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1章 ロンテーヌ兄妹

70 冬の領民たち1年目

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「では、行って来るわ。エリは留守をお願いね」

私の部屋にはランド、リット、ケイトの4人が集まった。エリはお留守番。ロダンのお許しが出たので、今日から3日間だけ領へ帰る。

「お嬢様。ロダン様が居ないからと言って、気を抜きすぎませんように!」
エリは先回りして釘をさす。

「大丈夫よ。ケイトも居るんだし」
そう、ケイトはお目付役で付いてくる。。。ぐすん。

「大丈夫だって!なぁ、お嬢」
と、リットも加勢してくれる。

「リット様が一番信用できません」

「ふふふ。エリ、大丈夫よ。私がロダン様より、リット様とランド様の行動を報告する使命を受けてますから、きちんとなさいますよ。ねぇ?お二方?」
ケイトは笑顔で目が座っている。

「「。。。」」

「お返事は?」

「「。。。はい」」
二人ともケイトにも頭が上がらなくなってきたね~。ケイトは本当は怖いことに気づいたかな!私の苦労がわかった?マジで怖いんだから。

「ま~ま~。今から領に帰るんだから、楽しく行きましょう!」

そして私達は4人で手を繋ぐ。エリは部屋のドアを閉めてくれ『どうぞ』と合図をしてくれた。

転移。



着いた先は私の領の部屋だった。白い布がベットや家具にかかっている。

「突然帰って怪しまれないかしら?」

「問題ございません。今回はご主人様とお嬢様、ロダン様まで王都へ行ったので、メイドや下働きは家に帰しております。今この城にいるのはロックとジャックだけになります。古参の使用人達は魔法誓約済みですのでご安心ください。ただ、メイドがいないので少しご不便はかけますが。。。」

「あぁ、いいわよ。私は自分の事はだいたい出来るし。こんな所で貧乏が役に立ったわね」
『もう、お嬢様ったら』とケイトは早速ロック爺の所へ向かって行った。

「お嬢。今日はどうする?まずは部屋の片付けか?」

そうだな~。白い布がかかっているから、埃や掃除は心配ないだろうし何しようかな。

「今、領民たちがどんな状況かダンに話が聞きたいわ。ジャックもいるかしら?」

リットは『了解』とダンを探しに行ってくれた。

「ランドはどうする?自分の部屋へ行く?」

「いや、ここで一緒に待つ」
と、みんなを待つ間にランドと部屋の白い布などを外して回った。


「お待たせ」
と、リットはダンとジャックを連れてきた。その直後、ケイトもロック爺を伴って帰ってくる。

「みんな揃ったわね。ロック爺、久しぶりね。ダンもジャックも。留守を預かってくれてありがとう」

「いやいや、なんて事はありませんよ。皆様が居ないのでする事もありませんし。戸締りぐらいですよ」
久しぶりのロック爺の笑顔が柔らかい。思わず笑みがこぼれる。

「そう?では、ここで申し訳ないのだけれど、色々聞きたい事があるの」
みんなをソファーに座るように促す。

「まず、ダン。領民学校はどんな感じ?」

「はい。お嬢様。冬の手作業場はへちまんと香りの草の乾燥工場を使っておりまして、秋の間に乾かしたへちまんを切ったり、香りの草の粉引きなどを大人たちが作業している隅で勉強しています。現在は、領民の子供のほとんどが集まってきています。ちなみに工場は一日置きに作業をしています。元々、領民には小麦の粉引き作業がありますから、負担にならない程度で、工場も稼働出来る範囲が一日置きでした」

そうなんだ。週に半分半分じゃないんだ。

「狭くない?大丈夫?子供はどのぐらいいるの?」

「狭くはないです。工場が3箇所ありますので、私と読み書きができるサラとハンナに手伝ってもらっています。今は、読み書きだけですが。。。子供の数ですが、3箇所全部で150人ほどです」

ん?あれ?ちょっと少なくない?

「年齢層は?」

「あぁ、そうですね。13歳以上はもう働いているのがほとんどなので、領民も勉強するよりは冬の手作業で稼ぐ方を取ったみたいです。ですので、13歳以下を預かって、7歳から12歳までの子供が150人です。6歳以下は兄弟たちが面倒を見ながら勉強をしている感じですね」

そうなると意外に多いな。1人じゃ無理があるよね。

「6歳以下もとなると大変じゃない?1人で50人とその小さい兄弟たちでしょ?」

「はい。大丈夫です。60歳以上の老人達にも手伝ってもらっています。教える事はできなくても、周りに居てもらって大人達の作業の邪魔にならないように、子供達の監督をしてもらっています。座って孫たちを見ているだけで小遣いがもらえると喜んでいますよ」

へ~。上手く考えたな。

「そう。よかったわ。では、工場には農民がほとんど家族で来てるのかしら?雪なのに大変よね。週に半分半分の方がいいんじゃない?」

「ま~、雪は昔からなので慣れたもんですよ。でも、半分半分にすると、雪の積もり具合でまた一から除雪作業になってしまうのです。一日置きにの方が、道の除雪作業が楽なんです。それに、今までは家に篭ってカゴや小麦引きをしていましたから、それに比べれば工場に来た方がいいと評判は上々です。商業地区の新しい住民達も仲間に入って作業をしたり、子供だけ勉強をしに来たりと、少しずつですが交流も出来るようになってきています」

ミランは何か領民が来たがるようなメリットを付けたのかな?

「何があるの?お給金の他に工場に来て何か楽しい事があるのかしら?」

「楽しい事ではないのですが。。。一日置きでも工場に来れば昼間の暖房代の節約になりますし、人がたくさん居るので冬でも家族以外と話ができて気分転換になるようです。それに、目に届く範囲で子供を預かってもらって、さらに自分は働ける環境がいいのでしょう。家に老人たちを残すのが不安だったり、残す家族がいる家の暖房代を考えると嫌がる人もいましたが、老人達にも『監督役』という仕事を与え、小遣い程度ですが給金を払うようになったら、家族総出で来るようになりました。足腰の弱いものは息子が背負って来ています」

「憩いの場になっているのね。勉強だけじゃなくみんなの為になっているようでよかったわ」

「はい。どうしても冬は雪が積もりますので篭りがちでしたが、今年のみんなは笑顔が絶えなくて本当にいい冬になってます。ミラン様がお昼にスープを配るように手配してくれたのも効果がありました。お昼の時間はみんなでご飯を食べます。スープだけじゃ足りない者は家からパンを持って来たり、芋を持って来たりしています。温かいスープがあるのはとてもありがたいです」

ミラン!ナイスじゃん。給食だよね。家族が揃っていて安心できる環境で、それぞれが得をするって。。。本当にがんばったんだな、ミラン。

「上手く回っているようで安心したわ。ダンも大変でしょうけどがんばってね」
と、ダンは領の為に自分が役に立つのがうれしいそうだ。

「ジャックは?冬は何をしているの?」

「私は、お昼のスープを作っています。なんせ約2000人分ですからね。鍋の数がすごいですよ!メイドのローザや夫人の数人、新しく領民になった食事屋の亭主などが手伝ってくれたりしてます。大変ですが何とかやっています。毎回の事なので、中々メニューを考えるのは骨ですが。。。でも、一日中スープだけに神経を注げられるおかげでレパートリーが増えました。ま~、スープだけですが。料理人として腕が鳴ります!とても充実した毎日です」

「そうなの!数がすごいわね」

大人数オオニンズウの方が食材が多いので出汁もよく出ますし、全体の食材自体の量も一人一人作るより少なくて済みます。領民達にとっても一食分が浮きますからね。お昼はスープの取り合いですよ。ははは。ま~、そこは騎士様などが工場警備でいてくれるので、喧嘩にまではなっていませんが。ははは」
ジャックも楽しんで冬を過ごしているみたいでよかった。

「ジェックはまじめなんです。俺たちは毎回同じスープでもいいのに、きちんと違うものを考えてくれるので、今ではジャックはちょっとした有名人です。弟子入りしたい者もいるようですし」
ダンは肘でコツンとジャックを突く。本人はちょっと照れてるね。

いいじゃん!弟子をどんどん取って、美味しいご飯をみんなで食べよう!お腹が空いてるとマイナス思考になるしね。

「来年は弟子がいてもいいかもね。事業も成功しているし領城や王都屋敷にも人が増えた分、厨房も人手がいるものね。ミランに相談しなくちゃ。二人とも足りないものがあったら遠慮なく言ってね」

「「はい」」

「では、ロック爺。今日の午後はサムを呼んで欲しいのだけれど。急に呼び出しても大丈夫かしら?」

「はい。手紙でロダンから伺っておりますよ。この3日の内に呼び出しがあるかもと本人にも通達済みです」

ケイトは『サム』の名前でわかったらしくそわそわしている。
「お嬢様。ロダン様はこの事をご存知ですよね?」

「ええ。スルーボードの進捗状況を確認して来ると言ってあるわ」
ほ~っとケイトは安堵の息を吐いてた。

「ふぉっふぉっふぉ。お嬢様は相変わらずケイトを振り回しておるようですな」
ロック爺は大笑いだけど。。。相変わらずって!

「そんな事ない。。と思うけど。。。ケイト、いつもごめんね」
そうだ!今のうちに謝っておこう。

「自覚があるなら、お嬢様。お願いしますね」

ケイトは、必死『笑顔なんだけどなんか怖い』で微笑んでくる。



。。。はい。すみません。


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