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2章 魔法使いとストッカー

52 古代呪文は厨

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 翌日、早速アダム様を我が家へお茶に招待した。
 あの説明書きを説明して、私は今、お茶を堪能している。

「… 了解した。ジェシカの言う通り、説明書きは端的にして書き換えておく。しかし、一週間もかからないとは… 古代語は異なる世界の言葉、か」

「はい。しかも日本語と呼ばれる文字です。恐らく賢者も私と同郷で前世を持っていた転生者か転移者か」

「転移者? 召喚魔法のことを指しているのか?」

「えぇ。そんな魔法があればの話ですが。大きな力が働いたのなら神が関わっていたのかもしれませんね」

「そうだな… 今は賢者の謎よりグランド様だ。夏がもうすぐ終わるだろう? あの洞窟から移動されるのにこの魔法陣が必要だとおっしゃったんでな」

「そう言う経緯でしたか。では傷は完全に癒えたのですね?」

「あぁ、そうおっしゃっている。今度は東北の山と言っていたが… ロンテーヌ領を指しているかもしれん」

「え! でも… うちの山? 雪しかありませんよ? あんな所… 住処としてどうなのかしら?」

「私達も詳細は聞かされていないんだ。東北でもどの山なのか… 元々『大山』にいらっしゃった事も知らなかった訳だし。そもそも次の居場所も伏せるつもりなのだろう」

「それで『姿を消す』魔法陣が必要になったのね」

「あと、この呪文だが発音できる者はジェシカ以外にいるのか? 王城の研究者に任せてもいいのだが、果たして合っているのか我々ではわからないしな」

「えぇ、マーサと何故かロッシーニが何とか発音できてました。私はこの通り魔法が使えないので」

「そうか! では後日二人を城へ召喚しよう。で? この呪文は翻訳するとどう言う意味なのだ?」

 あー。呪文の意味ね。それも、何と言うか… 厨二病的な、自分で口にするのは恥ずかしい文言なんだけど。

「こちらの言葉に訳すとですね… 笑わないで下さいね! アダム様、絶対ですよ!」

「ん? 笑う?」

 私は深呼吸してからこちらの言葉で言ってみる。

「『我が両手に聖なる力を宿せ。神に愛されし無を放つ代行者。光と闇が交わる時、我が仮初めの魂は太陽と月から身を隠す。ヴァニッシュ』です」

 アダム様はハテナになっている。

「これが呪文か? 何とも回りくどい言い回しだな。最後の言葉は何だ? 聞いた事がない」

「あぁ、すみません。ヴァニッシュ、つまりは『突然見えなくなる』とか『消える』って言う意味です。多分」

「そうか… そのジェシカの前世は皆このような口調なのか? しかも開発理由が理由なだけに… 賢者のイメージが何と言うか…」

 私は急いで首を横にふる。こんなクサいセリフ、今まで一度も言った事がない。

「イメージ… わかります。それにこんなセリフで普段は話しません。これは何というか、カッコつけている? 自分の世界に酔っているとでも言いましょうか… とにかくこの賢者はゲームっぽくしたかったのかな? う~ん、わからないですが」

「何だそれは、それでは意味のない言葉をカッコつけるのために長々としていると?」

「まーそんな感じです。今度『ヴァニッシュ』だけで発動するか試してみてはどうですか? それは私達も実験してませんので。要は『消えろ』と、唱えればいいんじゃないですか?」

「そうだな、やってみよう」

 アダム様と一通り話し終えると、私はワクワクと話を切り出す。

「それでアダム様? 例の物はどちらに?」

 アダム様は半分呆れながら上等な布に包まれた本を二冊手渡してくれた。

「これは王族が代々受け継ぐ物だ。王個人の所有物である。くれぐれも丁寧に扱ってくれ。他にも魔法陣の巻物の原本が数十個あるが、それは国宝なので持ち出しは出来なかった」

「そんな物が! 私、全部見てみたいです!」

「言うと思ったよ。完璧に解読できるのは今はジェシカだけだ。いずれはその役が回ってくるだろう。この際、学園を卒業して研究者になってはどうか? 古代魔法の研究室には写しがあったはずだぞ」

「研究者か… それもアリだな。でも、私は事情があるので領に引っ込まないと… いや、魔法が戻れば『転移』で通勤できるのか… いやいや、それだと… またはルーベン様の後見人の力を借りてゴリ押ししてみる? う~ん」

「おいおい、心の声が口に出ているぞ。安易にルーベン様を持ち出すな。唯でさえエドがやきもちを焼いてうっとおしいのに」

「やきもちですか?」

「あぁ… ジェシカとの繋がりを何かしら持っていたいんだろう。ロンテーヌに王族は歓迎されていないからじゃないか? 個人的に強固な絆が欲しいとぼやいていたぞ?」

「何それ? ちょっと怖いんですけど」

「あはは、私もそう思うよ。では、誠に大義であった。あと、今回預けた本を翻訳してくれれば褒美を取らそう。では、これで失礼する」

「はい。本日はお粗末様でした。また、お茶会にお誘いしますね、多分、いつか」

 アダム様を見送ると、私は早速部屋へ~と、さっきいただいた本を探す。
 ご褒美ご褒美~。
 
「あれ? どこにいったの? 机に置いておいたのに」

 先ほどまでお茶をしていたテーブルに、例の本がない。なぜに?
 キョロキョロと部屋を探すが出てこない。護衛として部屋に一緒にいたリットやランドにも聞くが知らないと言う。

「どこいったの? まずい! 王の所有物をもう失くした? まずいよ!!」

 足早に私はロダンの元へ。さっき私と一緒に話を聞いていたロダンはお兄様の執務室にいた。
 
「ロダン! 大変! 本が! 本がないの!」

「お嬢様、はしたないですよ。ご主人様の執務室です、ノックぐらいしましょうか?」

「いやいや、話を聞いてた? 本がないのよ。アダム様に先ほど貸していただいた本が! 侵入者の仕業?」

「落ち着いてくださいお嬢様。本はこちらにございます。貴重な物ですし、防犯という意味でも… 今後、この本はご主人様の執務室でお読み下さい。保管も領主部屋に毎度しまいますので」

「え!!! じゃぁ、部屋でゴロゴロしながら見れないってことなの!」

「ゴロゴロなど… 国宝級の本をそんな感じで扱うつもりですか!」

「え? あは? ご、ごめんなさい… いや~、本があればいいの。本はここで読むわ」

 ロダンの頭にツノが見える。これ以上は… 無理だ。とほほ。

「じゃぁ、早速いいかしら? あと、書き写そうと思うんだけど… それもこの部屋からは出せない?」

「ダメです」

「ワカリマシタ」

 私は観念して部屋へ一旦戻り写本用の紙を取りに行く。トボトボと歩く私の後ろでケイトからも小言を言われた。

「お嬢様、もう少しマナーをお願いしますね。自領の城とはいえ、もうお嬢様も学園へ通うご令嬢なのです。城の中は走らないように。たとえ緊急事態でもです」

「… はい」
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