61 / 124
恋は混戦模様。
最恐の登場⑨
しおりを挟む
先ほどの会話の衝撃も冷めやらぬ私はガクガクした体を支えながら、戻りが遅い母を案じて探し回っていた。
御手洗いの中も確認し、何処にも母の姿は確認できなかった。
私の足は、ホテルのアーケードショップの廊下まで差し掛かっていた。
母の紫の着物が見えて、声をかけようとすると母の奥に見知った顔が見えた。
「け・・。」
母に慧が交際している事を名乗り出ているのかと不安になり、慌てて割り込もうとしたのだが・・。
どうも様子が可笑しい。
喉から出かかった声をゴクリと飲み込む。
「慧のあんな顔、見たことない・・。何を話しているの?」
見たことのない険しく、冷淡な顔。母のように血が通ってないような凍てついた瞳・・。
私は、背中しか見えない母の様子にも異変を見て取った。
震えるような体、ハンカチで涙を拭う様子・・。
私の視覚に入る情報の全てが信じられなかった。
「美桜?どうした。菫さんと、・・・二条・・!?」
背後から現れた海の手を引いて、急いで私は死角の柱へと身を潜めた。
勢い余って転びそうになった海が抗議するような目つきで私を見る。
「・・おい。」
「しっ!!・・・静かにして。様子が可笑しいの。私、あんなお母様も慧も知らない・・。」
「・・・・・。」
海も黙って2人の様子を見る。
手元にある不安そうな美桜の震える肩をそっと支えた。
「大丈夫だ・・。きっと、大した話じゃない。
交際してるとでも言って言い争ってるんじゃないか。二条の言い方はキツイからな。」
母が取り乱すのを見た事がない私には、大した事がないなんて思えない。
一体何を話しているのか聞きたい・・。
だけど、割って入れる雰囲気ではないのだ。
慧が、話は終えたとばかりに長い脚を進めて歩き出した。
私達は急いで別のルートから、ラウンジへと戻る。
不安な気持ちを抱えながら足早に元いた席へと戻った。
「ごめんなさいね。素敵なジュエリーショップがあって、ついつい手を伸ばして見ていたら遅くなってしまったわ。」
母は、私達が席に戻ってから数分後に現れた。
唇にはしっかり紅が引かれたいつもの母の姿だった。
「いえ、お蔭さまでゆっくり彼女と話せました。それで・・お義母さん、挙式の事はどうしましょうか?
決め事があれば、パンフレットとドレスを合わせるのならそれはこちらで後日調整して行いますし・・。」
「そうね・・。東京にいればドレスショップなんていくらでもあるだろうし。
ドレスはお買い取りさせて頂くし、いくらであっても構わないわ。お金に糸目は付けないから、後は2人に全てお任せするわね。」
ラウンジの従業員が気をきかせて、温かい紅茶を注ぐ。
私は、下を向いたまま言葉を発せなかった。
優しい茶葉の香りとその味に、冷え切った体が温まるようだった。
私の目の前に座した母のカップを持つ手は小刻みに震えている事に驚く。
よく見ると、化粧の意味を成さないぐらい顔が青白かった。
私は、母と話していた時の慧の表情を思い出していた。
感じた事のない種類の不安が大きく広がっていった・・・。
御手洗いの中も確認し、何処にも母の姿は確認できなかった。
私の足は、ホテルのアーケードショップの廊下まで差し掛かっていた。
母の紫の着物が見えて、声をかけようとすると母の奥に見知った顔が見えた。
「け・・。」
母に慧が交際している事を名乗り出ているのかと不安になり、慌てて割り込もうとしたのだが・・。
どうも様子が可笑しい。
喉から出かかった声をゴクリと飲み込む。
「慧のあんな顔、見たことない・・。何を話しているの?」
見たことのない険しく、冷淡な顔。母のように血が通ってないような凍てついた瞳・・。
私は、背中しか見えない母の様子にも異変を見て取った。
震えるような体、ハンカチで涙を拭う様子・・。
私の視覚に入る情報の全てが信じられなかった。
「美桜?どうした。菫さんと、・・・二条・・!?」
背後から現れた海の手を引いて、急いで私は死角の柱へと身を潜めた。
勢い余って転びそうになった海が抗議するような目つきで私を見る。
「・・おい。」
「しっ!!・・・静かにして。様子が可笑しいの。私、あんなお母様も慧も知らない・・。」
「・・・・・。」
海も黙って2人の様子を見る。
手元にある不安そうな美桜の震える肩をそっと支えた。
「大丈夫だ・・。きっと、大した話じゃない。
交際してるとでも言って言い争ってるんじゃないか。二条の言い方はキツイからな。」
母が取り乱すのを見た事がない私には、大した事がないなんて思えない。
一体何を話しているのか聞きたい・・。
だけど、割って入れる雰囲気ではないのだ。
慧が、話は終えたとばかりに長い脚を進めて歩き出した。
私達は急いで別のルートから、ラウンジへと戻る。
不安な気持ちを抱えながら足早に元いた席へと戻った。
「ごめんなさいね。素敵なジュエリーショップがあって、ついつい手を伸ばして見ていたら遅くなってしまったわ。」
母は、私達が席に戻ってから数分後に現れた。
唇にはしっかり紅が引かれたいつもの母の姿だった。
「いえ、お蔭さまでゆっくり彼女と話せました。それで・・お義母さん、挙式の事はどうしましょうか?
決め事があれば、パンフレットとドレスを合わせるのならそれはこちらで後日調整して行いますし・・。」
「そうね・・。東京にいればドレスショップなんていくらでもあるだろうし。
ドレスはお買い取りさせて頂くし、いくらであっても構わないわ。お金に糸目は付けないから、後は2人に全てお任せするわね。」
ラウンジの従業員が気をきかせて、温かい紅茶を注ぐ。
私は、下を向いたまま言葉を発せなかった。
優しい茶葉の香りとその味に、冷え切った体が温まるようだった。
私の目の前に座した母のカップを持つ手は小刻みに震えている事に驚く。
よく見ると、化粧の意味を成さないぐらい顔が青白かった。
私は、母と話していた時の慧の表情を思い出していた。
感じた事のない種類の不安が大きく広がっていった・・・。
0
お気に入りに追加
840
あなたにおすすめの小説
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。
白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる
KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。
城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる