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2章 魔法使いとストッカー

39 領主の行方

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「おはようございます。エド様」

私とロダン、ランド、リットは朝早くから王宮のエド様の部屋に来ていた。

「あぁ、朝からすまんな。こちらへかけてくれ」

エド様は私を座らせると、ドア付きの近衛にアダム様を連れてくるように命じた。部屋にはエド様の他はグレン様がいる。

しばらくしてアダム様が到着し、いつものようにグレン様が『檻』を発動した。

「今日は話したい事があったのだが、まずはジェシカにメンデル領についての話がある。これは一昨日発覚した事なんだが…」

「えぇ」

「実は、メンデル領領主と連絡が取れていない。ジェシカがロッド・メンデルの話をしてくれたから確信出来た事なんだが… 手紙ではやり取りをしていたのでな、領主が健在だと思い込んでいた。今年は騎士団の演習が断られた件もあったし、先日の森の視察の件もある。そう言う訳で影に探らせたんだ」

え~! 領主様が行方不明って事?

「連絡が取れないとは? 具体的には?」

「あぁ。まず個人的な手紙や領政の報告書など、領主が使用する『領主印』が押されていたので気がつかなかったんだが、再度、書類を精査してみた結果、筆跡が微妙に違うと出た。そこで、メンデル領へ影を行かせたんだ。すると、領主の姿がどこにも無いと報告があってな」

「ジェシカ、お前がロッドの事を『勘』でも報告してくれて助かった。礼を言う」
アダム様はエド様に変わり礼をしてくれる。

「いえ。でも、領主が居ないとなると、今まで誰が代わりを?」

「そこなんだ。いつの時点から代わって居たのか… 今早急に手紙やら何やらを調べている。去年の騎士団の演習は、通常通りメンデル領の森へ遠征へ行っていたから、恐らく昨年の夏以降だろうが… 詳細は不明だ」

「そうなんですね。でも、メンデル領では誰もが気づいていないんでしょうか? だって、側近とか領官僚とか居ますでしょう? 誰も気がつかないなんてあり得ます? 成り代わっている者は誰なんです?」

「そこなんだ、誰かも分かっていない。今の所、領主と領主夫人の行方が分からなくてな。しかし、影の報告では『領城内は領主が居ないなど考えられないような普通な・・・時間が流れている』と」
と、エド様は目を抑えながらソファーの背もたれに項垂れている。

ん? 目くらまし的な? 何かの特化が発動している?

「すごいですね… 新たな特化でしょうか? それともメンデル家一族みんなで何か画策でも?」

「わからん。ジェシカ、幸い夏休みが始まるからな、お前は領へ帰るんだろう? 今はメンデルと接触がない方がいい」
アダム様は私を心配してくれているみたい。

「そうですね。これは私にもお手上げです。ってお手伝い出来ませんよ、こんな大事オオゴト

「ははは。それは分かっている。いや、ロッド先生? がきな臭い上にこんな事実がわかった以上、ジェシカには学校を休んでもらおうかと思ったんだが、夏休みが始まって良かったよ」

おいおい、学校休むとか。せっかく対抗戦が面白そうになって来たのに。

「は~、良かったです。クラスメイトとも仲良くなりましたし、対抗戦が楽しみですから… この夏中に手がかりが掴めればいいのですが」

「そうだな… あとは、本題だ」

エド様はソファーにきちんと座り直し、私を見てから後ろのロダンを見る。

「ジェシカ、お前には早急に洞窟へ行ってもらいたい」

「えっ?」

エド様の提案に、私の後ろの3人共がビクッと反応した。

てか、洞窟って? あの石があるあの洞窟?

ルーベン第一王子からの報告で、洞窟の奥に魔獣が居るらしい。何でもひどく傷ついているみたいで大人しいそうなんだが」

「ん? 私とどんな関係が?」

「まず、傷ついている時点でジェミニーに様子を伺わせに行かせたんだ。しかし、ジェミニーの『癒』が効かなかった… そこでジェシカに頼みたい。『腐』を発動させて魔獣を処分して欲しいんだ」

「王様、発言をお許しください」

ロダンはスッと私の横に出る。エド様は片手を振りロダンの申し出を了承した。

「なぜお嬢様なのでしょう? それこそ騎士団の手練れや王族直属の魔法使いが居るでしょう」

「あぁ、ロダン参謀。私達もそれはすでに実行済みだ」
アダム様はやる事はやったと説明している。

「なぜジェシカか… それはその魔獣が何百年も生きているイニシエの生き物だからだ。葬り去るにはそれ相応の力が必要になる。ジェシカは王と並ぶ魔力と『腐』の魔法がある。恐らく葬れるのはジェシカぐらいだろうと結論づけた。エドでも構わないんだが、今は王都を離れる訳にはいかない。承知して欲しい」

「かしこまりました。では、ロンテーヌ領への、21領主への王命ですよね?」

ロダンは引き下がらない。どうにか私を行かせない様に画策している。

「王命では… ない。それは出来ない事は分かっているだろう? 学生にそんな命令を大っぴらに出せる訳がない。ジェシカ、どうにか飲んではくれないか? もちろん連行する者はそちらで決めてくれて構わん。アダムも付ける」

非公式か… うちの保護者達は? とロダンを盗み見る。が、めっちゃ怖い。顔も目も笑っていない。

ははは。どうするか。

「… エド様、もしですよ、もし出来なくてもいいんですよね? やってみて出来ればいいぐらいでいいですか? それなら行ってみます」

「お嬢!」「「お嬢様!」」

「あぁ、もしでいい。ルーベン曰く、それに近づいても敵意は無いそうだ。実際、騎士団達が攻撃しても全く動じなかったらしい。恐らく危険は無いだろう」

「し、しかし… 王様、恐らくその話の内容では、その魔獣とやらはもしかして…」

「あぁ、ロダンの思っているヤツだ」

は~っと大きなため息をつきながらエド様は私を見る。

「ジェシカ、洞窟に行けば魔獣が何なのかわかるが… 先に言っておこう。その魔獣は竜だ」

竜!!!

「うそ! 竜って存在するの?」

私は驚き過ぎて立ち上がってしまった。

「あぁ、伝承では存在するし、実際230年前の記録にも残っている」

「竜って。え~、無理じゃ無いですか? 竜って… 異なる世界でも『竜』は物語で存在していましたが… 私勝てるの? え? え?」

「まぁ、そう焦るな。実際行ってみて出来るかは半々だ。こちらも倒し方など細かく記録が残っていないしな」

「え~… ふ~、わかりました。まずは行ってみます。いつでしょう?」

「お、お嬢様。竜と聞いても行くのですか? これは一旦持ち帰ってから…」

「エド様、すみません。ロダンと話しますね。ロダン、持ち帰っても一緒よ。結局は私が腹をくくるしか次に進まないわ。それにあの洞窟よ。いずれは誰かがどうにかしないと。これはしょうがないわ」

「ですが…」

「誰かがしなくてはいけないのよ。たまたま順番が回ってきたのよ。諦めましょう。それに出来なくてもいいとさっきエド様も言ってくれたじゃない。しかも、竜よ。見るだけでも見てみたいわ」

ロダンは私が決断してしまった事を察したのか、次の展開を思案し出した。

「では、王様、重ね重ね申し上げますが、もし危険があれば現場は放棄でよろしいですね?」

「あぁ、約束しよう。『転移』でも何でも逃げて構わん。ジェシカの命が優先だ」

ここでようやくロダンは後ろへ下がって行った。

「ところでエド様、第一王子様は今は現場ですか? 突然行って驚きませんか?」

「あぁ、洞窟の入り口で待機している。事情も説明済みだ」

「わかりました。では明日、いえ、今日の午後にでも行ってきます」

「お嬢様!」
と、ロダンはエド様達が居るにも関わらず大きな声で私を怒る。

「え~、ロダン、そんな怒らないでよ。失敗してもいいなら、うちのメンバーでいいじゃない? 少数精鋭よ。それこそさっき言った様に、ランドの『転移』で逃げればいいんだし」

「それは、そうですが… ご主人様にも報告しなければ」

「だから、今日の午後よ」

はぁぁぁぁぁぁぁと、大きなため息を思いっきり吐くロダン。もう、王宮に居る事忘れてるんじゃない?

「あはははは、ロダン参謀も大変ですな」
アダム様は他人事の様にのほほんと笑っている。

「宰相様、他人事ではございませんよ。国代表で午後から着いて来て下さいね」
と、ロダンはアダム様をひと睨みし冷たい目線を送る。


「あ、あぁ。そのつもりだ」
アダム様はニコニコ顔が一転、顔が引きつっている。

ふふふ、ロダンに怒られてやんの。って、私もか。これからお兄様の前で怒られるんだろうなぁ。とほほ。
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