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1章 ロンテーヌ兄妹

67 デビュタントの夜会3

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メインホールではまだ長い列をなしてダンス待ちをしている令嬢達がいた。まだあんなにいるんだ。ちらほらと、リボンドレスの人がいる。本当に流行ってるんだなぁ。意図してデザインしなかったからかなぁ、うれしいんだけど何だか不思議な気持ちだ。

一方、王子様達はキラキラ笑顔でお相手をしている。すごいな~。ずっとあの笑顔で何人もダンスをするんだよね。体力もそうだけど、精神的にも強いんだろうな~。

「お嬢様。もう着きますよ。よそ見をしないで下さい」
はっ!そうだった。次はアダム様だ。

「あら、失礼」
と、女性とすれ違いざまに肩がぶつかってしまった。

「いえ。こちらこそ。前を見ておりませんでした」
顔を上げると、意地悪そうな熟女がこちらを睨んでいる。

ヤバイのに捕まった?

「あら、誰かと思えば、マーサじゃない」
扇子をこれでもかとパタパタと仰いでいる女性はマーサに話があるようだ。

「お嬢様。申し訳ございません。先にお願いします」
と、マーサは先を歩いていたロダンの方へ促す。

え?でもいいのかな?当たったのは私だけど。。。

「マーサ、失礼じゃなくて?」
にんまり笑顔の熟女は、取り巻きを2人連れてずいっと前に一歩出てきた。やけにマーサに好戦的だな。

「お嬢様。申し訳ございません。少しばかりお時間を頂きます。直ぐ終わりますので。お嬢様、名乗りは必要ございません。お話しせずニッコリしておいてく下さい」
小声でマーサから言われたので、ニッコリして半歩後ろに下がった。

「お久しぶりでございます。奥様。まずは、奥様が名乗るのが順当かと」
マーサは気合を入れて、熟女に負けず劣らずのにんまり顔をした。

「ま~ま~、私からですって?これだから卑しい身分の者は。ね~皆様。だいたい、このメインホールに子爵程度の者がウロチョロするものじゃないわ。いつまでも伯爵夫人気分でいられては、私が笑い者になってしまうわよ。お解かり?」
と、熟女は扇子でマーサをチョコっと突いた。取り巻き達もクスクス笑う。

はぁぁぁ~!なんだあれ?すんごい意地悪だな。これが社交界なの?てか、この人伯爵家って、まさか!マーサの元旦那の家?

「奥様。何か勘違いをされていませんか?私はこちらのお嬢様の付き人として出席しております。伯爵夫人など、名乗った覚えがございません。それに、私を追い出したのは奥様ですよね」
ニヤッとマーサも悪い顔をする。

ようやく熟女は隣にいた私を上から下まで見て目を見開いた。
「。。。まさか。ロンテーヌ公爵令嬢!?」

いきなり、熟女と取り巻き達はバッとカーテシーをする。
「大変失礼いたしました。この者が私にぶつかったのに謝りませんでしたので。。。」

え~っと。ぶつかったのは私だよ。どうするんだこの状況?私は話していいかな?

「え~。お顔をお上げになって下さい。ぶつかったのは私です。お怪我はございませんか?私の方こそ失礼致しました。では、急ぎますので。マーサ?」

「はい。お嬢様。では、ごきげんよう」
これ以上用はないと、マーサがその場を離れようとした時、

「はん。どうせまた、その顔で上位貴族に取り入ったのね。本当に隙間に入るのがお上手な女狐ですこと」
と、マーサに聞こえるぐらいの声でボソボソっと話し、その熟女は去って行った。

おいっ!と私は振り返ったが、マーサに止められた。

「お嬢様。今は宰相様の所へ。お願いします」
マーサは何でもない風に笑って私を促す。

「でも。。。あれはひどいわ」

「いいんですよ。あんなもの放っておけば」

本当に?めちゃくちゃムカついたんだけど。

プリプリしている私は、マーサに手を引かれようやく宰相様の所へたどり着いた。

「アダム様。お呼びとの事。お待たせいたしました。ジェシカ・ロンテーヌでございます」
と、私はほぼ初対面のように挨拶をした。

「いやいや、待ってはおりませんよ。このホールは広いですからね。変な虫に捕まっていましたね~。改めまして、ジェシカ様。アダムと娘のエイダでございます」

「ジェシカ様。お久しゅうございます。この度はデビューおめでとうございます」
キレイなカーテシーを披露するのはエイダ様だ。

「ありがとうございます。エイダ様もデビューおめでとうございます」

「エイダ、ジェシカ様とは学年が一緒なんだ。仲良くしてもらいなさい」

エイダ様は目を見開き、アダム様を見る。
「え~っと。そうなんですのお父様?。。。ジェシカ様、よろしくお願い致します」

何だか気の無い返事だな。いいよ、いいよ。こんなに同級生がいるんだし、気の合わない人もいるよ。お父さんに言われたからって別に仲良くしなくても。

「ほほほほほ。ご縁があればまた」
と、私はアダム様を見て『それで?』と促した。

「あぁ。すまない。こんな娘で」
アダム様は早々に諦めたのか、エイダ様に『もういい』と言うと、エイダ様は向こうの令嬢の輪に入って行った。

「いえ。無理強いは良くないですから。。。それよりも、先程の王女様の件、ありがとうございました。突然の事で驚いてしまいましたわ」

てか、その姫様が見当たらないんだけど。どうなったんだろう?

「いやいや、当然の対処をしたまでです。そこの執事が呼びに来てくれたおかげで、こうしてそなたと話が出来るのだからな。エイダと縁を結びたかったんだが、あれではどの道続きはせんだろう。カエルの子は蛙にならんかったな。ははは」
ニヤリとアダム様は笑う。

自分のこと蛙って。。。娘のこと切るの早すぎない?てか、何?まだ何かあるの?

「ほほほほほ。私なぞに。。。でも光栄ですわ」
は~。何?何?心臓に悪い。

「今日は、誰ともダンスを踊らないのか?」

「ええ。疲れてしまって」

「王子の列には並ばないのか?」

「ええ」

「「。。。」」

「本日はどうされました?何かご用事があったのでは?」

アダム様は歯切れが悪い。何だろう。。。

「いや、何。。。」

???何なのこのオヤジ。もう帰っていい?

「あぁ!こちらに」
と、アダム様が手招きした先には、キラキラ王子がこちらへ向かって来ていた。

うわ~。騙された。会いたくない人リストのトップじゃん。は~。

「ジェシカ嬢。こちらは第一王子の。。。」
アダム様が途中まで紹介すると、王子はおもむろに私の手を取り手の甲へキスをする。

「私は、第一王子のルーベン・フォン・グランドです。よろしく」
営業スマイル!キラン!

ははははは。アダムさんよ~。これは無いんじゃないかな?まだ、あのダンスの列は続いてるよね?

「ご丁寧にありがとうございます。ロンテーヌ公爵家、長女のジェシカと申します。以後お見知り置きを。殿下」
と、目を合わせないように足元を見ながらカーテシーをする。

「実に、かわいらしいお嬢さんだ。アダム、こちらがご令嬢かい?」

アダム様は無表情で頷いている。

って何?

私がハテナになっていたので、王子様が話してくれる。
「いや~。父が。陛下がお気に召したご令嬢がいると言うので、一目お会いしたかったんだ」
と、王子様は爽やかな笑顔でこちらを見る。

チッ。あのオヤジ。。。

耳をダンボにしていた周囲の貴族たちが一斉に私を見てくる。上から下まで何往復するんだよ!ってぐらい見てくる。。。つらい。

「おほほほほほ。誰かとお間違いじゃないでしょうか?宰相様!私、陛下とお話しした事はございませんよね?」
と、アダム様を睨んで見る。

これは一種の賭けだ。私は殿下に対して嘘を言ってしまった。この際『会ってない』で言い通すぞ。アダムさんよ~。不敬にならない様にどうにかしてよ。ほらこの空気、どうすんの。あそこで順番待ちしているお嬢様方が、あんなに遠いのにめっちゃ睨んでくるよ。

王子は手を口に当て、先っきとは違う好奇の目で私を見る。
「あはっ。面白いな。。。そうか、か?なぁ、アダム」

アダム様は目を瞑って、若干青筋を立てている。

「いえ。殿下が間違うはずがございません。他のご令嬢と思い違いをしておりました。申し訳ございません」
アダムは王子に一礼すると私を解放してくれた。最後にギロッと睨まれたけど。

「では、人違いの様ですので御前を失礼致します。私の事はお忘れ下さい」
と、とっとと礼をして帰るぞ。

「いやいや。ジェシカ嬢。間違っていたとしても、これも何かの縁だ。少しお話をしましょう」

いやいやいやいや。王子様!あの令嬢たちの目を見て!あなた待ちなんだよ?

「いえ。殿下のお時間を頂くわけには参りません。まだ、ダンスが残っているみたいですし。。。私なぞ、捨て置き下さい」
礼を崩さないよカーテシーで堪える。早う、あっち行け。

「これはこれは、謙虚なご令嬢だ。では、私とダンスはいかがかな?あの列は弟目当てのご令嬢ばかりですよ。心配いりません」

困った。。。アダム様をチラッて見るが『バーカ』って聞こえそうな顔でニヤけている。

は~。

「恐れ多いことにございます。。。」

「ははは。強情ですね。ま、いいでしょう。まだ、社交シーズンは始まったばかりです。またお会いする事もあるでしょうから、この次はダンスを受けて下さいますか?」
と、王子様に手を取られてしまった。

もう周りは『きゃー』っと、ご婦人方の黄色い声と嫉妬の声が入り混じる。

観念するしかないのか。。。

「はい。またの機会に。ぜひ」
と、小さく返事すると王子はまたダンスの輪に帰って行った。

「「。。。」」
残されたアダム様と私は隣に並び、小さい声でヒソヒソ話をする。

「何がそんなに嫌なのだ?王子だぞ?」
「はぁ?一番関わりたくない方ですよ。おっと、失礼」
「は~。。。お主。欲がないのか?せっかく紹介してやったのに」
「余計なお世話です。あれはお金になりませんよね。領の為にならないものは極力パスです。ご自分の娘さんにどうぞ?」

何だこいつ!と言う顔でこちらを見てくるアダム様。

「次は、権力とか王族とかいらないので、その辺をよろしくお願いします」

アダム様は不思議な生き物を見るみたいに唖然としている。

「では、アダム様。人違いだったようなので失礼致します。ごきげんよう」
私は元気よく挨拶し、ロダンに目配せをしてからその場をさっさと退場した。


なんて日だ。

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