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1章 ロンテーヌ兄妹

86 新ロンテーヌ

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事件の翌日からは、お爺様の弟のクリス様一家が屋敷を訪ねて来て、慣れないお兄様を手伝ってくれている。お爺様の葬儀は、警備の問題や領に帰れない事など、色々な問題があったので王都の大聖堂で行われる手筈になった。

お兄様は毎日無表情で淡々と領主代行の仕事をこなしている。ロダンも仕事に復帰していた。私も手伝いたいが。。。身体が重くて動けない。私はずっとベットの中にいる。

どうしても私の中の罪悪感と失望感が心を占める。あの時、私がフェルミーナ様を精神的に追い詰めなければ、あの時、ロックウェル伯爵を無下にしなければ。。。いや、そもそも発明なんてしなければよかったのかもしれない。と、その事だけがグルグルと頭の中で回り続ける。

コンコンコン。
「お嬢様。今、よろしいでしょうか?」

ロダンが私を訪ねてきた。

「一人にして」
私が断ったにも関わらず、ロダンはズカズカと部屋へと入って来る。

「お嬢様。お話をしましょう。もう3日も部屋に閉じこもっています。明日はご主人様とお別れの日ですよ」

「一人にして。。。お願い」
私は布団を被りなおす。

「では、私が一方的に話しますね。お嬢様は寝たままで結構ですから聞いていて下さい」

「。。。」

「ご主人様の事は残念です。本当に。。。私とご主人様の昔話を聞いて下さい」
ロダンはベット脇の椅子に座って話し出した。

「クライス様は私の恩人なんです。私はね、お嬢様。騎士団時代にクライス様に目をかけて頂き、参謀まで上り詰めまして。大出世です。若気の至りでしょうか、天狗になっていたのですよ。当時、私の考える戦法は、国境のいざこざで、どれも9割の確率で勝利に導いていたのです。しかし、ある作戦で若者が大勢死んだんです。当時の私は、騎士や兵士をただの駒としか見ていなかった。人の心を考えていなかったのです。それが如実に現れた作戦でした。私は空っぽになりまして、腑抜けのように何日も部屋に篭ってしまったんです。私は寝不足になりましてねぇ。毎晩、死んだ兵士が夢に現れるんです」

私と一緒だ。。。私もフェルミーナ様の腕が腐って溶ける様子が夢に出て来る。。。

「その1週間後、クライス様が私の部屋へ訪ねて来てこう言ったんです。
『明日、自領へ帰る。今回の後始末の責任は私がとった。当たり前だ!私は団長だぞ。お前が考えた戦法だったとしても、私が許可し実行したんだ。お前は悪くない。わかったな?お前は悪くないんだ。。。しかし、それじゃぁお前は気が済まないだろう?何かしらの責任を、罰を自分で受けて償いたいのなら、今すぐ騎士団を辞め私に着いてこい。皆から称賛され羨望されているその地位を捨てろ。ただし、貧乏領地だから何もないぞ。今回の事で少し国に慰謝料を補填しなければならないしな。。。ますます貧乏だ。ははははは。それでもいいなら、私と、私の下でもう一度、次は領民の為に一緒にやり直そう』と」

「だから、今度は私がお嬢様に言いますね。お嬢様は悪くない。見当違いな逆恨みをしたあの二人が悪いんです。そもそもお嬢様を襲ったあのフェルミーナ様が悪いんです。あの捻じ曲がった根性が悪いんです。あなたは悪くない。大丈夫です。あなたを責める者なんて誰一人としていない。カイ様も心配されていましたよ」

私はいつの間にか布団から顔を出してロダンを見つめていた。

「。。。私が発明なんかしなければ。。。私が精神的に追い詰めなければ。。。私が。。。お爺様を。。。」

「違います。お嬢様。何度でも言います。あなたは悪くない!確実に発明で領は豊かになりました。領民は笑っていますよ。あなたは間違ってはいない!」
ロダンはよしよしと優しく頭をなでてくれる。

本当に?私は許されるの?私は笑っていいの?

「大丈夫です。このロダンがいます。今度はお嬢様の側にずっといます」
ロダンは片手で私を抱っこしてくれた。私は思わずロダンの腕を見てしまった。

「まさか!フェルミーナ様が腐らせてしまったの?」

「ええ。腐りきって溶けていましたからね。間に合いませんでした。。。でも、これもお嬢様のせいではないですよ。変な方向に考えないで下さい。悪いのはフェルミーナ様です。お嬢様、間違えてはいけません。お嬢様は被害者なんです」
ロダンはニコニコと笑顔で諭してくれる。徐々に私の沈んだ心が浮上する。

「私は。。。ええ。そうね。ありがとう。ロダン。ありがとう」
ロダンの腕に抱かれて、少しだけ泣いた。

その後、私は部屋を出られるようになり、お兄様にも『忙しい時にごめんなさい』と謝った。お兄様は『心が戻ったようで安心した』と厳しい顔をしていた頬がほころんだ。

それからは、ケイトやエリにも部屋に入ってもらい、みんなと話をして過ごした。少しずつだけど、氷が溶けるよに、お爺様の死を受け入れられてきた。少しだけど笑えるようにもなった。

~*~*~*~

お爺様の葬儀を終えた1週間後、今後のロンテーヌ領を考える領会議が行われた。

お兄様は葬儀の翌日、領主としてすでに申請と登録を終えている。

今日の出席者は、お兄様と私、クリス大叔父様、イーグル叔父様、ロダン、ミラン、ケイト、マーサ、リット、ランド、アークだ。

「まず、俺は。。。私は、今回、領主になったので騎士団には入団しない。このままお爺様の後を継ぐ。今は事業が急成長しているので領主を兼任している暇はないからな。あと、ロゼ領のアンジェリカ嬢との結婚話は延期になった。今、私には知識も力も圧倒的に足りていない。そこで、クリス大叔父様一家には新たに分家に入ってもらい、叔父のイーグル様に領主補佐をして頂く」

お兄様は心なし顔つきが変わったみたい。目元が鋭くなったように思う。

イーグル叔父様が挨拶をする。
「改めまして、イーグル・ロンテーヌです。これからはロンテーヌ姓を名乗りますが分家ですので子爵位のままです。カイご主人様の補佐をいたします。今までは、城官僚として外交庁の執務室に務めておりました。よろしくお願いします。以後は、イーグルとお呼びください。カイ様とお嬢様はくれぐれも『叔父様』と呼ばないようにお願いします」
ニコッと笑ってお兄様の後ろに立った。

「次に、ロダンはジェシーに付いてくれ、ジェシーを支えるように。ミランは引き続き、新商品事業の責任者と王都屋敷の執事を兼任するように」

「「はい」」

「クリス大叔父様ご夫婦には、この王都屋敷に移り住んで頂きます。王都屋敷の家令をお任せします」

「はい、賜りました。ご主人様?大叔父様はなしですぞ!」
ふぉっふぉっとクリス大叔父様は白いお髭を触りながら笑っている。

「あぁ。クリス。あと、これからは警備面を強化していこうと思う。領騎士を増員する予定だ。指揮はリットに任せる。領騎士団と共に王都屋敷にも力を入れるように。騎士の選定はロダンと相談しながらランドも手伝うように。アーク、新しく入る騎士達の身辺調査を怠るなよ。あと、宰相様から騎士の増員を提案されたが断っている。その辺りも視野に入れるように」

「はっ!」

お兄様がさっきから別人みたい。。。怖いと言うより、なんだろう?気迫でそう見えるのかな?

「ケイトとエリは今後入って来る侍女見習い達を鍛えてくれ。あと最低でも1名はジェシーの側につけたい。条件はあとで言う。侍女長はケイトだ」

「かしこまりました」

「マーサはジェシカの家庭教師を兼任してもらう。詳細はあとで話す」

?マーサも私もハテナになったがマーサは『はい』と返事を返している。

てか、結構増えるんだね。お金は間に合うの?

「お兄様、先立つモノがあるのかしら?聞いていたら、大勢増えるようですし。。。大丈夫ですか?」

「あぁ。。。今回、国から多大な慰謝料が入ったから問題ない。私の孫の代まで暮らしていけるぞ」

!!!そんなに!

私が驚愕でみんなを見回しているとお兄様に笑われた。

「ははははは。普通の上流貴族なら1代ぐらいだろうが、私はもともと貧乏気質だからな。倹約すれば3代持つぐらいだって事だよ。それに、この人員は上流貴族の平均だ。心配するな。ちょっと警備に金をかけるだけだ」

なんだよ~。そっかそっか。。。慰謝料ね。

「最後に、今回の事件の審議会が来週王城で行われる。審議内容はすでに決定済みなので、今回は事件の結果を聞きにいく形になる。ジェシー、行けそうか?」

「ええ。皆のおかげで大分よくなりました。大丈夫です」

「そうか。。。では、皆は来週までに新しい仕事の移動と調整をしておくように。あとは、今回の件の保証についての話だ」

イーグルがお兄様に代わって話し始める。
「来週の登城で、非公式ながら審議会の後、国と保障の話し合いが行われます。我が領からは次の事を提案しようと思っております。まず、慰謝料ですが、国の提示額で了承するつもりです。加えて、我々からは向こう5年の貴族税と領主税の免除、ロダンに対しての慰謝料の支払い請求、国からの騎士派遣の拒否、ジェシカお嬢様と王族の個人的な接触禁止です。あと、ロックウェル伯爵家への慰謝料請求と制裁です。取り潰しまたは処刑の上領主交代を願い出ます」

ほうほう、結構強気に出るね。

「これは、最低限の提案です。万一、国側がこれらを提示しなければ、我々は泣き寝入りになってしまいます。保証とは怒りを治める為の代用品ですからね。これらは全て国に要求し押し通すつもりです。次が重要になります」

何だろう?てか、イーグル様って優秀なんだな。外交官って言ってたっけ?

「ジェシカお嬢様の学校入学を1年延ばしてもらいます。現在、対外的には身体が弱いと、社交をしていませんので、その線でいきます。お嬢様、楽しみにしてらしたのに申し訳ございません。しかし、今は休息が必要です。皆と領へ帰りましょう。ご了承下さい」
イーグルは申し訳なさそうに言ってくれたが、私は気を張っていたのか、プシュ~っと身体の力が抜けた。


よかった。もう無理してがんばらなくていいんだ。


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