知っていたから回避出来たのに・・。」

カリーナがため息をついた。
寮生活でもカリーナの隣の部屋になった私は楽しく毎日一緒に登校している。
エキゾチックな顔立ちの美少女であるカリーナは優しくて大らかで自慢の友達なんだけど、最近困ったことが起きている。

「アリア様、そちらの道は危険ですわ!!三階の左翼を廻って音楽室へ参りましょう」
「あっ!!そちらのランチはいけません。Bランチにしないとお腹を壊してしまいますわ!!」
「ジュースはこっちを飲んではいけません!!これにしましょう」

などなど・・。
遠く離れていても何時の間にか飛んで来て私の行動に抑止をかけるのだけど・・。
神出鬼没過ぎて、トイレの個室のドアまでもノックされてしまう始末に恐怖を感じている。
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