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月夜の抱擁。

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「ロシナンテ・・・。何処へ行っていたのだ?」

尋常ではない、彼の様子から何かあったのではないかと不安だった。

「アウリーテ様と・・・お話しをして来ました。姫には身の危険が迫って
いる事も伝えましたが・・・。
真実を知りたいので、自分の目で人間を確かめるのだと仰っておりました。
私には、もう・・・どうにも出来ないのですね。」

「そうか・・・。アルテミス様のお考えがあっての今の出来事なのだ。
あの方は、アウリーテを通して、海の王国と、地上の王国を試しておる
ような気がする。どちらにしても、神のご意志なのじゃ・・。」

ロシナンテは、静かに黙って王宮を出ていく。

行く場所は一つ・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私はあまりに衝撃な事を聞いた為、何も考えられずに海辺の丸太の上に座っていた。

夕焼けの赤い空は紺碧の海の色と同じように深い青に染まり、三日月が輝いていた。

海中都市「アクエリア」を出て、地上に戻ってから何時間が過ぎたのだろう・・・。

フィヨルド王子が私を殺した・・・。
そう青い髪の人魚が言っていた。
そしてその現場を見た・・と。

「一体どういう事なんだろう・・・。私は、何故殺されなければいけないの?
しかも、自分が泡にされる対象である王子に・・・。」

宙に浮いた言葉に、誰かの視線を感じ振り向く。

「フレイア、こんな所でどうしたの?」

満面の笑顔のフィヨルドがこちらに歩み寄って来る。

・・・・・怖い・・・。

今まで、よく相手の言葉を流して聞いてきたが、この男の笑顔の裏には
冷たい感情が見て取れるのだ。

「君は、クラウスを避けてここに居たの?エリーネも、クラウスもずっと探していたよ?
僕も心配で・・・。」

「フィヨルド様、・・・貴方は・・・私を・・殺したいですか?」

「・・・・フレイア?どうしたの??何故、そんな事を言うの?」

フィヨルドの顔が苦痛の表情で歪められる。

こちらに厳しい表情で近づいて来る。砂の音はザッザッと激しい靴音だけが
響き渡る。

フィヨルドは、私の顔の側まで顔を寄せ言った。

「君を殺したいと言ったら・・・死んでくれるの?私は、二度も君を殺したくないよ。
今度君が死ぬときは、私も一緒に行く・・・。クラウスになんか君に触れてほしくない!!」


・・・この人は一体さっきから・・何を・・・?!

は本当にこの人に殺されたの?

何故だか、フィヨルドの瞳には殺意ではない、別の感情が宿っているように見える。

でも、そうだとすると・・・。

「フィヨルド様は・・、エリーネ姫に好意を寄せて・・・らしたんですよね・・??」

震える声で問う。

「そうだね。 君は、人間になって私の前に現れてくれたけれど・・・。
私との約束は覚えていないようだね?」

「約束?・・・・私は・・・・。」フィヨルドが歩みる寄る度に、一歩ずつ後退していた私は何かにぶつかる。

ガッ。

後ろに下がって行きながら丸太の近くまで来ていた私は足を取られ、砂浜に頭から倒れた。

青い紺碧の海の色が目の前で激しく揺れていた。
丸太に頭を打ち、痛みに耐えていると

フィヨルドは、私に馬乗りになっていた。

月の金色の光が、彼の髪を美しく照らしていた。

私を抱きしめ「愛している・・・。」と呟いた。

目の前の事態が理解出来ない私を、夜の海のように切なそうな目で見る彼の姿に心が揺れた・・・。
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