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2章 魔法使いとストッカー

31 スミス様からの忠告

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早いもので、今日はロゼ領領主のスミス様のお茶会へ行く日になった。もうすぐ新緑の季節になる。爽やかな風がとても清々しい気持ちにさせてくれる。

「ロダン、あれからずっとエルは休学になっているの。心配だわ。どうしているかしらね?手紙も返事が無いのよ」
ロゼ領領主の王都屋敷へ向かう馬車で、ロダンに新しい情報がないか探りを入れてみる。

「あぁ、あちらは現在、領の内政がごたついているみたいですよ。エルメダ様は恐らく2学期から復学するんじゃないでしょうか?1学期中は難しそうですね」

「そうなんだ。。。第二王子問題よね?ふ~。早く会いたいな~」

うんと一つ頷いたロダンはいつもの様に細い目に変わった。
「それよりお嬢様、対抗戦の参謀問題は順調ですか?全く相談がないので少し心配です。また、突拍子の無い事をしていませんよね?」

「してないわよ!失礼ね!でもね、ちょっと自分でもびっくりするぐらい順調なの。対抗戦って保護者も観戦に来られるのでしょう?ロダンは絶対私達の作戦に惚れ惚れするわよ!ふふふ~んだ」

「へぇ~。ご学友とも仲が良い様で良かったです。それならば対抗戦まで楽しみは取って置きましょう」

そうなんだよね~。あの波作戦が順調に進行しているんだ~。みんな思ったより運動神経もいいから、クラスでは陸サーファーが次々に誕生している。イーサン君渾身の魔法陣で、演習の時に湖の人工波に乗ったりしているんだ。てか、ロッド先生が私達の演習中に、湖の隅でガンガン波に乗って遊んでいるんだけどね。あのサボり教師、何やってんだか。ははは。

「先生にも好評だしね。お兄様にも来て欲しいな~」

「対抗戦には皆で伺いますよ。お嬢様の晴れ舞台ですからね」

やった~!余計楽しみになって来た!って、今からロゼ領主だった。。。



「ようこそ、ジェシカ嬢。あなたの事はアンジェからお噂はかねがね。本日は私のようなオヤジからの招待に答えて下さりうれしい限りです。ありがとうございます。あと、本日は妻と娘は同席しませんがよろしいでしょうか?」
スミス様と奥様、アンジェ様が並んで丁寧に挨拶をしてくれた。

「ええ問題ありません。本日はお招きありがとうございます。奥様とお嬢様がいらっしゃらないのであれば、私の従者を近くに置く事をご了承下さいませ」

「えぇ、もちろんです。妙年のお嬢様ですからね。では、お前達は下がりなさい」
エントランスで一緒に出迎えてくれていた奥様とアンジェ様とはここでお別れ。私は早速応接間へ案内された。

「ジェシカ嬢、改めまして。私はロゼ領領主スミスです。以降スミスとお呼び下さい」

シックな部屋のガラスの棚には、様々な香水が陳列されている。美術館みたいで美しい。この上品な感じがちょっとだけ緊張しちゃう。

「スミス様、こちらこそよろしくお願い致します」
ニコッと笑って、今日は極力話さない事にした。ロダン曰く『ボロが出てはまた余計なオヤジが増える』だってさ。

『どうぞ』と紅茶を勧めてくれ、スミス様は本題に入る。
「ジェシカ嬢。この度は、娘のアンジェとカイ殿の縁結びをしてくれた事、ありがとうございます」

ん?キューピッド的な?何だろう。

「縁結びですか?心当たりが無いのですが。。。」

「娘より花のサボンのアイデアはあなただと伺いましてね。一度お礼がてらお話をしたかったのです」
ニコニコ営業スマイルのスミス様。

「まぁ、そうなんですの?ほほほほほ。そんな大層な事ではないのですけど。ただの思いつきですわ。でも、お役に立てて良かったですわ。こうしてお兄様はアンジェ様と良縁を結べましたもの」

あせる~。

「またまた、ご謙遜を。。。あと、ご存知かもしれませんがあなたのについて、残りの3公爵と2辺境伯の領主は秘密を知っているんですよ。領主のみですがね。ですので妻と娘は本日失礼させていただいたんです」
ニヤッと笑うスミス様。

ロダンが一歩前に出て私の近くに来て牽制してくれる。

「そ、そうなんですね。お兄様からは聞いておりませんでしたわ。教えて下さりありがとうございます。それでは、魔法制約か何か付いているのかしら?」

「ははははは。『そうなんですね』で終わりですか?冷静ですね。。。おっしゃる通り魔法制約がついています。しかも今回は『本人の許可がない限り秘密を知る領主は触れる事を許されない』も付いています。恐らく、先の事件の事などを踏まえて慎重になっておいでなのでしょう。聞かされたのは半年前ですよ」

へ~。エド様、結構考えてくれたんだ~。

「王の寛大な処置に感謝ね。では、私もご存知ならに話しますね。で?本日のご用件は?」

「ククク。切り替えが早いですね。私も崩してもよろしいか?」

私は手で『どうぞ』と返答する。

「本日はあなたに忠告をと思いまして。学校開始前にお誘いしたお茶会が、こちらの都合で本日になってしまって、遅くなった事申し訳ない。もっと早くにお知らせしたかったんだが、実は我が領の隣のプリストン領についてですが」

ん?何やら雲行きが怪しい。ロダンにも聞いて欲しいな。てか、話に入って欲しい。

「スミス様、私の後ろの、このロダンにも話に入ってもらいたいのですがよろしいですか?」

スミス様は頷いて許可してくれる。

「ジェシカ嬢、プリストン領の次期領主が選出されたのはご存知ですか?」

「えぇ。確か次男だったかしら?『光』を発現されたとか?そう言えば学校で会った事がないわ」

「そうなんです。彼は学校へ入学していません。本来なら1年生だ。今、彼は領の『神の家』に隔離されています」

え~!驚きだ。隔離って。次期領主でしょう?

「なぜ、そんな事を?『神の家』って教会の総本部よね?」

「そうです。その総本部が今妙な動きをしています。私の子飼いの報告では、どうやら彼が発現したのは『光』ではなく『癒』だったらしいのです」

そうなんだ!でも隔離の必要あるのか?

「口を挟む事お許し下さい。彼、シモン様は確か薄い水色の御髪だったと記憶にございます」
ロダンは彼、シモン様を知っているみたいだ。

「あぁ。私も幼少のお披露目の時に見た時は水色だった。しかし、それはカツラでは無いかと推測する。特化の確認は本来成人の儀でわかるのだが、『癒』だけは髪色で判断できるからな。。。幼い頃より隠匿していたのだろう」

「そもそもなぜ隠すのです?『癒』なら教会にとっても領にとってもいい宣伝材料になりそうなのに」

「ははは、宣伝ですか。そうですね。イメージアップを図るならそうでしょうが、皆が皆、良心的な思想では無いという事ですよ」

あぁ~。陰謀的な?でも『癒』で陰謀って。何するんだ?

「プリストン家は2代前と3代前に王家の血が入っていますからね。現在の王弟のジェミニー様や亡き王女様のように『癒』が発現してもおかしく無い。しかもこの特化はとても貴重です。使い方次第では膨大な金と権力が手に入るんですよ」

「それならなぜ隠すのかしら?プリストン家は王位でも狙っているの?」

「それはまだ調査中です。。。実は本日お呼びしたのは、年の近いジェシカ嬢が現プリストン領主に狙われていると直接お伝えしたかったのです」

!!!思わずロダンの顔を見る。びっくりだ。年下か?ってそんな問題じゃ無い!

「そ、それは、確かな情報ですか?」
ロダンもびっくりしてちょっと焦っている。

「あぁ、あなたのお爺様の事件の傍聴席でプリストン領領主に質問されたんだよ。昔から隣領で交流はあったからね。『あなたの娘が縁続きになるロンテーヌ領と一席設けてくれないか?下の息子と顔合わせをさせたい』と。その時は、まだあなたの秘密はわかっていなかったが、プリストン領領主はその時から狙っていたのかもしれない」

マジで!

「で?」

「『この事件で婚約話は保留になったので難しい』と答えておいたよ。しかし現在、再度婚約をし直すから、今後また話が来るかもしれない。しかも、今はあなたの秘密もプリストン領領主は知っている。余計に縁を結びたがっているのは手に取るようにわかる」

。。。そっか。そう言う事か。

「そのシモン?様が気になるわ。なぜ隔離なのかしら?あとは、私とくっついた所でプリストン家はどうしたいの?これって王も知っているの?」

「あなたは自分の身をもう少し気にした方がいい!今のあなたにはシモン様の現状は関係ないでしょう?」

えっ!?あれ?また間違えた?

「スミス様、お嬢様はこう言う方です。見た目と精神年齢が合致しておりません。幼いシモン様を心配されているのです」

「もう、ロダンったら。そりゃぁ心配よ、だって、もしその話が本当なら幼い頃より洗脳?とかされてそうじゃ無い?まだ15でしょう?可哀想じゃ無い。でもこの話はシモン様が鍵よね。。。私も関わる問題だったとしても、私は護衛や護身については万全だからあまり気にならないわ。それより、王家とプリストン家の問題が重要よ。それこそ内乱とかにならなきゃいいけど。戦争は嫌だもの」

「そうですね。。。我が領も隣なので警戒はしています。あ~そうそう、王には半年前のあなたのの誓約の際にこそっと報告済みです」

半年前?結構時間がかかってるね。ふ~ん。水面下で誰か動いてるのかな?

「そう、では大丈夫じゃ無い?宰相様もいる事だし」
そうだよ、アダム様もいるしね。でも、先の第二王子の事やマーサの事、加えてプリストン家。アダム様達大変だな~。

「ジェシカ嬢は王と懇意になさっていますから変な事にはならないでしょうが。。。ただでさえ新商品で注目されています。念には念をかけて身の回りをしっかり気をつけて下さい」

「ありがとうございます。気をつけます。それより、私からもお話があるんです。お時間は大丈夫かしら?」

私は気分を取り直して、こちらからの本題の『レターセット』の話をスミス様にした。

「~と言う事で、花のエキスが手に入らないかご相談をしたくて」
一通り話した私はお澄まし顔で紅茶を飲む。

「ほぉ。また新商品ですか。しかし、紙に香りですか。。。エキスの融通云々は置いて置いて、紙の生産を考えるとどうでしょうね?」

「そうなんです。そこがネックになっていて。まだ、私の想像の段階なので具体的に動いてはいないのですよ。もし、融通して頂けるのなら一旦持ち帰って、きちんと形にしてから領主と相談しますわ」

「そうですか。。。こちらも今、二つ返事が出来ません。ご了承下さい」
スミス様は何やら考えている。上手く釣れたかな?

「それは了解しています。高価な特産品ですもの。お返事は後日で結構ですわ」
私はロダンに目配せすると、満足そうに頷いてくれた。ひゃっほい!
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