1 / 8
女神アフロディーテ
しおりを挟む
私はふわふわと雲の上に横たわり目をつぶって浮いている。
『気持ちい…久しぶりのフカフカなベットだわ』
私はここ数日間の暗くてジメジメした牢屋を思い出した。
『あれ? 私… 死んだのよね?』
寝ていた私はそっと起き上がり周りを見渡す。はねられた首もくっついているし。服も血で染まっていない。
どこまでも続く白い雲海。本当にどこだろう? 天国? ってまさか~。
現在、当の私は浮かびながらどこかへ運ばれている。と思う。だって、浮かんでいるけど身体が勝手に移動しているから。しばらくその場に座ってされるがままにしていると、眩い光の中へ身体は進んで行った。
目も開けられないほどの光の中で、私は目をつむって両手を顔の前で組む。
「…さん。ミシェルさん。目を開けて」
優しい声が私に語りかける。私はそっと目を開けて前を見た。
円状の机に女性が五人。私を含めて六人椅子に腰掛けている。私もいつの間にか座っていた。
「ミシェルさん。ようこそ。私は女神のアフロディーテ。よろしくね。あなたが最後よ。これで全員揃ったわ」
女神? のアフロディーテ様が微笑むと私を見ていた皆がそちらを向く。
「ではまずは説明を。あなた達はなぜここにいるのか疑問に思っているでしょう?」
誰も一言も話さない。じっと女神様の話を聞いている。
「ここに集められたのは、物語で死ぬ運命だった者達ばかりです。そして、ここはその死後の世界といった所かしら。あなた達は物語で言う所の『悪役令嬢』と言う登場人物です。ここまででご質問はありますか?」
女神様はふわっと微笑む。背景にお花畑が見える様。
いつの間にか目の前には紅茶が置かれている。湯気が美味しそうな香りを漂わせている。
ごくり。
久しぶりのお茶だ… 飲みたい。私はそっと周りを見渡す。でも誰もお茶を飲もうとはしない。
「よろしいかしら?」
私の右隣の女性が女神様に質問する。
「どうぞ」
「物語とは? この集まりの意図が読めないわ」
つ~んと気の強そうな雰囲気がその女性から感じられる。
「あら、そうね~。率直に言うとあなた達は小説、物語の中の人なの。実際の生身の人間ではないのよ。死んだ事実があるでしょうけど… 不思議よね」
ん? どう言う事?
「のぅ。では、我らは生きた人間ではないと言う事かぇ? 物語の中で演じていたと? 人形か何かなのか?」
女神様の左隣の人が質問する。ちょっと服が独特だな。外国の人かな?
「人形… そうね~人形ではないの。どう説明したらいいのか… ただ、生きた人間ではないの」
生きていない? ではなぜ死んだりしたの? ん?
「妾は死ぬ以前、感情も痛みも感じていたが? それはただの物語の一説だと言うことかえ?」
妖艶な美女が『ふん』と少し怒ったように言い放つ。
「そうよ。物語での出来事よ」
私は様々な美女にタジタジだ。なんで私がこのメンバーに選ばれたんだろう? 私は意を決しておずおずと手を挙げて質問する。
「め、女神様。では、私達の体験した人生は物語で、実は存在しないと言う事でしょうか?」
「違うわ。あなた達は存在するの。でも、今はまだ存在していないわ。これからその事をお話しするわね」
皆は黙って女神様の話を待つ。ごくり。
「あぁ、お茶が出ているわ。さぁ、召し上がって下さいな。では、あなた達が集められた目的をお話しするわね。まず、あなた達は物語の登場人物で死んだ体験をしたご令嬢達。悪役令嬢と言う役を全うした人ね。私はそんなご令嬢達を集めて死んだ経緯、なぜ死んだのかを聞きたいの」
「ふっ。趣味が悪いわね」
誰かがボソッと愚痴る。
「ふふふ。そうかもしれないわね。でもね、あなた達は死ぬ間際『なぜ?』と思わなかった? もし、人生をやり直せるならどうしたい? そうよ、私は皆さんを集めた理由、それはあなた方が歩んだ物語を私は知っている。でもそれは主人公側から見たお話なのよ。だから、私は相手側、つまりあなた達ね。あなた達側から見て感じた話を聞きたいと思ったの」
…
本当に悪趣味ね。今から死んだ時の話をしろって? 私は若干腹を立たせながらみんなの様子を伺う。
「物語って主人公側だけの主観が強いわ。それが正義だと思われがちだけど、登場人物の全員、一人一人にささやかながらも人生があるし、感情もあると思うの。だから、まずは、物語の主役の反対、悪役令嬢にスポットを当てたのよ」
「では、私達の人生で感じた気持ちを知りたいと?」
「そうよ! そして、一番心打たれた方を物語の最初に戻してあげようと思うの。その死んだ記憶を持ったままね。今度は実際に存在する、お話の物語ではない、現実世界へ」
ふふふ、と女神様は微笑みながら紅茶をすする。
ある人は考え込んでいる。ある人はニヤッと笑い、ある人はブツブツと何かを言っている。ふと隣の人を見ると、すました顔で女神様と同じように紅茶を飲んでいる。
私は… どうしよう。そんな事がはたして可能なの? 生まれ変わる? 違うな、同じ人生をやり直す? か。は~、あの人生をやり直すの? また死ななければならないの?
嫌だ。
「あの~、女神様。拒否権はありますか?」
私は話したくないと申し出る。
「ええ、いいわよ。でも、やり直すチャンスじゃない? 同じ人生にならないようにがんばってみるとか。話すだけでもどうかしら?」
そうは言っても… 復讐する? 全く違う性格になる? やり直すのって案外いいのかな? いやいや、また同じ事になったら? 怖い。考えるだけでも怖い。
でも… 話してみてから考えてもいいのか。もう死んでるんだし。
「みなさん、心は決まったかしら? では、話したくない方はいる?」
女神様は自信があるようで、誰も棄権しないのをわかっていた様にみんなを見渡しながらニッコリ笑顔だ。
「いないようね。では始めましょうか」
バッと、急に女神様が立ち上がる。すると女神様の頭上から垂れ幕がゆっくり降りて来た。
「皆様お待たせいたしました。これより、第三回悪役令嬢大会『誰が一番つらかったか』選手権を開催いたします。司会は私、アフロディーテが務めさせて頂きます。審査は話し手でもある皆様と私。ではこれより開幕です」
ババ~ンと垂れ幕には『第三回悪役令嬢大会『誰が一番つらかったか』選手権』と書かれている。女神様はしてやったりのドヤ顔だ。
ははは。呆れて乾いた笑いしか出てこない。三回目って。
こうして私は、死んだ後に謎のお話会に参加する事となった。
『気持ちい…久しぶりのフカフカなベットだわ』
私はここ数日間の暗くてジメジメした牢屋を思い出した。
『あれ? 私… 死んだのよね?』
寝ていた私はそっと起き上がり周りを見渡す。はねられた首もくっついているし。服も血で染まっていない。
どこまでも続く白い雲海。本当にどこだろう? 天国? ってまさか~。
現在、当の私は浮かびながらどこかへ運ばれている。と思う。だって、浮かんでいるけど身体が勝手に移動しているから。しばらくその場に座ってされるがままにしていると、眩い光の中へ身体は進んで行った。
目も開けられないほどの光の中で、私は目をつむって両手を顔の前で組む。
「…さん。ミシェルさん。目を開けて」
優しい声が私に語りかける。私はそっと目を開けて前を見た。
円状の机に女性が五人。私を含めて六人椅子に腰掛けている。私もいつの間にか座っていた。
「ミシェルさん。ようこそ。私は女神のアフロディーテ。よろしくね。あなたが最後よ。これで全員揃ったわ」
女神? のアフロディーテ様が微笑むと私を見ていた皆がそちらを向く。
「ではまずは説明を。あなた達はなぜここにいるのか疑問に思っているでしょう?」
誰も一言も話さない。じっと女神様の話を聞いている。
「ここに集められたのは、物語で死ぬ運命だった者達ばかりです。そして、ここはその死後の世界といった所かしら。あなた達は物語で言う所の『悪役令嬢』と言う登場人物です。ここまででご質問はありますか?」
女神様はふわっと微笑む。背景にお花畑が見える様。
いつの間にか目の前には紅茶が置かれている。湯気が美味しそうな香りを漂わせている。
ごくり。
久しぶりのお茶だ… 飲みたい。私はそっと周りを見渡す。でも誰もお茶を飲もうとはしない。
「よろしいかしら?」
私の右隣の女性が女神様に質問する。
「どうぞ」
「物語とは? この集まりの意図が読めないわ」
つ~んと気の強そうな雰囲気がその女性から感じられる。
「あら、そうね~。率直に言うとあなた達は小説、物語の中の人なの。実際の生身の人間ではないのよ。死んだ事実があるでしょうけど… 不思議よね」
ん? どう言う事?
「のぅ。では、我らは生きた人間ではないと言う事かぇ? 物語の中で演じていたと? 人形か何かなのか?」
女神様の左隣の人が質問する。ちょっと服が独特だな。外国の人かな?
「人形… そうね~人形ではないの。どう説明したらいいのか… ただ、生きた人間ではないの」
生きていない? ではなぜ死んだりしたの? ん?
「妾は死ぬ以前、感情も痛みも感じていたが? それはただの物語の一説だと言うことかえ?」
妖艶な美女が『ふん』と少し怒ったように言い放つ。
「そうよ。物語での出来事よ」
私は様々な美女にタジタジだ。なんで私がこのメンバーに選ばれたんだろう? 私は意を決しておずおずと手を挙げて質問する。
「め、女神様。では、私達の体験した人生は物語で、実は存在しないと言う事でしょうか?」
「違うわ。あなた達は存在するの。でも、今はまだ存在していないわ。これからその事をお話しするわね」
皆は黙って女神様の話を待つ。ごくり。
「あぁ、お茶が出ているわ。さぁ、召し上がって下さいな。では、あなた達が集められた目的をお話しするわね。まず、あなた達は物語の登場人物で死んだ体験をしたご令嬢達。悪役令嬢と言う役を全うした人ね。私はそんなご令嬢達を集めて死んだ経緯、なぜ死んだのかを聞きたいの」
「ふっ。趣味が悪いわね」
誰かがボソッと愚痴る。
「ふふふ。そうかもしれないわね。でもね、あなた達は死ぬ間際『なぜ?』と思わなかった? もし、人生をやり直せるならどうしたい? そうよ、私は皆さんを集めた理由、それはあなた方が歩んだ物語を私は知っている。でもそれは主人公側から見たお話なのよ。だから、私は相手側、つまりあなた達ね。あなた達側から見て感じた話を聞きたいと思ったの」
…
本当に悪趣味ね。今から死んだ時の話をしろって? 私は若干腹を立たせながらみんなの様子を伺う。
「物語って主人公側だけの主観が強いわ。それが正義だと思われがちだけど、登場人物の全員、一人一人にささやかながらも人生があるし、感情もあると思うの。だから、まずは、物語の主役の反対、悪役令嬢にスポットを当てたのよ」
「では、私達の人生で感じた気持ちを知りたいと?」
「そうよ! そして、一番心打たれた方を物語の最初に戻してあげようと思うの。その死んだ記憶を持ったままね。今度は実際に存在する、お話の物語ではない、現実世界へ」
ふふふ、と女神様は微笑みながら紅茶をすする。
ある人は考え込んでいる。ある人はニヤッと笑い、ある人はブツブツと何かを言っている。ふと隣の人を見ると、すました顔で女神様と同じように紅茶を飲んでいる。
私は… どうしよう。そんな事がはたして可能なの? 生まれ変わる? 違うな、同じ人生をやり直す? か。は~、あの人生をやり直すの? また死ななければならないの?
嫌だ。
「あの~、女神様。拒否権はありますか?」
私は話したくないと申し出る。
「ええ、いいわよ。でも、やり直すチャンスじゃない? 同じ人生にならないようにがんばってみるとか。話すだけでもどうかしら?」
そうは言っても… 復讐する? 全く違う性格になる? やり直すのって案外いいのかな? いやいや、また同じ事になったら? 怖い。考えるだけでも怖い。
でも… 話してみてから考えてもいいのか。もう死んでるんだし。
「みなさん、心は決まったかしら? では、話したくない方はいる?」
女神様は自信があるようで、誰も棄権しないのをわかっていた様にみんなを見渡しながらニッコリ笑顔だ。
「いないようね。では始めましょうか」
バッと、急に女神様が立ち上がる。すると女神様の頭上から垂れ幕がゆっくり降りて来た。
「皆様お待たせいたしました。これより、第三回悪役令嬢大会『誰が一番つらかったか』選手権を開催いたします。司会は私、アフロディーテが務めさせて頂きます。審査は話し手でもある皆様と私。ではこれより開幕です」
ババ~ンと垂れ幕には『第三回悪役令嬢大会『誰が一番つらかったか』選手権』と書かれている。女神様はしてやったりのドヤ顔だ。
ははは。呆れて乾いた笑いしか出てこない。三回目って。
こうして私は、死んだ後に謎のお話会に参加する事となった。
1
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!
冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。
しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。
話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。
スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。
そこから、話しは急展開を迎える……。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました
桃月とと
恋愛
娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。
(あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)
そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。
そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。
「復讐って、どうやって?」
「やり方は任せるわ」
「丸投げ!?」
「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」
と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。
しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。
流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。
「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」
これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。
悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ
奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心……
いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる